修羅の音色


「光が、欲しいんだ。」
「光…」
「俺の座る場所に、光が無いと駄目何だ。」
顔に射す光を眩しそうに見る木島さん。其の顔は、長年会いたかった人に会う様な顔をしている。
ケースを撫で、笑う。とても辛そうに。
「本邸の部屋には光が差し込ま無い。俺の部屋も父さんの部屋も、時一も兄さんも。光の差し込む場所は本妻と、時恵の部屋だけ。けれどな。」
ケースの鍵を開け、中を覗く。辛さと懐かしさが混ざる目。
「兄さんの部屋だけは、何故か一ヶ所だけ差していた。」
ケースの中から取り出された其れは、矢張り考えていた物だった。
とても美しい艶を持つ、ヴァイオリン。
「兄さんが弾くピアノの周りだけ、光が差してたんだ…兄さんは、日光はピアノに悪いって、親父の陰謀だって嫌ってたけど…けど俺は羨ましかったんだ。俺の部屋は、本当に暗かったから。だから俺は何時も…其の傍で…弾いてたんだ…」
弦の震えに、剥製の目が揺れた気がしたのは、其の音の所為。不安と哀愁が混ざる不思議な音。
木島さんの目が、濡れていた。
目が揺れ、音が揺れ、唇が揺れる。そうして私は、世界で一番綺麗と思う物を見た。
木島さんの白い肌に滑る、光る涙。
弾くのを止め、木島さんは顔を押さえ、咽び泣いた。
「宗一に会いたい…会いたいよ。」
其の声は、私が今迄で聞いたどんな音よりも美しく、悲しい音だった。




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