03

私が部屋を片付けている間、電脳世界を飛び回っていたマグの下調べが終わったようで。ようやく彼女(AIだけどね)の外出許可も下りたところで、買い出しという名の散策へ。やっぱり引っ越ししたては何かと物が欲しくなるものだ。
アパートから出るとダッフルコートを翻しつつ人通りの多くなっていく道を歩く。途中、マグのナビゲーションによって米花百貨店とかかれたデパートを発見し、いざ!お買い物!!と、思ったのだが−−。

「あ…そういえば、お金」

ふと財布を見ると中には数枚のクレジットカードと1000円。
クレジットカードで買い物を済ませればいいかと思ったが、また現金が必要なこともあるだろうから今のうちにいくらか下ろしておくべきか…と思い、百貨店近くの銀行に入ったのが間違いだった。


「うわー…私、本物の銀行強盗ってはじめて見るかも」
【マスター、そんな呑気な事を言っている場合ではないのをお忘れなく】

−−銀行内に入って数分後、事件は起きた。
何の問題もなくお金を下ろし、そのついでにトイレへ。用を済ませて女性トイレから出た途端、乾いた銃声と悲鳴が銀行の窓口付近から響いたのだ。何だ、と壁から顔を出して覗き見れば御覧のとおり覆面で顔を隠した人間が4,5人。リボルバーやサブマシンガン、オートマチックピストルなど種類の多いこと。そして大勢の客と銀行の職員が彼らによって床へと座らされていた。

【ともかく…マスターは大人しくしていて下さい】
「はいはい、了解」

こちらで銀行内を探りますから、と言ったのを最後にイヤホンからマグノリアの声が聞こえなくなる。銀行内のサーバーにでも潜り込んだのだろう。マグノリアからの情報が来るまでしばらくは大人しくトイレで待つしかないか…と思っていると。

「…おねーさん?」
「!?」

やれやれ、どうしたものかと考えて強盗達の様子を窺っているとふと後ろから声をかけられる。振り返るとそこには眼鏡をかけた利発そうな小学生の男の子が1人。

「やぁ、少年。ここは危ないから隠れてたほうがいいよ」
「それはお姉さんもじゃない?」
「そう。…だから今、トイレに逆戻りするとこ」

−−どうやらこっちに来るみたいだし。
ガムテープで目と口、手を拘束した外国人の女性を連れて中年太りの銀行強盗の一員がこちらに向かってくるのを確認する。

そんな簡単にFBIと知り合いになれる小学生がいる訳ない!!

03.あるようでないような
Title by moss.