恐るべき童貞の妄想力


朝目覚めたら、自分の身体に異変を感じた。股に、あるべき感覚が無い。横を向いても、無い。が、本来感じない胸に違和感を覚えた。
何かが、流れた。
そっと寝巻きを肌蹴させ、胸を確認した。

何…?

もう一度確認しても、ある。無い物がある。ならば下は如何なっているのかと恐る恐る覗いた。
此の世の終わりかと思った。
未だ、童貞なのに。

チン子が…無い…

無い、無い。僕の其れは何処に行ってしまったんだ。余りの女気の無さに其れが呆れ家出してしまったと云うのか。昨日の夜迄は確かにあった。きちんと握って、用を足した。
「は…」
僕は弾かれた様にベッドから飛び起き、家中に声を響かせた。
「母上っ、母上ぇええっ」
「…如何したの…?」
如何したもこうしたも無い。息子の息子が一大事だ。
「僕のチン子知りませんかっ」
瞬間、母上から珈琲を吹き掛けられた。朝一番にそんな事を息子から聞かされた母上は可哀相だと思うが、僕はもっと可哀相だ。
だって僕は未だ童貞だったんだ。女としないで無くなるなんて、余りにも酷い話じゃないか。
申し訳無い父上。貴方の息子と其の息子は、一生貴方にはなれません。
頭を抱える僕同様、母上も頭を抱えていた。
「何を、云っているの…?アナタ…」
「いえ…自分でも良く判…」
云い掛けて、止めた。

何だ、此の高い声は。

喉を触ると、滑らかだった。
「え…?」
チン子だけなら未だしも、ブツ迄無くなっている。元から大して無かったけど。
二十二歳迄童貞で居たのが拙かったのか、もう男で居なくても良いと云うのか。でもそんな話は聞いた事が無い。三十迄童貞であったら魔法が使える様になると聞いた事はあるが、女になるという話は初耳だ。
呆然としていると、母上が云った。
「抑、アナタに其れは無いでしょう?元から。」
元から…?元から僕は女だったのか?
いやまさか。そんな訳は無い。僕は木島和臣の息子で、木島一幸だ。
「母上…僕の名前は…」
「一子、でしょう?朝から変な子ね。和臣さんのカズに、私のコ。一子よ。」
一子…、一子だと?何だ其のセンスの無い名前は。
「僕は一幸では無いのですか?」
和臣のカズに、雪子のユキ。一幸。
「誰…?其の人。」
なら…在の不細工な双子は…?
「新と、折は…?」
「居るわよ。」
何故だ…

何故僕だけ女なんだ。

「母上…」
「何?」
「僕は少し気分が悪いです…。散歩に出掛けます…」
「え、ええ。気を付けてね。」
引き攣った顔の侭部屋に戻り、箪笥を開けた。
女物しかない。
スカートなんて履いた事は無い。買った記憶も無い。盗んだ記憶も無い。
僕は本当に、生まれた時から女だったのだろうか。化粧台には、色取り取りの化粧品が並んで居る。
そして、鏡を見て僕は気絶しそうになった。
「女じゃないかっ」
其れも、何て美人なんだ。父上が女だったらこんな顔に違いない。何て美しいんだ、僕。加納元帥なんて目じゃない。
此れは…
「化粧しないと、勿体無いよな…?」
した事も無いのに、僕の手は勝手に僕の顔を作り上げてゆく。元から吊り上ったきつい目が、一層きつくなる。でも其れが美しい。
駄目だ、僕は女になっても、根本的なマゾヒスト体質は変わっていないんだ。…まあ、此れは父上の遺伝なんだ、仕様が無い。
そして何て。
「真赤な紅が似合うんだ…」
美しい…美し過ぎるぞ、僕。木島の遺伝子、恐るべし…っ
此れはひょっとして、チャラ男八雲に声でも掛けられるんじゃないのか?自分、きゃわゆいなあ、とか。………キショ…ッ
何だか、段々と楽しくなってきた。いや、八雲兄さんに声云々ちゃうで。
此れが女か。
何て、何て。
「素晴らしいんだ、女の身体は。」
此の美しさと色気、コハク・ヴォイドに引けを取らない。男が女を好きになる筈だ。そして、女も女を好きになる筈だ。こんなに美しいのだから。
美しいものには、皆、平伏すのだよ。
「美麗…」
僕は何故か、美麗の事を思い出した。いや、三十分に一回は思い出すんだけれど。
今なら。
「今なら美麗に構って貰えるかも…」
男の僕は、無視される。此の状態でなら、構ってくれる。


そんな思いで意気揚々鼻息荒く家を出たのですよ、ワタクシは。
ゑゝ、所詮ワタクシは低能な煩悩の塊ですよ。




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