▼新開さんと同じクラス
▼三年生女子
▼チャリ部マネージャー
「東堂様ー!いつものやつやってー!」
「いいだろう。いくぞ!登れる上に――」
「キャー!」
昼休み。廊下から響いてくる黄色い声に、私は「またか」と呆れた声を出した。
視線は手元の携帯画面から離さず、その様子に少しだけ耳を傾ける。
複数聞こえる声から予想して、集まっているファンの女子は四、五人といったところか。
その悲鳴ともとれる声に「ありがとう」や「大切に使おう」という聞き慣れた声が混じって聞こえてくる。プレゼントを受け取っているのだろう。モテる男はすごいね、と隣の席の新開を見れば、まるで興味ないといった様子でつまらなそうに欠伸をした。あ、やばいつられそう。
「あの子達ってさ」
「ん?」
「東堂が何しゃべっても喜びそうだよね」
「そうだな」
「えっと……なんだっけ、登れる上に」
「トークは滑る」
「そうだ、それそれ」
「加えてこのデコっぱち」
「全然違うぞお前達!!!」
新開の台詞を遮るように割り込んできたのは東堂だった。音もなく近付いてきた東堂は私の目の前に腕を組んで仁王立ちしている。
「さすが森の忍者、いつの間に」
「違う!眠れる森の美形だ!」
東堂は私が忍者と呼ぶと必ず毎回訂正する。律儀なやつだ。私はその度に忍者の方が似合っているのに、と心の中で密かに呟く。
「ファンの子達はどうしたの?」
「オレと話して満足したら帰っていったぞ」
「ねえ素朴な疑問なんだけど、東堂って本当にかっこいいって思われてるの?」
「今更何を言う名無子。そんなの当たり前だろう!」
鼻を鳴らして喜ぶ東堂。本当にそれでいいのかな。
確かに、休憩時間はもう残り僅かだ。でも、好きな人とはギリギリまで一緒にいたいと思うのが、普通じゃないんだろうか。生憎私には憧れの人がいないので、ファンの子達の気持ちを完全に理解することは出来ない。もしかしたら何かルールがあるのかも。まあ、東堂のことだし、いっか。
「よかったな、尽八。頭の中が幸せで」
「うむ、ありがとう!」
「東堂、新開は別に褒めてないからね」
「ところで二人に言っておきたいのだが――」
「あ、新開。次の授業なんだっけ」
「数学だな」
「話を聞けー!!」
東堂の話なんてどうせ碌なことではない。聞いたところで面倒なだけ。それはもう三年目になる付き合いの私と新開にはわかりきっていること。
いつものように無視をしていると、諦めの悪い東堂が私の机を両手で叩きつけた。
「割れたらどうするの」
「大事な話だ」
「手痛くなかった?」
「ちょっと痛……じゃなくて!話を聞いてほしい!」
「じゃあ三文字でよろしく」
「無理だ!」
「はい、終わりね」
「違う!!待つんだ、頼むから聞いてくれ!本当に、本当に大事なことなんだ!」
「どうでもいい話だったら即終了だけどいい?」
「いいぞ」
その真剣な目に私は負け、渋々了承する。隣から「名無子も優しいやつだなあ」と聞こえてきた。そう思うなら何か言ってくれよ、と横目で訴える。新開はお得意のバキューンポーズで返事をした。この裏切り者め。
「オレの本当の決め台詞はだな……」
東堂は右手で髪を払い、反対の手で私を指差した。
「登れる上に、トークも切れる!更にこの美形!天はオレに三物を与――」
あと少しで言い切る。
誇らしげな顔をしていた東堂を凍りつかせたのは、昼休み終了を告げるチャイムだった。
「なっ……!」
「残念だったね」
「尽八より空気読んでるなあ」
新開が関心したように言った。顔を真っ赤にさせた東堂は鳴り終わったそれに向かって大きな声で吼える。
「何故このタイミングなんだ!?許さん!絶対に許さんぞ!チャイムめ!覚えていろ!!!」
「東堂うるさい」
「尽八静かに」
二人で注意しても全く聞いちゃいない。
それどころか、さっきよりも張り切った調子で「あとでリベンジしにくるからな!」なんて言ってくるので、私はただ一言「勘弁して」とだけ返した。
(学校の日常で10題/TOY様)