汝、琥珀


私は、重大な罪を神から頂きました。全く此れは、素晴らしい事です。
私は、彼の子を身篭りました。
そうして、彼に奪われました。
此れで良いのです。
彼を愛せなかった、私が悪いのです。彼の手を離した、私が悪いのです。
なのに何故でしょう、何故神は私を愛して下さるのでしょう。

私は、全く櫻を愛せなかった。

母と同じ事を、私は感じていました。
奪われて良かったと、心の何処かで思っているのです。
櫻は、余りにも彼と似ています。
愛せる訳がありません。
乳を与える事はしましょう。けれど其れだけで、私は櫻を避けておりました。抱く事が、禄に出来なかったのです。
まるで人形の様に、私は櫻を思っておりました。
自分の手で其の人形を壊す前に、母と同じ事をする前に、私は自ら櫻を手放しました。
此れで良いのです。
きっと、幸せに暮らしてくれるでしょう。
私は酷い女です。
櫻を彼に奪われた事より、父の髪が切られた事の方が、辛く、悲しかったのです。
私の愛した愛が、全て奪われた気がしてならなかったのです。
彼は此れを復讐と呼びます。
復讐。ええそうです。
彼は気付いていないのです。

憎んだ女の子供を育てるのは、素晴らしい復讐です。

彼は自分の復讐心に取り憑かれ、私の復讐に、全く気付いていなかったのです。
櫻はきっと、私に似るでしょう。
そうして知らず知らずの内に、彼は櫻に私を重ねるでしょう。其れが、復讐なのです。
櫻を通して私に復讐するつもりでしょう。彼は、頭が良過ぎる故、気付かないのです。
自分に復讐している事を。

私は、強かな女なのです。



此れが私、井上琥珀の、終わった人生です。そして、始まりです。




*prev|5/5|next#
T-ss