燃ゆる血

032:血



 体の中と外の傷が徐々に修復していく感覚。数秒後にはすっかり開始直後の体になっていた。隣で治癒魔法を使用しているノクム・シュワラノールは、一切表情を崩さずに隣に立っている。
「ありがとう、ノクム」
「いいえ。この程度、造作もないことです」
 彼女の横にもう一人、姿を捉える。同学年のネゴザ=ヘビノだ。あまり戦っているところを見たことはないが、今回はイベントごとだから参加しているのだろうか。
「わしらも一緒に戦うよ。一人でよくもまぁ耐えたなぁ」
「お手伝いします。行きますよ」
 ノクムの足からはいばらがシュルシュルと動き出した。相対するクオリアと、一年生と思しき男の子めがけて動き始める。同時にネゴザの腰元の鍵が変形し、自らを守るように周囲へ浮かんだ。
「みんなでいかあで?」
「可能な限り動きを止めます」
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 いばらと並行してネゴザの手裏剣に形を変えた武器が二人へ向かった。とっさに避けた二人の後を執拗に追う。苛立ったゆおなクオリアの声が響いた。
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 二人の逃げる行く先に土の壁を出現させる。さすがに察知されるか、と思いきやクオリアはぶつかった。若干失速した彼女の足をノクムのいばらが捉える。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
「ツラヌキ……!」
 周囲に浮かび上がった土の塊と、ネゴザの武器が瞬時にその隙を狙った。石に埋もれた彼女の合間にネゴザの武器が入り込む。どの攻撃も死ぬほどの威力ではないはずだ。少しくらいは動きを封じられるだろう。
「……まだのようですよ」
 そばにいながら唯一逃げていたアッカの男の子がクオリアの埋もれている岩の上から持っていた斧のような武器を振り下ろした。思わず中のクオリアを心配してしまうほどの躊躇いのなさに目を見張った、その瞬間。
 粉々になった岩の中から何かが飛び出した。その動きはまるで人に見えず、そして足に巻き付いていたはずのノクムのいばらすらちぎってみせたのだ。
「三対一なんてセコいだろうが、なぁ?」
「ええ、本当ですね」
 さっきまで二対一で戦っていた奴らが何をいうかと思ったが、二人の後ろに人影を捉えた。なるほど、そういうことか。
「アルはやっぱりピンチの時に駆けつけてくれるよなァ」
 その視線、声は明らかにアルミリアへ向けられたもののはずなのにまっすぐ俺に届いた。二人の背後にアルミリア・バーナードの姿が見える。いつからいたのかはわからないが、クオリアが軽傷しか追っていないということは彼女が障壁を出して守ったのだろう。そしてアッカの男の子とクオリア両名に再度強化を施したに違いない。
 ニヤリと笑ったクオリアの口角が目に映った。
「こおよ!」
「っ、はい!」
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 間に合わない。土の壁の上空からクオリアがこちらの懐へと飛び込んだ。その後ろに続いてアッカの男の子の姿も見える。クオリアの鉄パイプは真っ直ぐにネゴザを狙っている。
「ネゴザさん! 危ない!」
「ハジキ!」
 土の壁の詠唱を再度行おうとした矢先、目の前に現れたアッカの男の子の切っ先が迫る。汗ひとつかかず涼しい顔をした彼の狙いはどうやら俺らしい。
「本当、よそ見なんて余裕ですね」
Il nostro una spada我が主の剣
 避けるよりも受け止めることでしか直撃を防げなかった。咄嗟に作り出したいびつな土の剣で彼の大きな打撃を受け止める。強化が一人もいないこちら側ではやはり実際の力の差が出てきてしまうのだろう。あとの二人を気遣う余裕すら俺には残されていなかった。
 先ほど見た通り彼の持っている武器は三つのようだ。その華奢な風貌からは考えられないほど大きな斧のような武器を振り回し、俺の追随を許さなかった。
「あなたの相手は俺です」
「……望むところだ」
 全身の血が、魔力が、沸騰するような興奮を覚えた。この男の子はどこかクオリアに似ている。



ターヴィくん、ノクムちゃん、ネゴザちゃん借りております。
もう少し続きますのでお付き合いください