恐るべき童貞の妄想力


「………もう帰って来たのか?」
僕は其の後、美麗の家に連れられた。本当に致してしまうのかと、握られた手に汗が滲む。
「嗚呼。」
美麗は眉を上げ云い、後ろに居る僕を、嗚呼何て事だ、男装の麗人が品定めする様見ている。美麗の目も心臓に悪いが、井上雅女史の目も心臓に悪い。
「ふぅん。」
ニヤリと雅女史は笑い、横に座る井上さんに耳打ちをした。鉛の様な其の黒目が僕を捕らえ、ふへ、と笑うと腰を上げた。雅女史の肩に腕を回し、其の腕に雅女史の手が絡まる。二人は美麗に近付くと、とん、と井上さんが胸を突いた。
「此れから雅苛め様と思ってたんだぜ、馬鹿娘二号。」
苛める?
僕には理解出来ないが美麗にはしっかりと伝わっているらしく、
「あーら、那個 對不起?」
と高い声で美麗は笑った。
…今からでも遅くないかな。中国語、勉強し様…英語は無理だったし、第一僕は使わないから、良し、中国語を覚え様。
井上さんはシニカルに笑うと雅女史と、何やら楽しそうに家を出た。
玄関出る迄もキッスしなくて良いと思います。羨ましいとかでは決して無いですよ。
ぱたんとドアーが閉まり、見て居た僕を、行き成り後ろから壁に押し付けた。鼻寸前に壁。折角高いのに潰す気か。
「のこのこ来て、本気?」
低くくすくすと笑う声が息と共に聴覚を嬲る。
「美、麗…あの、ね…」
今更止めて欲しいとは云えない。スカートをたくし上げる手、足を掠める爪の感覚、耳に掛かる息使い。
「…………っ…」
「嗚呼、本気何だ。」
美麗の指の暖かさも感じない程熱い秘部。布越しに爪を立て、其の感覚に力が抜ける。ぞわりと足に鳥肌が立ち、耳に這った美麗の舌に腰を引いた。
「み…れ…」
「我を本気で欲情させたのは君だよ。」
秘部から手が離れ、息を吐いたら向かい合った。赤味帯びる紫色。赤い口が、一層厭らしく横に伸びた。
「悪いレイディは、御仕置きだよ。」
僕の着ているワンピースの胸元のリボンを解くと信じられない事に、美麗は其れで僕の目を塞いだ。笑う息が嫌に官能的だった。
少し唇を重ね、僕がキッスをし様とすると、美麗は笑って顔を離す。笑う声に身体が震える。視界を奪われただけでこんなにも他の感覚が鋭くなるのかと、僕は荒く息を吐き出した。此処がリビングだと云う事も忘れ、美麗にキッスをした。
「我 愛 イ尓。」
其の言葉に僕は目が熱くなった。僕が覚えている中国語は、ニィハオ、シェイシェイ、そして此の“ウォアイニィ”。
「同じ意味だよ。」
足が床から離れ、暫くすると背中に革の固さを知った。其の間、美麗はずっとキッスをしていてくれた。其処がさっき迄井上さんと雅女史が座っていたソファだと気付くのに時間は要ら無かった。革特有の鳴る音に身体が緊張した。
僕が屈折した足と足の間に美麗の身体が入り、スカートの捲れた膝にさらりとした感覚が来た。何時も美麗が被る絹の布の感触。さらりと冷たい。
触れたくて手を伸ばしたら、呆気無く上に向けられ、万歳の形でソファの外に投げ出された。
「未だ我に触ったら駄目。」
「うん…」
素直に頷き、何かを緩める音が聞こえた。其れが何か判らず、知れず眉間を寄せた。其の後金属の外れる音がし、美麗の吐いた息が顔に掛かった。ことりと床に何かが落ち、僕は其方に顔を向けた。
「気になる?」
「うん…」
「コルセットだよ。」
喉が鳴った。見無く共判る美麗の今の姿。スカートを履いただけの状態。
上に伸びていた僕の手を美麗は両方掴み、自分の両頬に置いた。
「此れが顔。」
声が出ず、小さく頷く事しか出来ない。ゆっくりと移動する手。
「此れが首。此れが肩。」
其の侭流れる様に手は動き、掌で感じた曲線に息が漏れた。
「此れが腰。」
「凄い…」
砂時計を撫でている様な其の曲線。人工的に作られた美麗の腰の異様な細さに僕は唾を飲んだ。
短く繰り返す息は、上がった手に、詰まった。
掌一杯に感じる暖かさ。
「此れが、胸。」
云って、美麗は僕から手を離し、僕の手は美麗の胸に触れた侭。動かしもせず乗せた侭、其の感触を楽しむ。
「君のも、見せて。」
ぎち、とソファが鳴り、美麗の手は僕のワンピースの釦を外し始め、覗いている肌に爪を滑らせた。少し開け、其処に唇が触れた。
嗚呼、堪らない。身体が電流を帯び、力が入らない。こんな幸せ、他に無い。
美麗が僕に触れてくれる、其れがどんなに幸せか。美麗、君には判らないだろう。涙が出て来るんだ。
寝て居る事さえ困難な程僕の身体からは力が抜け、其の幸せから逃げる様に身体を動かした。其れが間違いだった。
目隠しをされソファの間隔等全く判らず、見事に落ちた。
「い………ったい………」
動く手を動かし、僕は自分の顔を触り、床に伸ばした。
柔らかい感触、変な音も聞こえた。金属が鳴り響く爆音で、妙に寒かった。
「あれ…?」
自分の耳を貫いたのは爆音では無く、頭に直接達した掠れた声だった。
「美麗…?」
居る筈は無かった。
だって此処は、如何見ても自分の部屋だった。忌ゝしく鳴り響く時計を止め、顎から指を胸に向かって滑らせた。ゆっくりと其の侭下に続け、床に拳を打ち付けた。
「夢か……っ。畜生めが…っ」
馬鹿野郎、後一時間で良かった。一時間あれば…
夢の中でさえも、美麗に逃げられたのです。




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