夜のヨコハマを銃声と悲鳴が彩っている。
少し離れた場所から聞こえる喧騒を背景音楽に、彼はジャケットの内ポケットから取り出したそれを頭上に翳した。

「情報屋、ねぇ…」

手のひらの中程まで包帯に覆われた腕が街灯に翳すのは濃紺のカード。
ギフトカードに似たそれは厚みのある上質な紙で作られていること以外は何の変哲もない紙だ。しかしヨコハマの裏社会において、これがもつ価値はただの紙より遥かに高いのだから世の中は不思議なものである。

「…所謂招待状のようなものかな」

くるりくるり。街灯を浴びて生白い指が、カードを挟んで上下左右あらゆる角度で回す。
しかし回しても回してもカードはただのカードでしかなく。やがて興味が薄れたのか、彼は再びカードをジャケットの内ポケットにしまった。
首領から受け取った次の任務に必要なものだ。いかにつまらないものでも無くす訳にはいかないし、とそこまで考えて彼は顔を上げた。

「遅い」

彼がここで街灯を眺めたりカードを観察したりしてから、体感ではもう十数分ほど経っただろうか。その間に部下に頼んだ筈の仕事は未だ鳴り止まない喧騒を聞くにまだ終わらないらしい。
たった数十人の非異能力者を殲滅するだけの仕事、一体何にそんなに時間をかけているのだろうか。

「…全く、手のかかる」

思い浮かべたのは少し前に彼の部下になった少年。己の訓練で少しはマシになったかと思いきや、この程度の仕事にこんなに時間をかけるようじゃまだまだだ。
はぁ〜と誰もいないことを良いことに盛大なため息を吐き出して、彼はビルに預けていた背を放して歩き出した。行き先はもちろん未だ鳴り止まぬ喧騒の元。

「芥川君は後で仕置きだね」

彼の名は太宰治という。