deadly kiss


「大学、なあ…」
大学に行くべきか否か、龍太に相談した。
「行って於いて損は無いと思うが、御前、成績良いだろう。士官コース驀地だぞ。」
龍太は士官に為りたいが為、大学に行った。然し俺は興味が無い。
士官に為って如何する。
色付き蘭でも送るのか?
「姉さんが行けと云うなら、行けば良いじゃないか。御前の人生だろう、何故俺が決めな為らん。」
てんで自分の事にしか興味無い龍太。大学に行っても将官に為らない奴も中には居る、下の方が楽だから、と。俺もそんなタイプ。
国立は、まあ無理な事は判る。頭の問題。東京にある国立って……?帝國大学しか思い付かない。
何が何でも国立に行かないと財政破産、何て家では無いから、私立大学を選んだ。私立ってのは、一寸の頭と大量の金があれば何とか為る。
大学ってのは、勉強したいから大学に行く奴と、仕方無し行く奴に別れる。就職の時有利、とか、見合いの時便利、とか。私大は完全に後者、龍太だって大学に行く理由が「将官コースに乗りたいから」だ。大学なら何処出てても良いんだ。
陸軍学校はこうして、軍に在籍した侭生徒が勝手に大学を選んでも良いが、海軍学校は成績で帝國大学に入れる切符を手にする。海軍学校の生徒会長、此れは自動的に帝國大学だ。
陸軍の奴等は大概私大に行く。だから俺も、其の流れに乗り、慶應に受かって仕舞った。
まさか受かる何て思わなかった。
だから姉に
「大金積んだの?」
と聞いた。
姉はぽかんとした顔で作って居たテストの手を止めた(姉は女学校の英語教師である)。
「拓也、拓也。拓也が思う程、家、御金無いのよ…?」
「やっぱり家、御金無いんだねっ?」
私大に何か行って御免。とんだ姉不孝だ。そらそうだ、だって両親が居ないのだから、金何か無い。
「生活に困る程では無いけど、拓也の為に大金動かす程は無いのよ。」
「俺、将官為るから。」
「あら本当?贅沢させてね。」
「うん、大尉夫人位にはしてあげる。」
大尉で止まるのが俺らしい、と姉は頭を抱えた。龍太は勿論、目指すは大将である。
「此の違いって、何かしらね。欲が無いのかしら、拓也。」
「違うよ、龍太が強欲なだけだよ。」
「何だろう、やっぱり父親なのかな。」
俺の父親は快楽主義者、龍太の親父さんは現実主義者。
父親の違いは、凄い。
いや、こう云ったら俺と龍太の母親がおんなじみたいに聞こえる。違う、母親も違う。完全に違う。誤解しないで呉れ。幾ら快楽主義者の父でも、隣人の細君は孕ませないだろう。第一、在の御袋さんが父を相手にする訳は無い(と姉は云う)。
「まあ、兎に角、大学進学おめでとう。ちゃんと卒業してね。」
其れは龍太にも云われた。入るのは誰にでも出来る、と。
「あれ、進学祝い頂戴よ。」
「卒業したらね。」
「キス一つで良いよ、そしたら卒業出来そう。」
卒業したら盛大に御祝いし様ね、と姉はキスを呉れた。
在のキスは、今でも唇に残ってる。




*prev|2/2|next#
T-ss