熟れた罪
咽帰す様な、血の臭い。
暗い部屋に座る男から感じた。
声を掛け、振り返った男に、俺は言葉を無くした。
腹部から大量の血を流す女を抱え、不気味に笑っている。知っている男なのに、其処に居るのは、全く知らない男だった。
「なあ、此れって、夢か。」
そう、笑う。
現実なのに、そう願いたくない現実。其れは、俺も男も同じだった。
変わり果てた愛しい女の姿に、狂った男。狂気が取り巻く其の空気に、吐き気がした。
「拓也。」
「夢だよな。夢に決まってる。姉さんが死ぬなんて、そんな事、夢に決まってる。其れにしちゃあ、随分と悪趣味だよな。」
笑い乍ら呟く男。
夢なら、今直ぐ叩き起こしてやれる。なのに、其れが、出来ない。
震える手で女を触り、俺も現実を知った。
「姉、さん―――。」
知った現実に涙が流れ、男から女を取り上げた。
「姉さん、目を開けて下さいよ。こんなの、嘘だ。嘘に決まってる。」
顔を叩き、目を開けようとするが、固く閉ざされ、開きはしなかった。
「姉、さん―――。」
力が抜け、何処か判らない一点を見詰めた。
静寂の中で、小さく笑う声がする。其れは、横に居る男から発せられていた。
「そうか、やっぱり、夢じゃないのか。」
其の笑う声は段々と大きくなり、終には、狂った様な声に変わった。
現実を受け止めた男は、狂い、女を抱き締め、笑う。
「俺が、殺したんだよな。そうだろ、龍太郎。」
何も云えず、俺は唯項垂れた。
否定が出来ない。此の罪に重く圧し掛かった罰は、此の男にも責任がある。
俺は、唯、黙って、笑っている男の声を聞いていた。
光の消えた其の目が、黒く、深い闇を作っていた。
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