いつもより丁寧に化粧をしてコートを羽織る。
こたつに入り暇そうにテレビを見ていた人外二人組に「出かけてきます」と声を掛けて、私は一人、とある場所へ向かった。

「いらっしゃいませ」
薄暗い店の奥からやってきた長身の男は、私の顔を見るなり「ああ」と呟いた。
「お久しぶりです、承太郎さん」
彼は空条承太郎さん。この店で働いている内の一人だ。今日も帽子が似合っていることを伝えると、そうか、と一言。冷たい反応に、気を悪くさせたのでは、と不安になる人もいるだろうが、口数が少なめな彼は、これが通常運転になる。
「そろそろ来るだろうと思っていた」
「なんと……それもスタンド能力ですか?」
「いや。ただの勘だ」
「すごい勘」
ここは高級焼き肉店。店の存在自体は昔から知っていたのだが、実際に入ったのはあの人達と暮らし始めてからだったと思う。
給料も入り、たまには一人で贅沢な食事もいいだろうと、以前から気になっていたこの店に入ったのが始まりだった。それ以来、私は気に入り今ではすっかり常連だ。
というのも、常連になった理由の一つに、私と彼の間に奇妙な縁があったからだ。
「DIOはどうだ?」
「元気も元気ですよ。昨日の夜も、まあ暴れてくれまして。カーズさんとDIOさんが突然始めた頂点対決だか、なんだかわかりませんけど。私にしてみれば、どっちが頂点でもいいんですよ。カーズさんは急に羽根広げるし、DIOさんは服脱ぎ始めるし……好きなドラマを見てたので、ずっとスルーしてたんですけど、部屋の畳が宙を舞った時はさすがに焦りました」
「それは大変だったな。まあ、ゆっくりしていってくれ」
変わらない表情で私の愚痴を受け止め、しっかりと期間限定のメニューをオススメしてから、承太郎さんは奥に消えていった。
どうしてDIOさんの話題が出たのかはもう忘れてしまったが、昔、承太郎さんとDIOさんがドンパチやりあったという話を聞いた時は、それはもう驚いた。同じように、承太郎さんも驚いていたと思う。どうして、スタンドも見えない平凡な私が、DIOさんを知っているのかと。理由を話して、一緒に暮らしていると伝えると、「凄いな」と関心されたのは懐かしい話。
「あれ、名無子さんじゃないスか」
私がメニューと睨めっこをしていると、コツンとテーブルにお冷が置かれた。顔を上げればにこりと笑う彼と目が合った。
「久しぶりっス!」
彼は東方仗助君。現役の高校生で、承太郎さんとは親戚だと言っていた。
「久しぶりだねえ。元気にしてた?」
「おかげ様で、めちゃくちゃ元気っスよ!つーか、名無子さんまた綺麗になりました?あんまり遠くの存在にならないでくださいよォー、本当に手が届かなくなっちまう」
「またまた、仗助君は褒め上手だなあ」
縁というのは不思議なもので、承太郎さんと私がDIOさんという共通点を持つように、仗助君と私も無関係というわけではなかった。
「まだ吉良達と一緒に住んでるんスか?」
「うん。平穏に暮らしてるよ」
「俺ぁ心配なんだぜ、名無子さん。なんでまた、よりにもよって殺人鬼なんかと……大人しくしてるみたいスけど。何かあったらすぐ電話くださいね。飛んで行くんで!」
「ふふ、ありがとう」
仗助君は優しい。私が、吉良さんの他にも同居している人が五人いることを知った時、彼は唖然としていた。自分で言うのもなんだが、ラスボス級の存在と生活している私は相当あやしい人物のはずだ。けれど、仗助君は会う度に私の身を心配してくれる。本当に優しい人なんだろう。スタンド能力を教えてもらった時も、その優しさを具現化したようだな、と思った。会うことが出来ないのが、本当に残念だ。
「ところで」と、仗助君が喋りだすのと、ジョルノ君が顔を覗かせるのはほぼ同時だった。
「仗助、承太郎に呼ばれていますよ」
「また後で来ます!」と、仗助君は慌てて奥へ消えていった。
「お久しぶりです。名無子さん。ウーロン茶でよかったですか?」
「あれ。私、まだ何も頼んでない」
「これは僕からのサービスです」
人差し指を唇に添えて、「内緒ですよ」と小声で話すジョルノ君。どこでそんな技を覚えたんだい。という突っ込みを我慢して、微笑む悪戯っ子に向けてありがとうと言った。
彼のことは、ディアボロさんのこともあり、名前だけは会う前から知っていたが、まさかこんなに若いとは思ってもみなかった。この好青年に、終わりのない死を与えられたディアボロさんは相当悪いことをしたんだろう。さすが悪魔の名前だけのことはある。
「そういえば、まだお父さんには会ってないの?」
「ええ。用事もないですからね。それに、会いに行ったところで時間の無駄です。名無子さんと会話をしている方がずっと有意義だ」
ジョルノ君とDIOさんが親子である事実を知った時は、二度見、いや五度見は確実にした。
言われてみれば、確かに人を惹きつける、あやしい雰囲気を持っている。ちゃっかりと私の向かい側に座るジョルノ君をまじまじと見つめながら、改めてDIOさんと重ねてみる。
「あまり見つめないで。恥ずかしいです」
何秒かあとに、ジョルノ君が照れた。
その後も、承太郎さんや仗助君がテーブルに来てくれて、仗助君が熱い視線を送っていたお肉を分けてあげたり。甘やかさなくていいですよ、なんてジョルノ君にお小言を言われたり。気付けば外は太陽が傾き始めていた。
「楽しい時間をありがとう」
会計を済ませ、コートを羽織り鞄を肩にかける。それぞれ仕事があるだろうに、三人はわざわざ見送りに来てくれた。
「俺も楽しかったッス!」
「帰り道、気を付けろよ」
「はい。また来るね」
彼らに向けて、ひらひらと手を振る。ジョルノ君がふいに手を差し出した。
「待って、名無子さん。忘れ物です」
忘れ物なんてしていただろうか。思い当たるものは無いが、同じように手を出す。すると。
「どうぞ」
ジョルノ君の手から綺麗な花がゆらりと咲いた。
仄かにピンク色がかった、可愛い花。
「また、会う日を楽しみに」
本当に、この子はどこで覚えてくるのだろうか。ありがたく受け取り、私はその場を後にした。
帰り道。すっかり暗くなっていたが、少しだけ寄り道をする。
花瓶、買って帰らなきゃ。

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