Zellen


人形と、セックスするのを、此れ一種の性的倒錯の偶像嗜愛という。
偶像嗜愛とは文字の通り実在しないものを頭の中で形にし、愛(メ)で、肉慾の対象にする事だ。
そんな世で謳われる性的倒錯の内容を、ベッドの上で硝子細工の様な目を向ける珠子を見て思い出した。きちんと呼吸し、目も濡れているのだが、珠子は人形其の物だった。珠子に対する肉慾が膨らむ度、珠子は人形に見えた。
そんな人形を“セクサロイド”という。
珠子の体温も息使いも、確かに人間の其れなのだが、ベッドの上で揺れる珠子の細い腕は、水に浮かぶ人形の腕に見える。硝子玉の様な目。此の侭抉り取ったら、どれ程綺麗だろう。
自分を映す目を抉り、そうして自分の左側に入れる。
こんな美しい愛があって良いのだろうか。
そんな異常と取れる考えを頭の中で埋め、イヤリングの着く耳を噛んだ。珠子は小さく、痛いと睨み、其の侭外した。丸いイヤリングは、義眼の様だった。オパール石の輝きは、珠子の目の輝き方に似ていた。矢張り彼女は、人形なのだ。
フリルを施した服を着、髪を巻き、沢山の装飾品を飾り、肌は陶器で、目は硝子。
時一は掌に乗せたイヤリングを棚に置き、何も付いていない珠子の耳を噛んだ。噛まれた所から虫が這いずる様な感覚を覚え、珠子は肩を竦めた。
「擽ったいですか?」
「少し。でも微妙に違う。」
時一は何も云わず、耳の中に時一の息使いがこびり付く。其れから逃げる様に珠子は少し動き、背中に時一の腕を感じると其の侭一気に身体が起きた。ベッドは揺れ、珠子の思考は追い付かず、気付いたら背中に時一が居た。
長い髪を分け、首筋に唇を落とす。又、虫が這う感覚がし、珠子は首を横に倒した。浮く筋から舌は這い、耳に時一の吐息を感じる。腰に回っていた腕は珠子のブラウスの釦を外し、肌が少しずつ外気に触れる。胸骨を撫で、鎖骨を撫で、頬に触れ、唇を重ねた。其の感覚に珠子は足を少し動かし、時一の声が耳に響く。
「如何します?下、触ります?」
珠子の事だから嫌だろうなと時一は思った。しかし珠子はすっとんきょをな答えを返した。
「…貴方の?」
「…触りたいんですか?」
其処で珠子は何故か、立てばさぞかし立派何だろうなという父親の言葉を思い出した。
後ろから抱き締められている事で、スカートから妙な物が当たっていた。其れが時一の其れだという事は判っている珠子だが、立つとは一体何なのだろうか。其の疑問を云った。時一は少し首を傾げ、何でしたっけと答えた。
「ほらあの御父様が、貴方の、その…立派と云った、ね?」
判るでしょう、と珠子は顔を赤くした。思い出した時一も又顔を赤くし、顔を手で隠した。
「其れはですね、えっと…近衛医師が仰った其れは、通常唯ぶら下がってるんです。そうですね、女性の胸みたいに。其れが、こんな状況になると、海綿体が充血し、硬さを帯びます。其れを医学用語で勃起、俗語で立つと云います。」
今其の状態がそうだと時一は云った。時一の淡々とした口調は、とてもベッドの中とは思えない程で、教授が医学生に授業を教えている様思えた。しかし珠子は頷き、真剣に聞いている。
「海綿体って、何?」
「男性器を構造している大半の物です。血管の親戚と思ったら良いです。」
又此れも素直に答える。
「貴方のは立派なの?」
「さあ…如何なんでしょう。近衛医師は、自分よりは、という意味ではなかったのでしょうか。僕には判らないです。基準が。」
「僕…」
出た時一の一人称に珠子は愛らしさを感じ、時一は慌てて口を塞いだ。
「気が緩むと、昔みたく出ます…教えて貰っている時、常にそう云ってましたから…」
二度と使うまいと思っていた一人称を出してしまった時一は照れた。そんな姿が可愛く、珠子は口元から手を離すと、薄く笑った。
「貴方は、そっちの一人称の方が似合ってる。」
其の可愛い顔に、俺、は正直似合わないと珠子は前々から思っていた。出来れば其れに変えてと珠子は甘くねだった。時一は暫く無言で、考えておきますと笑顔を向けた。
互いに身体を向け、唇を重ねた。太股に乗り、時一の肩に顎を乗せる。元から高い時一体温は、熱を出した様に火照っている。シャツを通して自分の素肌に伝わる、其の熱さ。釦は外されたが全てでは無く、未だブラウスは着ている。ブラウスから覗く肌に時一の体温が重なり、珠子の身体迄熱く火照り、熱い息を吐いた。
「女は、如何なるの?」
男が“立つ”と称されるのなら、女は何と表すのか気になった。
「立つの?」
「んー…」
立つといえば立つが、其れは自分では判らないだろうし、そう誰かが云っているのを聞いた事は無い。
男が“立つ”との表現になれば女は。
「女性の場合、男の様に目に見えてというものは余りありません。唯。」
「唯?」
「男と違い、非常に濡れます。其処が、違いかな。」
“立つ”の対義語は“濡れる”になるだろう。其れを聞き、珠子は下に視線を落とした。時一は笑い、嗜めた。好奇心旺盛なものも困りものだなと、崩れたムードを思う。
珠子は無言で未だ下を見ている。流石に心配になり、視線を落とした。
「如何しました?」
「此れって、そうなの…?」
時一に触られ始めた時から、其処に未知の感覚を覚えていた。其れは珠子に少しの恐怖を教え、水気を感じていた。最初は生理が来たのかと思った。其れ程水気を感じ、しかし以降流れる感覚が無い。何だろうと、不思議に思いながら時一の話を聞いていた。
そうなの、と聞かれても如何答えて良いか判らず、時一は顔を上げ、珠子も顔を上げた。
硝子玉の様な目に、喉が鳴った。
「済みません、触ります。」
「え?何?何処を?」
瞬間珠子は息を吸い背筋を伸ばした。自分以外が触れない場所に、時一の手が触れている。そう思うと、羞恥で力が抜けていった。肩に両手を置き、時一の指が動く度悲鳴に似た声を小さく漏らした。刺激される度珠子の身体から力が抜けていき、肩に置いていた手は離れ、自然とベッドに横たわった。覆う様に時一が続き、曲がる方の足を屈折させ、身体を寄せた。
「待って…時一さん…っ」
動きを止めてくれと頼む珠子の口を時一は塞ぎ、其処からくぐもった声が漏れる。背筋に変な感覚が走り、其れは時一の触れている場所に向かう。
「一回…イッた方が良い…」
其の声に珠子は感覚を奪われ、口を大きく開けた。ぞくぞくと寒気に似た感覚。足が震える。其れに恐怖を感じ始め、珠子は時一の首に腕を回した。頭がくらくらし始め、視界が霞んでゆく。
「あ…何か…あ…駄目…駄目…離して…」
「大丈夫だから、掴まってて。」
「何か…何此れ…」
「心配無い。何も考えないで。」
そう云われても、此の見知らぬ感覚と珠子は戦う事に必死で、腕の力を抜いた。仰け反り、なのに全くベッドから背が離れない。反らした事でブラウスははだけ、胸が露になった。其の姿に時一は息を漏らし、露になった胸に顔を近付けた。又違う感覚を身体に覚えた珠子は二箇所から送られる刺激に、声を荒げた。
シーツを力一杯握った珠子に強烈な感覚が襲った。襲ったと思ったら、背中に熱さを感じた。首筋は汗で湿り、呼吸を繰り返す口の中は乾いていた。唾液を飲むと少し喉が痛かった。
ぐったりとした腕で目元を隠し、色の取れた口は少しだけ開き薄く呼吸をしていた。達した事が判ると、時一は腕を外し、濡れる硝子の目を見た。
「服着た侭します?」
スカートは履いた侭でブラウスははだけ、其の姿が異様に厭らしく思えた。
「えっと、普通は…」
「んー。俺は脱ぐ派です。」
「脱がない派も居るのね…」
「そうですね。如何します?俺はどっちでも良いです。」
なら、と珠子は震える身体を起こし、残りのシャツの釦を外した。時一の身体からシャツが落ち、其の線に珠子は息を吐いた。
「綺麗…」
「一応、軍に居ますからね。筋肉位は付いてます。」
時一の肩の厚みを触り、撫で、其の手に時一は手を重ねた。珠子の手にキスをしながら、スカートを落とした。
「もう一つ聞きたいんですけど。」
「何?」
「避妊具、使います?」
確かに子供は欲しいが、貴女が望む迄自分は待つと時一は云った。珠子は少し考え、首を振った。
「私でも、産めるかしら。」
珠子の指先にキスをし乍ら時一は何故そう考えるのか聞いた。
「私、足が悪いでしょう。だから、産めるのかと思って。」
「関係ありませんよ。」
何も心配は要らないと、珠子の身体を少し浮かせた。ベルトの金属部分が音を出し、其れに紛れファスナーが下りる音がした。其の空間に熱が篭り、珠子は息を吐いた。
「我慢はしないで下さい。あ、見ない程が良いですよ。」
入口に感じる時一の熱に、珠子は目を瞑り、少しずつ入ってくる感覚に足を震わせた。
「一気に入れます…」
其の言葉の後、腰を押された。圧迫感に珠子は反り返り、時一は背中を押さえ腰を動かした。
「痛く…無いですか…?」
ベッドが揺れる度時一の吐息が漏れ、二人の息使いだけが部屋に響いた。
「痛い…わ…けど…平…気…」
震える腕を時一の首に回し、揺れを全身で感じる。痛さと先程知った感覚が内部で混ざり合い、自分が如何なっているのか珠子は判らなかった。段々と揺れは激しさを増し、時一の口から漏れる息も早くなっていった。歪む時一の顔に珠子は目を濡らした。
口には出さ無かったが、胸にとてつも無い愛おしさが溢れ、其の思いは珠子の意思とは関係無く力を込め、時一を締め付けた。
「駄目…其れは反則…」
動きを止めたが、ベッドは揺れていた。
「力、抜いて…動けない…」
そう云われたが珠子の意思では無いので如何する事も出来無かった。時一の頭が胸に近付き、息を吸った。
時一の舌が動く度珠子の身体は跳ね、一層締め付けを強くした。ぞくぞくとした感覚が背中に走り、又あれが来るのかと首を振り、唯でさえ歪んでいた頭は其の揺れでぐるぐる回り始めた。
舌を動かす度珠子の声は上がり、自分を飲み込む其処は不規則に動き、時一に快楽を齎した。
少し歯を立て、舌先で舐めると珠子の身体は大きく揺れ出し、高い声を出すと背中に汗を滲ませた。はあ、と時一の短い息が聞こえると、繋がる其処にじわっとした熱さと愛おしさを感じた。




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