水も果て閑散とした水族館
水槽の前一人呟く

「ここにはもう、何も残っていませんが」
その瞳に映る永久(とわ)の夢かな

―✢―

君といた夏は幻のようで
真夏の空に三ツ星探し

名前を書くそれが過ちだと気付かない
人は物ではないというのに

神さまもご存知でないご様子で
自分以外のその愛し方

愛なんて重い鎖に他ならず
生まれた時から雁字搦めで

絡みつく信仰探しているのでしょう
冬の枯野の時計草

狂暴な思いもいつかは飼いならす
正気の中の空恐ろしさ

お世辞など覚える暇もありません
等身大の我のまま行く

責め立てる声に似ている雨の音
雪の静けさ何に喩えよう

凍てついた窓辺に君が置いてった
淡い暁露(ぎょうろ)の意味に戸惑う

寒くても寄り添う温度を否定する
一生こうして生きてくんだね

愛(ビーナス)は海の泡から生まれたのだと
その性質は変わらず脆い

手つかずの雪原などに威厳はなく
誰も土足で踏み荒らしてく

ごめんなさいごめんなさいと言い続け
生きている意味見失ったの

優しさも奪い取るのが当たり前
膳椀淵(ぜんわんぶち)も今やもうなく

身体より心が先に擦り切れて
痛い痛いと溢れる涙

冷たさにようやく生きてると感じ
吐く息白く生の証か

部屋の隅子どものように膝を抱き
無言の夜は何故に優しい

夢に生き夢に死ぬのが夢ならば
我の人生夢のまた夢

何一つ嘆く様子も見せずして
虧月(きげつ)は真昼に消えゆくまで

魚心あればと人は言うけれど
水の清きに魚は棲まず

舞い落ちる雪はいつしか見た景色
「……」でごまかせはせず

戻りたいいつの日になど訊かないで
明日の夜の夢でいいから

大切に思う心がすれ違い
息がし辛いこの世の中は

歌いたい歌とは違う詠めるのは
この苦さをまた歌に詠もうか

精神と躰(からだ)に心を引き裂かれ
とっくに死んだヰタ・セクスアリス

重大な我の決意を受け流す
君の態度に救われている

悲しみの涙が黄泉から溢れだし
それを海だと我々は呼ぶ

幼さを卒業したくて背伸びする
わたしの頭の上の君の手

夢ならば覚めないで欲しい心から
願った夜が幾つあったろう?

夢ならば早く覚めてと心から
祈った朝が幾つあったろう?

海の底集う命のよるべなさ
鯨の骨は箱舟のよう

生き延びて残るは形骸それのみと
知りつつ生きていく今日も

不正真珠(バロック)の落とし児たちよどこへいく?
個性大事と愛でられすぎて

ぶちぶちと夜の淵にて音がする
わたしの神経千切れゆく音よ

泥梨より咲きいずる白き蓮の花
光の雨が矢庭降る朝

辛い時背中合わせでいてくれる
決して表で語れぬ恋よ

何のため人は生まれて来るのでしょう
鏡のような水面に尋ね

人類は滅びましたと記述する
隣人さえもおらぬ寂しさ

心なく夢にたとえる人がいて
あなたのために生きた昨日を

思い出はやがて薄れて消えていく
挟んだ栞を忘れるように

何故かしら時の進みの遅い日を
忙しくなる日々がうらやむ

映画館皆と一緒に泣き笑い
上映終わればまた一人きり

言葉などありふれたもので構わない
明日の君と昨日の我へ

自分より不幸せな人探してる
そんな生き方君はするなよ

手のひらに収まるほどの我であれ
君に読まれるならば本望

水の合わぬ方はお引き取り願います
これより先は泥の海にて

再会の約束もなくまた今夜
マリンブルーの静寂にて待つ

亡くしたと分かっていてもこの思い
四十九日で忘れられない

助けてと言ってもどうせ届かない
喚き散らして散っていこうか

人として生まれたことが間違いで
ただ一行の詩ならよかった

悲しいねこれが自由かと思い知る
あなたのその手振り切るわたし

きらきらと輝いていたあの気持ち
失くした後に真贋(しんがん)を問う

いつまでも声も出せずにうずくまる
君の気持ちをぽんと押すから

海がきれい呟く君が恨めしく
無い海にさえ負ける思いよ

ごめんなさい優しい言葉をかけないで
堰(せき)が切れるの涙の堰が

夢さえも食わねば生きていけぬとは
お辛いですねきっとあなたも

生きていくただそれだけが難しい
弾みで首を吊りそうな夜

全力で泣いて笑って人生は
長さじゃないねと言いたくもなる

今もまだ君に焦がれるこの心
地の底深く置き去りにして

君に向ける幼い我の憧れは
下がらぬ微熱ゆるりたゆたう

声をかけられると怖いごめんなさい
隣の「誰か」に慣れていなくて

大切なことは自分で決めて来ました
今さら他人に甘えられない

ゆらゆらとゆらり揺られて海の上
今もわたしは船旅の途中

瑣末事生きる死ぬなど大騒ぎ
所詮全ては束の間の夢

志だけでも高く持ちたいと
壁にもたれて葉隠を読む

誰からも顧《かえり》みられぬこの身なら
せめて生きよう自分好みに

いつだって昨日の自分が恥ずかしい
日進月歩の君が眩しい

冬に咲く花よあなたは薄紅
名前を尋ね歩く軒先

ふと気付くわたしの縋るこの糸の
先はどこにも繋がらないと

誰からも要らぬこの身と知りながら
それでも場所をとらねばならぬ

世の中を笑い飛ばして生きられる
そんな強さを「今」に持ちたい

長雨も止むと気軽に言うけれど
同じ軽さでまた降り出した

安穏と生きるただそれだけでは磨かれず
少しの苦悩はあったっていい

勝敗がこの世の全てではないが
んなことはまず戦って言え

同じ日を生きたあなたに先越され
生きた心地も何もかもせん

立ち止まり動けぬこともあるものさ
それでも隣で待っているから

好きなどと一本調子で言えもせず
光も影も知り抜けばこそ

冬を越え春は来るかないつの日か
また来年の今日までの課題

一人生き死んでいくのを夢に見て
目覚めて未だ夢の中なり

いつからか我の心に咲く花は
名も知らぬ花凍てつきもせず

空高く雲がたなびく届かぬと
知りつつ眺めただ眺めている

ふらりと出る散歩の連れはおらずとも
いつの間にやら声は満ちたり

呼ばれたと時々思うことがあり
誰にと答えられぬけれども

神さまに愛されずとも別によく
誰か一人を愛せれば良かった

道端に落ちてた木の枝踏んづけた
……違った、それは海百合の骨

少なくともわたしの命に価値はない
綺麗事には興味がないの

『神さま』も『天国』、『地獄』も創作だ
わたしの愛した偽りの世界

『誰か』さえ創作だったわたしには
わたし一人しかいないじゃないか

人の声、温度に慣れることもなく
触らずにいて何もかももう

現実は虚構とあまりにかけ離れ
こんなに一人この世の中で

簡単に死ぬとはまさか言いません
冗談に聞こえるわたしの本音は何処?

誰よりも笑い上戸でありました
全ての短歌に(笑)をつけたい

神さまがもしも助けてくれるなら
も一度生きてみようと思う

明日までこの感情が保ちません日毎
繕(つくろ)う日替わりの我

一年ぶり出会うあなたはまた他人
始まりにさえ辿りつけない

去勢され死んでようやく赦される
生まれて来たのは罪或いは罰

思春期に周りに置き去りにされた
時の止まった時計か我は

蝋燭ろうそく取り 死さえ厭わぬとくと聞け
百物語の最後の一話

昨日さえ思い出すのは懐かしい
遠い昔のような気がして

自分さえ支えきれず又、立てもせず
誰の支えになれたでしょうか

家族など好きで選べるはずもなく
こんなわたしが家族でごめん

「普通」なら自分の外へ向けるもの
比重重たく自己愛の破綻

誰がために生きているのと問われれば
居残る意味を見出せもせず

何もかも諦めようと決めました
不思議と凪いだ海のようです

泣かないですむ生き方をしたいもの
今夜零時に迎えが来ても

切るような寒さこの身を拐す
もっと凍える場所へ行こうと

自分でね選んだ道ださぁ行こう
辛くはないさ強がり連れて

誰よりも気ままにけれど狂おしく
歌う歌わぬ歌うとき歌えば


 

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