罪ト罰


「姉様。」




昔に聞いた声とは、随分違う男の声。愛らしい、少女の様だった声は、掠れ、低音を帯び、同じ人間の声とは思えない。
「素敵な、声に為ったわね。」
無言の男に、女は鼻で笑った。
「姉さん。」
「ねえ、貴方。私の名前を御存知かしら。」
笑う女に、男は驚いた。口調に。昔、聞いた事がある。
知っている。
此れは、此の口調は、惚れた男に対して使うと云う事を。
「姉…」
心臓が強く鳴る。頭が白く為る。
「拓也。」




―惚れた人間に触れたいと思うのは、いけない事だろうか―




地獄に行こう、彼女は俺に、そう笑った。




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