出会い


「子供が居たら一箇所に纏めて俺に知らせろ。」
車から降り、銃倉に新しく弾を詰めると拓也は周りに云った。
「刃向かう女男は好きにして良い。けど、子供にだけは絶対手を出すな。」
振り向きもせず其れだけ云うと手を振った。一斉に散り、拓也は一人で一軒一軒見て回った。軍が怖くて逃げたのか、其れとも既に命さえないのか。回った家に人影は見当たらない。
「遅かったか…」
煙を吐き、空を見上げた。どんよりと重い灰色の雲。雨は降りそうにないが、此の雲の所為でか風が冷たい。冷たい髪が顔に纏わり付き、拓也は其れを払った。
最後の一軒の前で煙草を地面に落とし、砂と靴底が合わさる音が、妙に響いていた。
豪く大きい屋敷で、多分此の家は、此の村の長の家だろう。閑散とした寒さが流れ、居ないだろうと門を開けた。
家の中は酷く荒れ、金目の物は全て奪われていた。無数に広がる汚い足跡。そうして、妙に嫌な臭いがした。充満しているのではなく、こびり付いた乾いた臭い。
「誰か居るか。」
屋敷に声が反響した。
「居ないか。」
踵を返した時、微かだが物音が聞こえ、拓也は銃を構えた。
「居るなら出て来い。」
足音を悟られない様に静かに物音のした方に近付く。壁から少しだけ顔を覗かせ、様子を伺った。確かに此処から物音がした筈なのだが、鼠一匹見当たらない。風が入り込み、気の所為かと銃を下ろした。
又、物音。
此処から少し離れた台所から音は響いていた。場所から考え矢張り鼠だったかと、拓也は銃を仕舞った。
暗い台所は一層寒さを増し、鳥肌が立つ。ゆっくりと近付き、違う理由で拓也は全身に鳥肌を立たせて。
台所の隅に、小さく身体を寄せている子供が居た。拓也は慌てて近寄り、子供の身体を揺すった。
「おい、生きてるか?おい。」
何度揺すっても反応は無く、床に伸びている腕に力は無く、枝の様に揺れる。死体で無い事は、触った体温で判った。息はあるが、大概衰弱しており、項垂れている顔は青白く、窶れていた。頬骨が浮きで、唇も乾燥し、息をしている事の方が不思議だった。
ふと視線を外すと、少し離れた場所に変な塊があり、其れが赤ん坊の変わり果てた姿だと知ると拓也は胃に熱いものを感じた。既に干からびており、死後から相当な時間を思わす。
此の子供は、ずっと此の傍に居たのだろうか。入った時に感じた異臭は、そうか此れだったのかと、拓也は子供を揺すった。考えるに、此の子供は此の赤ん坊の兄弟なのだろう。其の兄弟が腐り、干からびていく様を見るのはどんなに酷かったか。
揺すっても反応を示さない子供の身体を抱え、其の赤ん坊の死骸に軍服の上着を被せた。




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