よろしくと名乗りあった後、アンナはふと私を見つめた。どうしたのかと首を傾げると一言。
「…エクラ、あなたすごく軽装ね」
「…言われてみれば」
ていうかこれは寝巻き、とは言えず曖昧に同意する。布団に潜った最後の記憶通りに私の服装は柔らかな生地の寝巻きだった。ワンピースタイプで着ていて楽なそれは割とお気に入りのものだ。しかし、とアンナに視線を移せば…。
金のラインが入った白い分厚そうな生地の上に、翼のような飾りのついた重そうな鎧。下半身はショートパンツだろうか、比較的軽装だがブーツにもまた部分的に金の鎧が取り付けられていて。
「でもアンナ、すごく重そう…」
「鎧なんだもの、当然よ!でも、そうね。エクラは戦えるの?」
余程嫌そうな顔をしてしまったのだろうか、私の顔を見てアンナは可笑しそうに噴き出した。
つられて笑いそうになるも、ついで投げかけられたアンナの問いかけに表情が固まる。
「ううん、全然」
呼ばれた声にこたえた後、映像のようなものを見た。それは多分この国が今置かれている状況をまとめたようなもの。
異界への【扉】を開く力を持つアスク王国と、その【扉】を閉める力を持つエンブラ帝国。対となるはずの二つの国はいつしか争うようになっていった。
異界へ干渉するべきではないというアスク王国と、異界の全てを支配するべきというエンブラ帝国。争いは終わることなく、ついに異界の英雄までもを引きずり出した戦いに発展した。
そして終わりの見えない戦いに決着をつける、その為の戦力の一つとして喚ばれたのが私だった。
いつの間に召喚などというファンタジーな能力を手に入れたのかは謎だが、その力が確かに私の中にあるのだと腕に抱えた白い銃が仄かに輝き告げてくる。銃の光に呼応するようにどくりと高鳴る鼓動、胸の奥に感じる不思議な感覚。熱が溜まっていくような感覚にほうと息を吐き出した。
「そうね、確かにエクラに戦いは向いてないかもしれないわね…」
そんな私を見てアンナは小さく笑った。そして徐に手を取られる。
するり、硬い革の手袋が手の形をなぞる。手首を掴んだり、腕を撫でたりと戯れのような動きをするアンナの手。擽ったさに手を引っ込めようとしたが、どこか切なそうなその表情にされるがままにしておくことにした。
「…細い腕ね。戦えない貴方を、私は巻き込んだわ」
「…、」
「けれど貴方の力が必要なの。身勝手なことだとわかってる。でも私は皆が辛い思いをするのは耐えられない、だから」
「わかってる」
捲し立てるような言葉を遮る。
わかっている。そんなことはわかっているのだ。それでも、
「わかってるよ、アンナ。貴方の強い願いが届いたから、私はここにいる」
あの声に応えたいと思ったから、世界を越えた。
「だからアンナ、私のことしっかり守ってね」
「え、」
ぱちりと瞬かれる瞳に笑う。きっかけは貴方の声だけれども応えたのは私の意思だった。だから悔やむ必要などないのだと、その思いが伝わるようにと笑顔を返す。
「だって私戦えないもの。アンナが守ってくれなきゃ」
「……もう、でもそうね。隊長だもの、エクラのことは私がしっかり守るわ!」
アンナの表情を明るい笑顔が彩る。
眩しいそれに目を細めていたらぐっと強く手を引かれた。
「そうと決まればまずはこの部屋を出ましょ!お城の案内もしたいし、それにエクラの服も買わなきゃ。いくらなんでも少し軽装すぎるものね」
「あっ、アンナ、ちょっ、引っ張らないで!こける…!」
ぐんぐん進んでいくアンナの手を引っ張り返せば更なる力で引っ張られた。怪力の予感を感じて大人しく力を抜く。
小走りに彼女を追いかけながら、後ろからその顔を覗けば弾けるような笑顔を返されてまぁいいかと思ってしまった。そしてそれはきっと仕方のないことなのだ。だって、なんだか
「…アンナって強引」
「何よ、いけないの?」
「…ううん、むしろ好きかも」
「なっ、」
髪と同じ色に染まった頬に零れるように微笑みが漏れた。
なんだか私は彼女が好きみたいなのだ。
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