熟れた罪
風が、吹いている。
置いた花が揺れ、まるで、彼女のスカートの様見える。
呼ばれた声に振り返り、見知った顔に笑う。そんな俺の顔に、驚いた龍太郎。
「如何したよ。」
「いや。」
「何だよ、気持ち悪ぃな。」
龍太郎は口に手を当て、俺を怪訝な顔で見る。
「御前、笑うんだな。」
「酷い言い掛かり。俺だって笑いますよ。」
「いや、そうでなくて、そう、誰かを見た時に、笑うんだなって。」
「意味が判らんよ。」
「前迄は、声を掛けても無表情で見ただろう。」
「嗚呼。」
俺は頷き、龍太郎を見た。
「俺の意思じゃないんだよ。顔が勝手に、笑う。姉さんでも乗り移ったかな。」
「云われてみれば、姉さんは何時も笑ってたな。」
「嗚呼そうさ。だから俺は、惚れちまったんだ。」
「―――俺も、其のうちの一人だったな。」
「え。」
「何でも。」
「おい、今何か云っただろう。」
「何も。聞き間違いじゃないか。」
「聞き間違うもんか。おい。」
「時効時効。御前の気持ちを知った時に、諦めたよ。」
「やっぱそうじゃねえか。」
「だから時効だって。」
「何が時効だ、この野郎。」
「苦しいだろうが。」
龍太郎は首に掛かっていた俺の腕を離し、帽子で顔が見えない様俯き、肩を突いた。
「御前みたいな良い男相手じゃ、一生掛かっても、勝ちはしない。」
「云ってくれるね。」
「だから姉さんも、惚れたんだ。」
「俺が女なら、惚れてやるけどね。」
「そっくり其の侭、御前に返すよ。御前は世界一良い男だ。」
「云ってくれるじゃねぇか。」
「顔は俺の方が良いけど。」
「云ってくれるじゃねえか、此の野郎。」
突風が吹き、帽子が、風に飛んだ。其れを俺達は、走って取りに向かった。
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