放課後、校庭からサッカー部の練習する声が聞こえてくる中、私は教室にいた。
一人で帰るつもりだったが、その夢は儚く散ることになる。

「名無子っち」
声の主は見なくてもわかる。奴が来た。
「何?私忙しいんだけど」と、見せびらかすように教科書を鞄に詰め込む。
「これからデートするっス」
「やだよ、あんた目立つじゃん。私目立ちたくない」
黄瀬は現役モデル。すなわち顔がいい。イケメンと呼ばれる部類に入る。
なんで私のような平凡な女子に付きまとうのかはさて置き、黄瀬と出歩くと必ずと言っていいほど周りが騒ぐ。特に女子達。
なのに黄瀬は、
「目立っちゃうのはしょうがないっスよ。俺かっこいいスから」
なんて、頭をかきながら言うものだから腹が立ってしょうがない。
「あんたと一緒にいると、世の女子から恨まれるの。私まだ死にたくない。私が明日も元気に生きるために今すぐ帰れ。そして静かに消えろ」
「それ明らかに考えすぎだし最後ヒドッ!」
ひどいなんてあるものか。迷惑被るのはこちらの方だ。
気持ちでは、一緒にいたくない、というわけではない。
寧ろ黄瀬といると楽しいことが多い。
落ち込んでいるときは「元気出して?」なんて慰めてくれたこともあった。なんで私なんかに、とは思うけど。
私が一人でいると気になるのか、今日のように遊びに連れ出そうとしたり、話に付き合えといったり、部活の見学に誘ってくれることもあった。
少し鬱陶しいだけで、悪い奴ではない。優しい面をいくつも持っているんだ。
そんな黄瀬に、何かと心を許してしまう自分が憎くてたまらなかった。
いつまでも反応がない私を見て、黄瀬は「名無子っち〜」とつつく。
「やめて」
「うう、名無子っちがいつにもましてつれない……」
ぴしゃりと言い放てば、ショックを受けたのか悲しそうな顔をする黄瀬。
さすがに言い過ぎたかもしれないと、少しだけ胸が締め付けられた。
お詫びのつもりで「どこか行きたい場所でもあるの?」と聞いてみると、
「特にないっスよ」と、笑って返す。

「名無子っちと一緒にいたいだけっス」

ああもう、やっぱり黄瀬なんて嫌いだ。
「もしかして照れてるんスか?」
「うるさい」
「またまた〜」
私の顔を覗きこもうとする黄瀬の顔を手で防ぎながら、まだ熱い顔を必死に隠した。
「あ、じゃあ俺んちでデートってのはどうすかね!それならいいでしょ?」
デートと呼べるのか甚だ疑問だが、確かに周りの目を気にすることは無い。
「それなら……別に、いいけど」
「じゃあ決まりッスね!」

「一緒に帰ろう」と微笑む黄瀬に、名無子は答えるように手をとった。

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