アメティストの憂鬱


ほぼ無人島である小さな小さな島に、好き好んでやって来た物好きな海賊達がいた。
その人達は冒険をしに来たのだと話していたと人伝いに聞いた。
子供が言っていた話だから何処までが本当かは分からない。
私と三つ離れた島の子だ。
嘘は言わないとは思うけれど。

因みに私はつい最近この島に流れ着いた漂着者である。
この島の隣の更に隣のこれまた小さな島から、禁忌を犯して流された。
代々島に伝わる"悪魔の実"とやらを食した。
不味かった。罰ゲームだからといって食べるべきではなかった。
流された時に海水に触れ、力が抜け死にかけたが、運が良かったのか近くの島に流れ着いた。
記憶喪失のフリをしてこの島でのうのうと過ごしているのが現状だ。
私が生きている事がうっかり島にバレでもしたら恐らく次こそは命はないであろう。
島の女性は私を樽に詰めて流す事を嬉々としてやってのけた。
私の味方は出身の島には誰もいない。
母親さえも。

その為、万が一の事が無いとは言い切れないので海賊達に私の存在がバレぬ様、注意をして過ごすつもりだ。
あと島の男に見つからないようにする事も重要である。
あの実を食べてから何故か男に非常に性的に詰め寄られる様になった私は死ぬ程困っている。
そのせいで島の女性の反感を買い、流された。
禁忌とか関係ない私怨だと思う、これ。

この島にも男がいるので念の為逃げている。
住む場所を追われる経験は一生に一度で良い。
だがしかし、現在進行形で三つ年下の子に襲われそうである。
確かに前の島では襲われる事は日常茶飯事ではあったが周りの女性が死にものぐるいでそれを止めたし、年下となるともう私はどうしたら良いのやら。
はぁはぁと息が荒い少年を見つめる。
割と力が強く抜けられない。

まぁこんな事になったのも島を追い出されたのも全て私が悪いから天罰が当たったんだな。
父親に襲われ、ハジメテを散らす事になった様になったのだからしょうがない。
母親が怒るのも無理はないが私は悪くない。
人生良い事無いな。
どうにでもなれと、抵抗を止めてぼんやり空を見上げていると草むらからガサガサと音が聞こえた。
おい、まさか助けてくれるのか。助けが来たのか。
ガサリと音を立てて草むらから出てきた人物は、私に乗っかっている少年に蹴り飛ばした。


「レディーに何してんだテメェ!!!!!」


蹴り飛ばされた少年は「ぐぇ」と声を出して倒れた。
あぁ、有難いが、彼はどう見ても話に聞いていた海賊で。
そして何処からどう見ても男だ。


「大丈夫ですかレディ!…ぉ、」
「…ありがとう海賊さん。何も無い島だけどゆっくりして行ってね、それじゃ」
「ま、待ってくれ!」
「チッ」


お礼を言って逃げる作戦は失敗だったようだ。
仮にも恩人に聞こえないように小さく舌打ちをする。


「素敵なレディ、良ければ……名前を教えてくれないか?」
「……助けてくれて有難う。名前は教えないけれども、本当に有難う」
「ま、って、こ、こいつとはその、恋人…?」
「恋人だったら助けてくれて有難うなんて言わない」
「そっか。恋人、は?いるの?」
「いないけど」
「そう。そうか」


何なんだこいつ。
会ったばかりの人に恋人の有無を何故聞かれなければならない。
普通に答えてしまった私も私か。
男性であるから危険なのには変わりない。
取り敢えず後退りしながら距離を取る。

目の前の海賊はふと地面を見て、顔を上げて私に問うた。
「何で距離取るの?」と。
その質問が既に怖い。
取るわそりゃ。
ジリジリと詰め寄って来る奴から距離を取らない馬鹿がいるか。
しかもこの男、眉毛が変だ。
大きな島では流行っているのだろうか。
特徴的過ぎて一生忘れない気がする。


「え?本当に?」
「は?」
「今、一生忘れないって言ったよね」
「あ。嘘。声に出て……っ」
「っ、好きだ、好きだよ」
「ん、や、止めて」
「何を?何を止めればいい?この口付け?君を抱きしめる事?……名前を教えて。そしたら全部止めるから」
「んん、教える、教えるから!」


距離を一気に詰められ、体を抱きしめられた。
キスもされた。
怖い。こいつ怖すぎる。
名前を教えさえすれば全てが片付くんだと小さく「私は#name1#」と告げると、男はふわりと微笑んだ。
背筋がゾッとして、頭に警告音が鳴り響く。
逃げろ、逃げろ。
父親に純潔奪われた日、もう何も奪われる事は無いのだと安堵した。
周りの女性に疎まれても、襲われてる所を邪魔してくれるから。
でも、ここは。


「#name1#。俺は君に会うためにこの島に来たんだね。…………愛してる」
「……っひ、ぅ、」


助けられてすぐにまた、襲われる事になるとは。
服を捲し上げ、肌を這う手が気持ち悪い。
首筋に口付けられて、吐き気を催す。


「俺はサンジ。今日から#name1#の彼氏だ」


よろしくとにこやかに告げられ、絶望した。
祈りもした事の無い神様を恨んだ。
私が何をしたというのだ。
禁忌を犯した罰は既に受けたと思っていたのに、これ以上私から何を奪いたいんだ。
下半身に顔を埋めるサンジとやらを暗い目で見つめた。
これはただの強姦だ。
彼はあの日の父親と同じ目をしていた。
何かに引き摺られる様な、目。

ガチャガチャと音を立てベルトを外して「怖くないよ」と言われた。
怖いんだよ、気持ち悪い。
言いたい言葉ももう出ない。
「これで俺の」男がそう呟いた瞬間に、痛み。

一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに猿のように腰を振って、カクカクと気持ち良さそうな顔をしている男を見る。
お前は幸せでいいな。
私はこんなに不幸なのに。
いつか私の過去ごと全てを受け止めてくれる素敵な人と結婚したいと思っていた夢は、もう、訪れない。


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