愛の授業


人が、繁殖行為の為だけに身体を繋げない理由、良く判った。愛しいと思えば触れたく為る、触れたら、キスをしたいと思う。キスをしたら、もっと触れたく為る。そうして触れたい気持は膨らんで、又キスをする。
同じ事を何回も繰り返す。
一番最初に触れるのは手、キスをするのは指先。二度目に触れる場所は頬、キスする場所は口。三度目で肩に触れて、少し長いキス。四度目のキスは続けた侭で、手が絡み合う。
五度目は?
「愛してる」って言葉が必要なの。
五度目のキスで唇を吸い合って、服の下の肌に触れる。六度目のキスでもう終わり、最初に戻る。
服を脱いでね。
顔を隠す髪を撫でるのも忘れないで。
私を捉える目は、口から出した青林檎味の飴みたいな色。妙に濡れてて、光ってる。
透き通る緑色、黄色、水色、茶色、どれも私を魅力する宝石。
光に透ける髪から見える目、眼鏡が無い方が其の宝石を見れるのに、「やだ」って笑うの。
「無くても見えるじゃん。」
「ぼやけるもん。」
はっきりと見て居たいじゃん、と貴方は云う。
「やだ、外して。」
「はいはい。」
貴方は私の云う事を、面白い様に聞く。又其れが、気持を膨らます。オーブンの中で焼けるパンみたく、大きく為る。
出来上がった其れは?
堪らない匂いで私の本能を呼んで、ふっくらとした其処にバターとメープルシロップを垂らす。口端に感じる柔らかさ、貴方の唇って、焼きたてのパンと同じ柔らかさ。私は最近、其れに気付いたの。
「御腹空いた…」
パンの匂いを思い出す。
「うん。」
そうそう、貴方はパンの匂いもする。パン屋さんの前を通った時、貴方を思い出した。パンの焼けた場所の匂いって、インクの匂いに似てる。貴方ってば、毎日大量の書類に囲まれてるから、物書きでも無いのにインクの匂いがする。指先からも其れはして、堪らず噛んだ。
「餓死寸前…?」
「二時間前から食べて無い。」
「琥珀って、家に居る時は食べてるか寝てるかだね。」
「そうかなぁ。」
「西班牙に居るんだからさ、もっと違う事したら?」
例えば太陽に当たるとか、と云う。
どんなに情熱的な太陽でも、私は情熱的には為らない。
何時為るかって?
貴方とキスをして、触れ合った時。私は情熱に絆される。熱い息を、貴方に教える。そして貴方は私に教えるの、情熱的にね。
此れって素晴らしい愛だと思う。
「何か食べる?」
「マシューを食べる。」
「わお、情熱的。」
貴方は笑って、此れって何度目?キスをした。
「俺、デザートなんだけど。」
「夕食は済んでる、食べたでしょう?忘れた?大好きな、西班牙オムレツ。」
「嗚呼、じゃあ、良いのか。」
両肘をベッドに付いて私を見る、そんな貴方に跨がりキスをした。
「西班牙最後の夜だよ。」
五年周期の移動。女優と外交官の夫婦って、余り良くないと思う。子供達はしょっちゅう学校が変わる、此れって教育上悪い。でも貴方は「色んな世界が見れて良いじゃない」って笑う。
色んな土地に回されて、私には常にパパラッチが付いて回る。
娘には良いけど、生まれた時から大衆の目に晒され生きて来た息子は御蔭で内向的。誰の目も見ない、最悪よね。
「漸く英吉利に戻れるね。」
「君も仕事に専念出来るね。」
「英吉利に戻ったら、何する?」
餓死寸前、私は貴方の唇を食べた。
「御祖父ちゃんに会う。」
「何で?」
「此の家、気に入っちゃってさ…」
貴方は部屋を見渡す。国が用意した此の家は、国の物。私達に所有権は無い。別荘にしたいがそんな力、自分には無い。だから動かせる人物に頼む。英吉利の家だって、御祖父ちゃんに強請って物にした。貴方のパパ達は其れに怒り狂った、甘やかすなって。
でも欲しいんだもん、仕様が無いじゃない。
如何やら貴方の其の気質、御祖父ちゃんの遺伝ね。父親の権力を活用するのはパパ譲り。
「権力があるって凄い。」
「君もあるじゃない。」
「何処に…」
女優の権力何て無いに等しい。私の権力、リンダはもう居ない。
「俺を容易く支配しちゃうじゃない。」
私の権力は魅力、貴方はそう云う。
「俺だけじゃないよ、君の権力には、世界の男が、皆平伏す。」
例え、父親でもね。
でも生憎。父にキスはしないわよ。
待って、此れって何度目?
貴方の権力って、一つのキスよね。




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