皆々様どうぞご笑覧くださいませ
深い泥梨の八月の宮を

絶望と嫉妬をケースにて飾り
「ご注意ください、魅入られぬよう……」

―✢―

通りゃんせ異国の怪談握りしめ
暗い夜道をさまよい歩く

昨晩の友達みんな確かめる
一人足りぬは花一匁

一人きり落ちていくのは雫のよう
死ぬも生きるもただ淡々と

ちっぽけなこんなわたしが生きる意味
欠けても誰かが埋めてしまうよ

何にもないでもそれでいい幸せな
夢が一番覚めれば痛い

叶えたい夢がなければこの世など
留まる価値さえ見い出せぬ場所

幸せは自分で決める
これだけは他の誰にも譲れはしない

運命は決まっているの人知れず
ウラモジタテハの暗号に見る

おめでとう一つ覚えの言葉が重い
誰にも知られず夜は更けゆく

虚しさに耐えられないよ
誰か助けて零に戻りたい衝動に敗け

おめでとう自然に微笑みこぼすよな
そんな“普通”に憧れてみる

伝えたい言葉はきっと幾つもない
繰り返される人の営み

言えぬから詩でたとえる不器用さ
届くといいなせめて一片

万葉とうたわれた歌の数々も
孤独なしには生まれなかった

特別なことなどないだから
他愛ないこと日々を埋めてく

そのうちにこれが宝になるでしょう
実感なんかまだ湧かずとも

みんなという言葉がこの世になければな
一人の寂しさ気付かずにすむ

嘘を吐き生きづらかった誰もかも
敵に見えてた十五の夏は

ゆらゆらと船旅に似てた学校は
ゆられゆられて海を眺める

卒業をした覚えなどないという
二段飛ばしに駆けあがる夏

人はみな自己中心と嘆きつつ
そういう我も盲目であり

誰一人向き合うことは難しい
こんなわたしの杓子定規じゃ

若くして燃え尽き果てて消えてゆく
その生き方に今憧れり

時たまに神さまのような人に出会う
捨てられもせんそんなこの世を

世の中に七十億もの人間がいて
巡り合うのは運命ですか

分からない時々それさえ分からなくなる
隣に君がいてくれるのに

全て無を書き付けるのがこの身なら
生きる意味などあるのでしょうか

世の中は因果応報に出来ていず
不条理ばかりがこの世を統べる

何百年名前が残る人も人
消えゆくだけの我と同じく

誰もまだ手に触れぬもの探すのに
一生費やす我は野ガラス

幾度となく文明の果てを見せられて
麻痺した我らは遠からず果て

誰一人愛したことなどないという
博愛主義の裏側の我

またねとは我は結ばぬ絶対に
約束不履行赦しがたくて

いつだって全力で生きる足跡は
惑いながらも一本の道

どう思う? 人よりほんの少しだけ
憂鬱症のジキルとハイド

いつまでも他人行儀が手離せず
親しくなるのがとても怖くて

二元論それでは語れぬ立ち位置は
千や二千ではとても足りない

振り向いて改めて見て人生の
長さに驚くその短さに

一年中朝日は生まれ変わるのに
見上げる余裕もない美しさ

咲き落ちる花にはその日が一生で
出会わぬ流れがまたすれ違う

恋なんて一生しない甘ったるい
幻想なんかに心は売れぬ

言わないよ言葉にすれば嘘になる
いつか誰かを好きになっても

恋はするものではないと君は言う
酸いも甘いも知り過ぎたあなたよ

どうしよう五・七・五……では収まらず
零れる思い持て余している

恋すると人は詩人になるという
わたしは何に懸想したやら

蝉の声だけには郷愁覚えよう
未だ離れたことのない故郷

蛍舞う景色に思いはせてみる
無声映画の恋物語

じりじりと身体がとけていくような
夏はこの身に熱だけ残し

食べ尽くし食べたところで満たされず
どうやら心が空いているよう

食べるものではなく誰と食べるかだ
もっともらしく響くものなり

この年になってはじめて気が付いた
家族そろった食卓の意味

おいしいとただそれだけで泣きたくなる
どうかしてるよほんとに今日は

創作に恋をしているのでしょうか
果てなき恋は絶望に似て

現実が辛いだからこそ夢を見る
夢が現実(ほんと)になったらどうする?

自らの喪に服しているつもりなの?
喪服のような黒服ばかり

何のため生まれて来たと今訊くな
苦しみ苦しみ苦しみ生きろ

生きること甘優しくは決してない
それでも生きろとあなたは言う

絶望の中でしか咲けぬ花なのです
元の色などとうに忘れた

たった今掴みかけてた自信とか
また落っことしたまた闇の中

食べずとも充たされることがあると知り
さてまたそんな日々とさよなら

時間がない時間がない時間がない時間がない時間がない

八月の熱さは心とかすよう
醜くとけた空は無表情

無関心それこそ優しさと同義
世界は優しいさて泣き喚こう

影ばかり深いのが夏
輪郭は蜩響く夕暮れにとけ

蝉たちが盛りとばかり鳴き狂う
命に一分の休息(やすみ)すらなく

先生は脳に異常はないという
脳に心は不在であるか

あと何を捨てたら夢に届くでしょう
届かないならいっそ死のうか

本当にわたしはここにいるのかな
問い続けるが答えなどなく

本当にわたしはここに要るのかな
問い続けるが答えなどなく

全てがね気のせい夢だと分かってる
生きても死んでも時は流れる

あなたは何故命を絶ったと問いかける
答えは返ってくるはずもなく

有名になりそれでもなお孤独でしたか
一生逃れられないですか

我は今同じ闇の中迷う
まだまだ地獄の一丁目かな

グラグラと頭のネジが外れかけ
ワタシハワタシハ……誤作動(バグ)る夕べか

ああはなりたくないだろう? 君に問う
嫌いな君には決してなるな

延々と今日を限りと打ち寄せる
波の随意(まにま)にきらりと光る

刻む名を迷う必要などないよ
永劫回帰の貝殻追放(オストラシズム)

青ざめた言葉を無数に拾い上げ
海の色した詩集を作る

貝殻に耳を当てれば甦る
太古の海の嘶(いなな)き一つ

闇の中降り続く雪を思い出す
きっとわたしは海百合でした

感情はとっくの昔に焦げ付いて
しぶとい理性が憎たらしくて

あの日から全てが踏み絵になりました
夢は宗教なのかもしれず

辛い時縋るものこそ神だという
贄はわたしの精神(こころ)しかなく

跡形も消えてなくなれこの世など
名なしの空のその後先など

風鈴の音さえ碌に届かない
其色月(そのいろづき)の夜に迷って

三日間会えないと気が狂いそうです
こんな気持ちをあなた知ってる?

手を伸ばす勇気がないの
本当にこの世のどこかに誰かがいるの

深海に住む魚たちのようですね
一人ぼっちの寂しさ殺し

明確りと濁った夜に海を見る
螺鈿の湿ったその彩りに

光さえ届かないのに鮮やかな
それは昔の思い出のよう

遠鳴りの雷の音を聞きながら
不意に打たれて死にたいと思う

立ち止まる自分を叱っているのです
窓から見える海を眺めて

居場所など未だに見つけた気がしない
気安く話せないからなのか

ゆるやかに死にゆく海に住む僕ら
美しいもの目に焼き付けて

日常が突如ぷつりと消えるなら
最後くらいは一緒にいたいね

気が焦り空回りする夕べかな
つくつくぼうしの声がこだます

君の詠む歌は欠点ばかりだと
言われて気付くこの稚(いとけな)さ

はやもはや入道雲も姿消し
また一つ夏を無為に見送る

今朝方の名残惜しさに涙して
狂えるのなら狂ってしまえ

才能とか天才とかってどうも嫌い
ルビは努力とふれないものか

羨ましい口々にそう言うけれど
皆持ってる誰も気付かない

歌詠みの才能などないわたしには
これが最後といつも思って

秋になれば少しは生きやすいでしょう
終わる季節を心待ちする




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