北風と太陽
手に付いた生暖かい精液に女は笑みを零し、息を乱す男の耳にキッスをした。びくりと身体を揺らし、熱い息を漏らす。熱に浮かれた目尻にうっすら涙が浮かび、又其れも堪らず、キッスをした。顔を隠す乱れた髪を払い、私を見て、そう云った。男は薄く開いた目で女を捉え仰向けになった。
「如何してくれんのよ…」
「だって旦那可愛いから。」
「ふぅん。」
熱を持っていた筈の目は違う色を宿し、男の呻く低い声を聞いた女は、気付いたら男の顔越しに乳白色の明かりを見た。天井に下がる三個の明かり。電球の周りを飾る花の形をした白色の硝子笠が、電球の橙色を柔らかく天井に伸ばしていた。
「次は、俺の番。」
肌着ごと胸元を開け、表れた乳房に男は舌を這わした。鎖骨と胸骨を舐め、女の身体に熱が篭る。其れを知った男は太股を柔らかく揉む様に撫でた。乳首を吸う音が快楽を呼び、揉まれ動く太股の様に女は快楽に落ちていった。
男の体勢は四つん這いだった。当然女の両足は男の下にある。其れを知った女は揉まれている方の足を曲げ、膝を男の股座に置いた。ゆるゆると足を動かし刺激する。萎れていた男の其れは少しずつ固さを帯びた。生暖かい男の其れと服の質感が交互に膝を掠め、女の秘部は濡れていった。太股から手が離れ、女は恍惚と目を揺らした。金属の音がし、ベルトの留め具の冷たさを腹に知る。胸の愛撫を続け乍ら男は軍服の上着を脱ぎ捨てた。
「嗚呼…旦那…」
男が服を脱いだ其れが嬉しく、女は吐息を吐いた。
此の娼館で男の上着を脱がす事が出来るのは此の女だけだった。娼婦達は己の自尊心に賭け男の軍服を脱がそうと躍起になるのだが、結局何時も、きっちり腰ベルトを締めた侭行為に及ぶ。
男が上着を脱ぐ。
其れは男の快楽に対する一種のバロメーターだった。女達が躍起になればなる程男は脱がない。まるで北風と太陽みたいだと女達は笑う。男も其れを知り、楽しんでいる。
胸元から顔を離した男は長い髪を空中に払い、暑い、そう云った。
ぎゅっと女の心臓が締まった。
ベッドに膝を立てた男は其の侭シャツを脱いだ。肌に浮かぶ髪、どれ程見たかった事か。早く其の肌を知りたいと女は躾紐に手を掛けたが、男に掴まれた。
冷たい筈の手が熱い。
「自分で脱ぐなよ。」
躾紐を掴み強く引き上げ、女の身体をベッドから起こした。反動で女は男に抱き付く形になり、男は強く腰を引いた。互いの秘部が擦れ合い、女の液が男の物を濡らしていった。
キッスをして、と女は漏らした。云われる侭に男は唇を重ね、躾紐を解いた。長襦袢が開け、男の両手が肌着の紐を解いていった。
「あ…っ」
開けた肌に男の体温を知り、どろりと秘部から液が溢れ出た。男のズボンには染みが出来たが不快感は無かった。
唇を重ねた侭男は云った。
「此の侭入れるのと一度イくの、どっちが良い。」
女の腰を揺らし、突起を刺激した。
「入れて…」
視界一杯に広がる男の意地悪い笑みに女は背中を痺れさせた。
「嗚呼…そんな…止めて…」
「駄ー目。」
女の腰を動かし、反り立つ其れで女の突起を愛撫した。互いの秘部が擦れ合う厭らしい音と女の声が部屋に埋まり始めた頃には、男の手は女の身体を添えるだけになっていた。男の両肩に手を置き勝手に腰を揺らし快楽を貪る女に男は口元を歪め、眺めていた。固く柔らかい陰核の動きを其処で感じ、女の目が見開いた。
「嗚呼…駄目…イく…」
「イく時は、何て云うんだっけ。」
イきます、女はがちがちと歯が鳴る口で云おうとしたが、云う前に女は退け反った。肩から離れた手はベッドに垂れ、男の手に身体を支えられた。痙攣する足が男の股から少し離れ、隙間が出来た事を知った男は背中から手を離した。女の身体がベッドに戻る、浮いた両足。其の一瞬を男は見逃さず、女の両足を腕に掛けると一気に自身を埋め込んだ。
「嗚呼っ」
悲鳴に似た女の声を耳に知り、男は楽しそうに笑い乍ら腰を動かした。腕が無くとも勝手に足は開き、ゆらゆら揺れた。
「もう一寸、足開けるか。」
唇に伝わる振動に女は小さく頷き、ベッドに付く程足を広げた。足の力が秘部に伝わり、強く男の物を締め付けた。そうか、こんな得もあるのかと男は知り、女の耳を噛んだ。又締まり、此の後自分が仕様とする行為をした時、此の女は何処迄自分を締め付けるのだろうとうっすら考えた。
「良いか、絶対足の力緩めるなよ。」
鼓膜に叩き付けられた声に女は男の首に腕を回し、何度も頷いた。男は背中を丸くし、互いの身体の間に出来た空間に腕を伸ばした。
数居る娼婦の中で、体格差から考えて此れが出来るのは此の女だけだった。小さい身体を紅色に染め、快楽を貪る。其れだけでも男は可愛いと思うのに、不安定に目を揺らす顔に一層其の気持を強くさせた。
「御前、可愛いな…」
本当に可愛いと男は笑い、指を結合部分に置いた。
逃げ出したい。
此の快楽から逃げたい。なのに男は許してくれ無かった。女の声は、喘ぎ声とは到底云えず、悲鳴だった。
中は突かれ、充血した突起を弄る、頭の中は男の息遣いで埋まった。頭の中に響く水音が、耳を舐める音なのか、ずっと下から聞こえている音なのか、女には判別出来無かった。力を入れていろと云われた足は浮き、知った男は片方の手で膝を押さえ付け、耳を噛んだ。自分が今何処に居るのかさえ判らなくなった女は頻りに瞬きを繰り返した。
「旦那…旦那…」
繰り返される声に男は動きを止め、自身を引き抜いた。がたがたと痙攣する女の身体に笑い、俯せにさせた。
「嫌っ…もうっ止めて…っ」
「俺を一回イかせた罰。」
「謝るからっもう止めてっ」
「俺、一回出ると次出る迄に時間掛かるんだよな。」
逃げる様に身体を動かした女の腰周りに腕を回し、高く上げた。奥を突かれた瞬間女は泣き出し、悲鳴を漏らした。シーツを握り締める手を男は解き、両腕を背中で纏めると手で固定した。腕で身体を支えられなくなった女は顔を横に向け、表情を男に見せた。手綱を引く様に女の腕を固定する腕を動かし、奥を突く。
「右手は腕を固定してます。では残った左手は何処に行くでしょうか。」
「止めてっ此れ以上おかしくしないで頂戴…っ」
理解出来た女は目を見開き、腰を引いたが出来無かった。
「俺だって、止めてくれって云いましたー。」
身体は正直だな、と驚く程肥大した陰核を摘んだ。
「やられたらやり返すんだよ、おりゃぁ。」
「もう…充分でしょう…」
シーツに女の液が垂れ始め、イき過ぎ、そう云った。
「御前、何度イきゃ気が済むの?」
「誰の…所為…よ…」
「誰の所為よ?」
「貴方の所為よ…貴方が…嗚呼…っ」
男の事を“旦那”と云えなくなる程女は自分を失っていた。
娼婦達が男の軍服を脱がす遊びと同じに、男もこうして、娼婦達の自尊心を崩し“女”にする遊びを楽しみとしていた。
恋人らしい事しても、と云った女の言葉を思い出した男は女の名前を呼んだ。呼んで、呼び続けて、貴方貴方と呼ばれ続けた。
「そろそろ、終わるけど。」
「来て…中に…中に出して頂戴…貴方…」
恋人ごっこを続けるべきか考えたが、腰を引いた。其れを引き止める様に女の中は男を締め付けたが結局抜け、執念と云うのだろうか、シーツの上に出す筈だった精液は女の入口に出た。少しだけ入った精液を女は知り、陰核を伝い落ちる精液に腰を揺らした。手を離した腕に締め付けた跡が赤く浮かんでいる事に男は少し罪悪感を感じる。解放された腕を女は動かし、其の侭秘部に伸ばした。秘部に付いた精液を指で掬い、虚ろな目で指を咥えた。自分の味と男の味に女は幸福感を知った。
「少し中に入ったな…」
「良いの…」
目が合った。
「良い訳あるかよ。子供出来るぜ?」
「良いの…良いのよ、貴方…」
名前も知らない男に、惚れた女。恋人になれないのなら、少しばかり、其の気分を味わいたかった。此の会話は中々に其れらしいと女は吐息を漏らした。
「ねえ貴方。名前は何て云うの?」
「秘密。」
T-ss