邪魔するもの

036:散




Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 あの武器の名前を思い出した。バルディッシュ。以前、どこかの書籍で読んだことがある。そんなどうでもいいことを切っ先をふせぎながらぼんやり考えていた。
 彼の動きは野性的だ。本能の赴くままに体を動かし、しかもそれに体がついてきている。クオリアと組んで敵対した時に面倒だったのはそのためかと納得した。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
 バルディッシュの切っ先が首を切ろうと横に薙ぐ。とっさに身をかがめ、生成したばかりの土の塊をぶつけた。いとも簡単に砕け落ちる土の塊を目の端に捉える。
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 土を糸状に伸ばしてバルディッシュを固定する。すぐこちらへ向かおうとしていた彼は振りかぶった武器が動かないのに気づき、一瞬動きが止まった。
Gubbie della terra土の檻
 ちょうど彼がいた足元から真上に土を伸ばす。簡易的にできた檻に魔力を流し込んで強度を増していった。すぐ事態を察した彼はバルディッシュから手を離し、マチェットを取り出した。
Iron Maiden terrapin土の処女
 檻を破壊しようとする彼の動きよりも早く、さらに土を重ねて檻を密閉していく。まだ死なない、大丈夫だ。それよりも魔力の制御が難しくなってきた。バルディッシュを固定していた土の糸を戻した。さらに強く、絞るように彼を閉じ込めた檻を狭めていく。内側から魔力を弾くような力が土を押し返している。手のひらの皮膚が切れる。彼のマチェットが土を傷つければ傷つけるほど、ダイレクトに手のひらへ攻撃が当たった。
「っ、クソ……ッ」
 手のひらを閉じていられないほど、強い力だった。強化された腕力の強さを思い知る。気が抜けた一瞬、彼を締め付けていた土が弾け飛ぶ。
「まだだ」
Il nostro una spada我が主の剣
 自由になったバルディッシュを無造作に掴むと彼は真っ直ぐにこちらを目指した。全ての魔法を解除し、剣に全ての魔力を集約させる。普段の倍の速さで鋭さを増した剣はずしりと重たかった。バルディッシュの切っ先が振りかぶられる。今俺にできるのはこれで受け止めることしかない。
「ほんっとウザいんだけど」
 一拍おいて腕に響くだろう衝撃は、またもや来なかった。その代わり全身に熱が広がる。その声とともに俺と彼の間に業火が広がった。想像していなかった衝撃に思わず距離をとる。
「バカァ? 一対一で戦っても大したポイントにならないでしょうが」
 その名前を呼ぶ前に彼へ追撃が飛ぶ。茉紘の周囲に浮いた鬼火の球が四方に飛び回り、アッカの男の子の動きが封じられた。鬼火を弾いている間に茉紘はひときわ大きな業火を作り出し彼の頭上から落とす。
「ま、茉紘! 彼、死ぬんじゃ……」
「調整くらい余裕だっつーの。実際の熱じゃなくて魔力によるやけどだから時間経てば治るわ」
 あー、ウザい、と呟いて彼を包み込んだ炎ごと遠い方向へ飛ばした。一瞬で戦う相手のいなくなった俺は思わず呆然とする。茉紘は彼の行く先を眺め、すぐに鬼火を俺に飛ばした。
「治ったらさっさと広範囲に魔法飛ばしなさいよ。ったく、なんで僕がこんなことしてるわけ?」
 鬼火の触れた部分の傷が急速に治癒されていく。茉紘は浮遊魔法で浮くとさっさと人混みに紛れた。




 跳躍。ターヴィがレイを追っていったのを横目に、目の前で構える二人のクロー女子生徒を見据えた。アルに強化してもらったおかげで体は驚くほど軽い。とっさにアルが投げてよこした鉄パイプを両手に構え、正面から殴りこむ。
「っ、ネゴザ先輩!」
「ハジキ!」
 鍵のようなものが二人のクロー生の前に浮かぶ。両腕の鉄パイプは不思議な障壁に阻まれて威力が丸ごとこちらへ返ってきた。空中でぐ、と脚を踏ん張り地面に着地する。
 二人いっぺんに戦うのは難しいかもしれない。分散さえできれば……!
 そうこうしているうちに木属性の女の子が足からイバラを伸ばす。鉄パイプで迫るイバラを弾いた。根が生きている限りこの蔦は無限だ。素肌に棘がかすり、傷ができる。
 気にすることなく前へ駆け出す。物理攻撃さえ通ればなんとかなるはずだ。握りしめた両手の鉄パイプに金属性の魔法を流し込む。握りしめた部分が変形し、手のひらに鉄パイプが固定された。
 二人の間をめがけて鉄パイプを振り下ろした。地鳴りが響き、フィールドの地面が歪む。間一髪で別の方向に逃げ出した二人のうち、ネゴザと呼ばれた生徒を追った。
「ツラヌキ!」
 今度はネゴザが針のようなものを飛ばした。その切っ先には何かが付いている。なんだ? と思う前に、それが俺の目前に迫る。左手で叩き落とした、その時。
 鈍い爆発音がして目の前が真っ白になる。一瞬遅れて足に熱が集まる。痛い、なんだ、何が……?
「……うっお、なんだ!?」
「静かに。防御が間に合わず、申し訳ありません。離脱を推奨します。その足では戦闘続行は厳しいかと」
 見ると足が火傷に埋もれている。先ほどの爆発音は木属性の生徒の作った植物爆弾だろう。俺が攻撃を仕掛ける前に準備していたのかもしれない。
 骨に異常は見受けられないからそこまでの威力ではなかったはずだ。火傷も大してひどいものじゃない、目くらまし程度に使いたかったのだろうか。何はともあれ見事相手の攻撃に当たったわけだ。戦線離脱するほどまでの攻撃なら、クローにもだいぶ点数が入っただろう。
 悔しい。アルが俺の体を抱きかかえつつ、木属性の教師の集まる救護室へ連れてきた。
「すぐに直してくれ。俺はまだ戦いたい」
 教師は仕方ない、というような表情を見せ、足に手を這わせた。
「……私は先に行きます。また後ほど」
「おう、ありがとなアル。また支援頼むわ」
「かしこまりました」
 ピリッとした痛みが足に響き、やがて魔力が流し込まれていく。体の中の細胞が活性化して傷がどんどん治っていくのが見て取れた。フィールドに戻るアルの後ろ姿を見送り疼く体を抑えていた。
 もっと戦いたい。今失点した点数分、仕返ししてやりたい。
 両手で握りしめていた鉄パイプが手のひらの中でぐにゃりと変形した。


交流祭修練棟イベント 10時の部 02
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