能力


琥珀は異様に鼻が良い。犬だからに違い無い。馬鹿犬の癖に、鼻と耳だけは良いんだなと拓也は琥珀はからかった。
「御前さぁ、そんだけ嗅覚が凄ぇなら軍用犬にでもなれば?」
そう云ったが、駄目だ。頭が悪いから無理だ。軍用犬は、全ての犬より秀でた犬しかなれない。
「可哀相な、御前。」
「うんっ」
笑顔で肯定するとは、矢張り可哀相だ。
可哀相な娘に拓也は涙を堪え、頭を撫でた。
「あ。」
琥珀は大きな目を外に向け、今から龍太郎が来る。そう云った。まさかそんな。馬鹿な話があるかと、拓也は鼻で笑ったが、其れから数秒後、本当に龍太郎が来た。
「マジで…?」
「ほーらねっ!云った通りじゃんっ」
指を鳴らし勝ち誇った顔をする琥珀に龍太郎は首を傾げた。琥珀が数秒前、龍太郎が来ると告げた事を教えると案の定龍太郎も驚いた。
「右から来たよね?」
「あ、嗚呼…」
龍太郎は何時も左側、家からの進行方向から来る。しかし今日は用事があり、ぐるりと回って右側から来た。何故判ったのだ、ストーカーか何かかと龍太郎は気味悪がった。琥珀は一言、匂いと足音で判る、そう笑う。
「匂いと音だあ?」
馬鹿馬鹿しい。そんなの判る筈が無いが、犬並の嗅覚聴覚を持つ琥珀なら絶対無いとは云い切れ無かった。
「龍太郎の足音はね、たんたんたんたんって真直ぐに歩くの。」
「匂いは?」
「え?獣臭いの。」
拓也は爆笑した。龍太郎の獣臭さ。果たして龍太郎本人からか、服に染み付いた白蓮の匂いなのか、琥珀は教えてくれ無かった。
「時恵は柔らかい優しい匂い。」
其れには龍太郎も頷いた。時恵の匂いは、龍太郎が一番良く知っている。足音は、草履の擦れる音と歩幅の短さで判るらしい。
「ダディは臭いの。」
「は!?」
「煙草と酒とオネーチャンの匂いがぶわあああっと!もう臭いの!色んな香と化粧品の匂いが混ざって、臭いの!まさに異臭!バッド スメル!」
何だ、自分自体が臭い訳では無く、取り巻く匂いか、良かったと安堵した。龍太郎は笑っている。拓也の足音は不規則で真直ぐ歩かないのが特徴らしい。
一番判るのは郵便局員と琥珀は云う。自転車の車輪の音、インクの匂い。そして何時も来る局員は鞄に鈴を付けているから、誰でも判ると云った。
そう琥珀が云ったので試しに拓也は注意して聞いてみたが、鈴の音は全く聞こえ無かった。鞄に鈴は付いてるかと聞いたら、付いていますよと、中に付いた豆粒の様な鈴を見せた。判る訳が無い。
琥珀の耳と鼻は本物だと、手紙を受け取る事を忘れ、中に戻っていった。
「あの…手紙…」
「嗚呼?其処に郵便受けがあるだろうよ。」
面白く無いと云わんばかりの拓也の顔に、局員は判らない人だなあと郵便受けに手紙を入れた。




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