切り取られた風景(後)


翌週の月曜日、突如現れた侑徒に同じ学科の生徒は驚いた。
――橘やんな…
――相変わらずの別嬪やな…
――てっきり辞めたぁ思てたわ…
生徒の声を気にする事もせず、侑徒は教授室に向かった。
昨日在の後、廉太郎に知らせた。そうしたら廉太郎は「侑徒迄居なく為るとかっ」と喚いた。
然し侑徒も不安なのだ。一度は落ちて居る。自分の容量も落ちた時の絶望は嫌と云う程知って居る。今度落ちれば在れの何倍もの絶望を知る羽目に為る。
いや、悪い風に考えるのは止そう、大丈夫だ、次こそは大丈夫だ。
言い聞かせ乍ら重い足を進めた。教授室の前に着いた頃には、不安が溢れ、前の劣等生に戻って居た。
――変わって無いや無いか、何も…
何だ、結局自分は隆臣に会う前と変わらないでは無いか。劣等感に苛まれ、父親に怯え、不安に吐き気がする毎日。
待て、本当に、在の生活に戻りたいのか。
けれど自分は始めから帝國大に行きたかった。
此れで良いのか、本当に良いのか、何度も自分に言い聞かせた。
――笑ってて。
思い出した隆臣の言葉に涙が滲んだ。
「笑って、東京行ったるわ…っ」
奮い立たす様にドアーを叩き、返事に開いた。


「奇麗なべべ着て葬式帰りか、自分。」


隆臣が侑徒を見て、本の思い出の一部に為れば良いと思った時の様に、亜麻色の髪を靡かす男に侑徒は同じ事を思った。
風景は切り取れる?
思い出としてね、確かに切り取れるんだ。
確かに此の胸に、あるのだから。




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