写真と畜生


意地悪く笑う、其の目が堪らない、そう女は思う。何時も、厭らしく笑みを蓄えては居るが、彼女を見る時の彼の目は、意地悪さを含む。
彼の部屋で、一つ気になる事がある。
枕元にある棚の、写真立て。
何時も何故か、寝ている。此れでは写真立てでは無く、写真寝具だ。そう彼女は思う。
彼の此の写真立て、彼女が居ない時には、きちんと立っている。だから矢張り、写真立てなのだ。彼女は其れを知らないだけ。
其処は、彼女が足を踏み入れる事の出来ない領域。
彼の、大切な領域。
決して汚される事の無い、領域。
何度か見様と試みた事あるが、手を伸ばし、何時も其処で引き返す。何故か、触れる事が出来ないのだ。
一体其処に何があるのか、どんな秘密があるのか、知れば彼を本当に知れるかも知れない。けれど、出来ない。
強い何かが、彼女の手を弾くのだ。尤も其れは彼女の幻覚で、実際そんな事は無い。
写真の中の者か、寝かせて迄見せ様としない彼の念か。
彼女は、決して触れる事は出来なかった。




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