「エクラ、」
掛けられた声に、初めての召喚の余韻が抜けないまま振りかえる。眼前に立っていたアルフォンスは穏やかに微笑んでその手を差し出した。
「召喚を見せてくれてありがとう。君は正真正銘の異界の大英雄だ。お目にかかれて光栄だよ」
「…ううん、貴方も信じてくれてありがとう」
握手に応じてかけられた言葉は何となく仰々しいもので。それに対して何を返せばいいのかわからず、返した言葉は当たり障りのないものになってしまった。
けれどそれを気にした様子もなくアルフォンスは青の瞳を細めた。握手のまま握られた手に力が籠められる。固い手だった。
「改めて、はじめましてエクラ。僕はアルフォンス。特務機関の一員…そして、このアスク王国の王子だ」
「王子…!」
穏やかで気品のある立ち振る舞い、仰々しさすら感じる言葉。驚きはしたがなるほどといった感じだった。
それでも王子という存在を始めてみる驚きからか、思わず感嘆の声が漏れる。すごいすごいと食いつきそうになって、そこで今まで静かに様子をうかがっていた彼が口を開いた。
「ねぇ、」
「あ、レイ君」
「…レイでいいよ。それよりあんたは…」
翠の瞳が真っすぐにこっちを見つめていた。その真摯な瞳に問い掛けるような色を感じてふと気づく。自己紹介らしい自己紹介をしていなかったことに。
「私はエクラ。あそこの、」
「ん?」
「赤髪のお姉さん、アンナに召喚された召喚士だよ。レイみたいな『英雄』を召喚して力を貸してもらうことが役割なの」
「召喚士…」
アンナを見ながらそう言えばお得意のウィンクを返された。かわいい。
軽く要約しながらレイにそう説明すればへぇみたいな顔で見られた。そしてじっと私を見つめてくるレイ。なんとなく察するにこの顔は…。
「見せてよ」
「あ〜」
「あんたの召喚術、見たいな」
そう来ますよね〜。
疑い半分好奇心半分の眼差しを向けられてアンナの方へ視線を向ける。私としては二回目を求められても特に不都合はない。アンナさえよければといった視線に、アンナは笑顔で応じてくれた。
「エクラさえよければいいわよ。戦力が増えるのは歓迎だわ。ね、アルフォンス」
「そうだね。召喚を見せればそこの彼が仲間になってくれるなら、これほど心強いことはないよ」
「だ、そうだけど。レイは召喚を見せたら私たちの仲間になってくれる?」
アルフォンスの言葉にそう問いかければレイは何言ってんだとばかりの視線を向けてきた。えっ何その眼差し。
「別に、見せてくれなくても協力はするさ。闇魔道の勉強はどこでもできるからね」
「レイ…!」
なんていい子なんだ。私の感極まった声にレイは居心地悪そうに目線をさまよわせてから、再び視線を合わせてきた。
あ、やるならさっさとってことですね。わかります。
「では、もう一度。アンナ達もレイも、少し下がっててね」
「うん、」
再度天井に向けて銃を構える。レイの興味深そうな視線が突き刺さっているのを感じながら、今度はそう気合を入れずにトリガーを引いた。
銃声は響かず、再びの衝撃とともに銃口から発射されたのは青色の光。それがぐぐっと天井辺りまで登り、行き先を変えて目の前の床へと降り立つその瞬間を今度は私もしっかりとこの目に焼き付けることができた。
銀の燐光が降り注ぐ。青い光を追うようにして光の軌跡をたどりながら舞い散るそれが弾けて辺りに散らばる。
一際の眩さ、それが晴れたとき視線の先には一人の青年がいた。
白髪の青年は先ほどのレイと同じように、まるで眠りから目覚めるように瞳を開いた。ブラウンのような、金色のような色合いの瞳が私を映す。
「僕はルフレ。クロム自警団で軍師をしているんだよ」
「軍師…」
「策を講じることなら、任せてくれ」
そう言って彼は穏やかに微笑んだ。
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