修羅の音色


銃は何だか、とても魅力的に私には見えたのだ。此の色、艶、重量に形。とても綺麗で、心が奪われた。
「此処が撃鉄。最初に此処を倒す。すると弾倉が回転し、弾が設置される。そして引き金を引く。」
かちんと乾いた音がし、何の変哲も無い。
「此れで、終わりですか?」
「嗚呼。」
呆気無い。弾は入っていないとはいえ銃。何だか玩具に見える。
「此れがシングルアクションだ。矢張り軽いな。」
引き金を引く時が軽いらしく、木島さんは自分の銃を手に持つ。
「俺のはダブルアクション。」
「違いは。」
「まあ見ていろ。」
動きが、微かに違った。撃鉄を倒す事無く引き金を引き、かちんかちんと合計六回続けて鳴った。
「其方は、撃鉄を倒さないのですね。」
「其の分引き金を引く力を要する。」
すると木島さんは何を思ったのか弾倉に弾を詰め、大佐に窓を開ける様命じた。
「元帥?」
怪訝な顔を向ける大佐を窓から離し、木島さんは窓に銃口を向けた。
「此れが、陸軍元帥の威力だ。」
そう云うと同時に引き金を引いた。矢張り同じ様に続けて。違うのは其の発砲音。一発目で鼓膜が震え上がり、私は目と耳を塞いだ。何時迄も耳鳴りがし、痛い。撃った本人は、矢張り慣れているのか涼しい顔を窓に向ける。
驚いたのは其の後だ。
在の重い銃を、片手で撃っていたのだ。細い其の身体の足元は微動もせす、撃った事さえ疑わしい。
「…………げ…元帥っ!」
壁に張り付いていた大佐は血相を変え、木島さんから銃を取り上げた。
「危ないでは無いですかっ!」
「そう怒るな大佐。」
木島さんは窓に近付き、目の前に繁る大木に目をやり、満足の笑みで頷く。
「良し。」
変わった。先程迄は光が差し込ま無かった椅子と机、其れからケースに、真直ぐな光の線が通る。
「ずっと腹が立ってたんだよ。此の枝。大佐に幾ら云っても切り落とす気配は無いし。」
「枝?」
綺麗な形で枝は撃ち折られている。狂いも無く、一ヶ所を撃った証拠だった。
「しかし、こんな乱暴な…」
そう、別に枝はあっても良い筈。寧ろ枝があった方が夏は良い。冬は嫌だろうが。
木島さんが撃った枝は、本当に光を遮っていた。木島さんが座る場所だけを。
「駄目何だよ、枝があると。」
「しかし、枝の一本位…」
私の元帥室の後ろには、こんな大木は無い。真後ろは壁では無く、殆どが窓硝子だ。理由は、直ぐ真後ろに軍港があるから。御蔭でカーテンを閉め無ければ直射日光を浴びる結果になる。
私にして見れば、其の大木は羨ましく、枝位なのだ。しかし木島さんは違う。
「駄目何だっ」
厳しい声で云い、椅子に座る。私は其の声に辛さを覚えた。




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