知らない場所。車は通っていない。人はまばら。商店街だろうか、小さな店が軒を連ねている。
どこの国なのか、日付も時間も、何もかも全て、全てがわからない。
まだ上手く出来ない呼吸を、徐々に整えていく。
溺死だった。
意識を取り戻すと何故か最初から車に乗っていた俺は、何もできずアクセル全開の車ごと目の前の川へ落ちた。次第にしみこんでくる水に、状況を理解できない俺。パニック状態から少しずつ冷静さを取り戻した時にはもう、息ができる隙間は十センチ程しか残っていなかった。
わかっている。どうせまた死ぬのだと。それでも、その時の苦しみは本物で、捨てきれない希望を求めてもがいてしまう。そんなもの、絶対に無いと知りながら。
ジョルノジョバァーナによって永遠に死ぬことができなくなったこの身体。もしかすると羨ましいと言う奴もいるかもしれないだろう。
だがそれは、終わりのない地獄をさまよい続けるのと同じだ。安らぎの無い地獄。求めることすらも出来ない。
私の半身がいなくてよかったと、僅かに思う。
最期、苦しまずに逝けたのだろうか。あの時。
置いて行った私を恨んでいるだろうか。願うことなら、もう一度会いたい。
今の俺を見て、嘲笑うだろうか。頂点から落ちた俺を。だがそれでもいい。彼になら、笑われてもいい。もう一度。
「大丈夫、ですか?」
ふいに、少女の声がした。
俺に話しかける奴は今までもいたが、怪しんで近寄らないのが殆どだ。きっとまた不幸を持ってくるだけ。俺にとっての理由なんてそれだけだ。
「俺のことは放っておいてくれ……」
「でも、雨が降りそうですし」
「なら尚更だ。早く家に帰りなさい」
「それなら、一緒に私の家に来てください。ね?」
「だから――」
少女の顔を見て俺は、声が出なかった。
ぽつぽつと雨が降り始めたが、そんなことはどうでもいい。
生き返ったのかと錯覚するくらい、少女は私の半身に瓜二つだった。
「私、名無子っていいます」
強引に握られた手から伝わる彼女の温もりは、久しぶりに感じた幸福。
溢れる涙は、暫く止まらなかった。
(曇り空を見上げて泣いた/確かに恋だった様)