写真と畜生


昼寝をした。何だか眠くて、寝た。そうして気付いたら、明るかった空が、どっぷりと暗い闇の中で薄い月光を纏っていた。
勘違いしていた。
何時もの様に左腕を伸ばし、時計を捜す。
私は、俯せで寝る。彼は、仰向けで寝る。
だから棚は、右側にある。私の部屋もそうなっている。
枕に顔を埋めた侭、寝ている間に少し下に移動したのか、棚に手が届かない。乱暴に手を動かし、大きな音に私は身を起こした。
「しまった…」
そうして、自分が自分の部屋に居ない事を思い出した。自分の物なら未だしも、彼の物を落としてしまった。慌てて床に目をやり、心臓が強く鳴った。
写真立が、落ちている。背を向けて。
心臓の鼓動が、身体を支配した。偶然、見てしまった事にしようか。いやいけない。兎に角時計と写真立を棚に戻さなければ。
時計は、すんなり置けた。けれど、写真立に触れる事が出来ない。指が震えている。
「起きたか。」
後ろで声が聞こえ、悲鳴を殺した。不自然に身体を捩っている私に、彼は少し眉を上げた。
「何してんだ、御前。」
「いえ…時計を落としてしまって…」
けれど時計は其処にある。そうして、其の前に必ずある写真立が無い事に彼は気付き、大きな歩幅で近付いた。身を屈め、床に落ちている写真立を取り、確認すると、安堵の息を漏らした。割れてはいない様で、私も安堵した。
「御許しを…」
「良いって。置いてる俺が、悪いんだから。」
そう、貴方が悪い。
見られたくない癖に、此れ見よがしに置いている貴方が。
嫉妬の業火が、燃える。



嗚呼…
憎たらしい 畜生だよ。




*prev|2/2|next#
T-ss