切り取られた風景(中)


半月前に行われた公演会の感想を侑徒は今頃口にした。雅楽に大した興味も知識も無いが、あんたの三味線はええ音やったと、感想貰えるとは思って居なかった隆臣は照れ乍らも素直に受けた。緑茶と共に団子を食らい、勿論此れの代金は侑徒が出す、無表情の能面を貼付けた顔で珈琲を飲む侑徒を窺い見た。繊細な顔を春霞みたいな湯気で隠す。濃霧の中にひっそりと佇む、名も知れぬ野草に見えた。少しの風で葉や花弁に溜まった露を零しそうな程繊細で、本当に男なのか隆臣の疑問と興味を膨らます。興味とは勿論、性的な感情、である。
「叔父さんと、一緒だったね。」
「車、出して貰てん。」
侑徒は在の日、伝統科の演奏が終わると帰った。次のクラシックにも、目玉のジャズにも興味は無く、抑侑徒に音楽の興味は無い。そんな暇等無かった。暇だから来たに過ぎない、其れも叔父が。能楽が趣味の叔父に侑徒は渋々付いて行った。
「ええもん、聞いたわ。」
「叔父さんに感謝だね、俺。」
「せやな。」
珈琲が無くなるのと隆臣が団子を食べ終わるのは同時で、「ええ?」と聞いた侑徒に「ええよ」と侑徒の口調真似、隆臣は三味線を担いだ。
外は生暖かい空気がゆっくりと流れ、侑徒は右に、隆臣は左に向いた。
「ほんなら、な。」
「又ね…?」
「気ぃ向いたら、な。」
生暖かい空気を裂く様に二人は逆の方向に向かった。
本当は毎日会って遊びたい、然し侑徒が其れを望んで居ないので隆臣は侑徒からの誘いを待つ。侑徒の連絡先を知らないので隆臣から連絡は取れず、今日も侑徒から電話で呼ばれたのだ。
心は面白い様に弾んで居た。
連絡が無かった日の夜は一緒に居る叔父を恨み、有った日にはこうして浮き足立つ。大半が叔父を恨む日々である。
間違っても隆臣は男が好きな訳では無い、美奈子と云う恋人も居る。性を混同、或いは混乱させる侑徒が堪らなく好きなだけ。極端な例は、廉太郎に行為寄せられても嫌悪剥き出しで逃げる、廉太郎を好きと云う感情は持てない。誤解無い様、又廉太郎の名誉の為、廉太郎は異性愛者と訂正して於こう。
侑徒を待つ日々は、一種の恋だった。
地面に落ちる桜の残骸。咲いて居る時は皆見上げ賛美する癖に、残骸として地面に落ちればもう興味が無い。落ちた其の時は“花弁の絨毯”だ云々云うのに、時間経ち茶色く変色した花弁には見向きもしない。
何が何でも帝國大に、東京に行くと云った侑徒。
壮大に咲く事を夢見て居たのに、咲く所か萌える事さえ為らずに切り倒された。たった一枚の合否通知に依って、バリバリと音を立て倒れた。
倒された其処からぽつんと芽吹いた二葉、侑徒は此れから育てる気はあるのか、水を遣る位なら出来ると、地面の花弁を隆臣は蹴散らした。




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