不思議な人


旦那は入れない癖に、時間たっぷりあたしの身体で遊ぶ。凄く倒錯的で、羞恥と快楽が混ざり合ってる。ベッドの上だったりソファの上だったり、或いは壁に向いた侭だったりと色々だけど、互いの状態は何時も一緒だった。
あたしは全裸で目隠しされて、旦那はきっちり服を着た侭。
此れが退廃的倒錯行為なんだと思う。凄く倒錯的なんだけど、旦那は、他の客みたく苦痛を与えたりしない。ど豪いサディストなんかはさ、客に一人居るんだけど、此れもやっぱりあたしは全裸で相手は服を着た侭、あたしの首に縄を付けて、四つん這いで歩かせたりするんだ。蹴られたりはしょっちゅうで、ふてぶてしく座る客の物を手を使わず咥えたりする。二時間なんだけど、あたしには凄く長い時間に思える。
似た様な倒錯行為でも、何でだろう、旦那の二時間はあっと云う間。こんな時間が一晩続いたらって、思う。
手が鳴る方へ、あたしは歩く。膝にベッドが当たり、かくんと前に倒れた。御尻を突き出した状態で旦那を探したけど、気配は無かった。
「此処だよ。」
ベッドに居ると思って居たけど、あたしの横に旦那は居た。ぺちんと一回、軽く御尻を叩かれた。
「片足ベッドに乗せて。」
旦那の声には不思議な力があって、従わなきゃって心理が働く。云われる侭片足を乗せ、見えないけど、あたし、物凄い格好をしてる。
旦那は思うに、ソッチの人間とアッチの人間を嗅ぎ分ける事が出来る。だってさ、加虐体質の女にこんな事しても、あたしみたく反応しないと思うんだ。
旦那の指が触れた其処、中から液が流れるのが良く判る。空気を含んで居る所為か、くぷ、って音がして、旦那の指を伝う。
例えは悪いけど、ツキモノの時。血が出る瞬間、はっきりと判るだろう。そんな様に、あたしははっきりと快楽の印を教える。
其処に手を置いた侭、あたしの背中に身体を密着させ、耳裏や首にキッスをする。指の動きは早いのにキッスは丁寧で、頭迄撫でて呉れる。
こんな風に抱かれちゃさ、うっかり惚れちまうよね。他の女にもこうしてんのかって考えるだけで嫉妬して、負けるかって思う。
嫉妬の炎はあたしの感度を良くする、程好い潤滑油に為る。口元の敷布が湿り始め、繰り返す息は熱かった。旦那は其れを知ってるんだろうかって思う。あたしはこんなに感じてんのに、旦那はゆっくりと呼吸するだけ。酷い畜生だよ、全く。
ベッドに乗せる足が痺れ始め、口は終始開いた侭、息とも声とも取れない音を出す。
「旦那…?嗚呼、旦那…」
「良いぜ、イって。」
御尻に押し付けられる旦那の腰、此の時は未だ柔らかいんだ。
女の肌見ておっ立てるなんてガキじゃああるまいに、旦那は其処等辺遊びを知って居た。良く良く知ってやがんだ、畜生め。
だらし無く開いた口から漸く声らしい声は出て、乗せた足は、膝が床に激突した。実は髪の毛って奴には感覚があるんじゃ無いのか、旦那の息が掛かると全身に鳥肌が立つ。
「膝、大丈夫かよ。凄ぇ音したぜ…」
「大丈夫…」
「本当かよ…」
膝を打ったなんて、旦那が云わなきゃ気付きもしなかった。あたしの感覚は、髪の毛の一本迄旦那の事しか考えてない。
ベッドが揺れた事で旦那がベッドに座った事が判った。あたしは芋虫みたく一寸づつ這い寄って、太股に頭を乗せた。
揺らぐ紫煙の様に、頭を撫でて呉れる。昔父ちゃんがして呉れたみたいな優しい物。其処で思ったんだけど、旦那って子供が居るんじゃ無いかって。あたし、父ちゃんっ子だったから判るんだ。手から伝わる優しさは、此れは男のもんじゃない。愛してる奴(女房)に対する優しさじゃ無くて、守る奴(子供)に対する優しさに似てる。
「旦那ってさ。」
「うん。」
「子供、居る…?娘。」
頭から手が離れた。
「何で判んの…?」
「やっぱり。そんな感じがした。」
女房持ちはそら良い男に見えるよ、でも所詮其れだけ。だけどね、父親って生き物は、どんなに悪い面構えでも良く見える。…旦那が醜男って云いたい訳じゃないよ。平均より少し良い位。
「もう、今位忘れさせろよぉ。帰ったら、嫌って程考えるんだからよ。」
「幾つ?」
「十二。」
「あ、結構大きいね。」
「在れ買ってぇ、此れ買ってぇ。女って、年関係無く、本当金掛かる。給料の半分、彼奴に消えるんだ、毎月。最悪、信じらんねぇ。俺の金は何処よ。」
旦那って、こんなに話す人だったんだ。悪たれ口だけど、其処には可愛くって仕様が無いって気持が沢山込められてた。
頭を撫で乍ら、旦那は云った。
「如何にかしてよ。」
「無理だって。女の子だもん。」
「じゃ無くて。」
顎を掴んで顔を向けさすと、キッスを一つ、旦那は呉れた。
「興醒めしたんだけど。」
「嗚呼、そっちね。」
「如何して呉れんのよ。」
「こうして呉れんのよ。」
旦那の唇から離れた口を、其の侭布腰の其れに向けた。唇とは違う柔らかさで、旦那って本当に遊びを知ってる。何度か唇を付けたり離したりして居ると、少ぉしづつじわじわと、焦れったく固く為る。氷が固まるみたく、ゆっくりゆっくり快楽を楽しんで居た。
「御好きに如何ぞ。」
そう旦那が云ったので、目隠し外し、固く為り始めた其の変化を直接感じ様とした。
最初はそうでも無いのに、何時も思うけど、此の変化は凄いと思う。綿みたく柔らかいのに、あっという間に氷みたく固く為っちまうんだから。
旦那はベッドに膝を付き、あたしは横向きで、手を使い乍ら咥えてたけど、其れじゃあ旦那、何の為に立ったんだって話。あたしを仰向けにすると、足を開いた。
「潰れた蛙みてぇ。」
あたしはバレリーナじゃないから左右に真っ直ぐ足を開くなんて出来無い。当然蟹股で、滑稽な格好であるのは間違いない。天井に鏡が付いてたら、羞恥死する。
其れ程間抜けで滑稽極まり無い姿。
開いた股座に旦那の手は伸び、どろどろに熱い其処を弄る。マグマが流れるのを何故か想像した。
旦那は一旦手を離すとあたしの両手首を掴み、其処に導いた。
「自分でシて見て。」
潰れた蛙と笑った状態で口淫をして、尚且自慰迄しろってさ。
旦那、アンタとんでもない変態だよ。馬鹿に為る。最高、馬鹿に為ろう。
最初はあたし、旦那の目を見乍ら咥えてたんだけど、聞こえる水音は一体どっちの何だろう、って考え始めた時から目を暝った。舌と唇を動かし旦那を愛して、指先は自分を慰めてた。左右に開いた陰核を、あたしは只管撫で続けた。
「気持良い?」
答え無かった。答え無くとも旦那にはしっかりと判るから。眉間に一層力が入って、物を舐める状態じゃ無かった。気持悪い程頭は歪んで、ぐるぐる回転してる気分だった。繰り返す息だけで旦那を愛撫してる様なもんで、空気の出入りする音を聞いた。豚が鼻を鳴らしてるみたいな、変な音。
後少しでイくって所で手を掴まれ、口から物を引いた。中途半端な快楽に頭が痛く為り始めて、痺れる余韻に息は乱れた。
「何、で…っ」
「後一寸でイきそうだったじゃん。」
「だからっ…」
睨み付けるも束の間、痺れる其処に指が二本、断りも無く入って来た。内から沸き上がる痺れを持った気持良さ、背中は一気に熱く為り、逃げる様に上体を捻った。足はしっかり旦那に固定されてるから、一寸でもって云う抵抗。
「此処、気持良いだろ。」
あたしのスイッチは中にある。旦那が指の腹で刺激する其処、貫く様な快楽が来る。逃げたいのに足を掴まれてるから逃げれ無くて、上半身はもうのた打ち回る。
止めて、とか、離して、を姫路に近い喘ぎの中に忍ばせた。旦那って奴は意地悪で、聞こえてる筈なのに指を動かす。
此処を指じゃなくて、旦那の物で其れは強く突かれたら屹度死んじゃう。考えても虚しいだけで、考えない様に両手で頭を抱え目を隠した。
「嗚呼駄目、イく…」
「イくの?」
「嗚呼、もう、嗚呼もう無理。無理。」
膝に掛かる旦那の息、鼻で笑ってる…。
其れが引き金、あたしの身体には快楽って云う銃弾が、あそこから脳天に真っ直ぐ行った。腰を突き上げ、頭をぎゅっと腕で締めた。そうしないと頭がおかしく為りそうだった。
腕を離されると足は其の侭重力に従い、旦那がベッドから下りる動きに従った。
「時間だから、帰るわ。」
「待って…」
待って、ねえ待って頂戴。母様が呼びに来る迄居て頂戴。
云えない変わりに「見送るから一寸待って」って云った。でも、指の微かな間から見た旦那はそっと笑って居て、長いキッスをした後、静かに部屋を出た。
嗚呼、畜生。憎い畜生だよ、又逃げられた。
此の余韻が恋何だろうか。ずっしりとした微熱、まともな思考何てありゃしない。旦那の事だけ考えてる。
不思議だね。
次に客が来た時、あたしはすっかり旦那を忘れてる。




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