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着任


主さまが身罷られて二年。よほどの御力を主さまはお持ちだったのでしょう、刀剣男士達の人型は消えることなく日々を過ごしておりました。そして任務成績が良かったため、刀剣男士だけで過ごしていることを見逃されていた当本丸。けれどいよいよもって新しい主さまを冠せよとの政府からのお達しがあり、当然の如く刀剣男士達は猛反発をしました。なぜならば、主さまはとても穏やかで、優しくて、ひとりひとりを慈しんでくださる方だったからです。その在りし姿を大切にしたい、この本丸には主さまに代わる者はいらない、とは刀剣男士の言い分でした。しかし政府は『それならば本丸は解体、男士は本体に封じる』との通達を行い、両者の歩み寄りとして新しい主さまはお身内の方と決まりました。



新しい主さまがいらっしゃる当日。私めは政府へ赴き、新しい主さまがどのような方なのかを聞きました。曰く、政府の上役と仲がよろしいと。曰く、二週間ほど他本丸にて大まかな審神者の仕事を学ばれたと。曰く、新しい主さまの時代の生活様式ならば暮らしていくのに問題はないと。

「審神者名は『加奈』と名乗るそうだ。ランクは『良』。」
「『良』でございますか。ご立派です。」
「…だが、あそこは男士が難しい。サポートしてやってくれ。」
「もちろんでございます。主さまを助けることが私めの仕事ですから。」
「頼んだぞ。」

一通りの情報をいただき本丸へ戻ってしばらく、私めが待つ方へ初めて見る人が歩いて来られました。ああ、あれが新しい主さま。驚いている主さまに自己紹介をすれば、『ずっと側にいてくれるのか』との不安げなご様子で。はい、おっしゃる通りでございます。私めは主さまが審神者をお辞めになるその瞬間までご一緒させていただく所存にて。そう答えると、嬉しそうに笑って私めを抱き上げてくださいました。白く柔らかい手…きっとこれまで大切な存在として慈しまれてきたのでしょう。私めも加奈さまのお側近くで役に立ってみせましょう!



「こんちゃん、おやつ何にしようか?」
「こんちゃん、一緒にお風呂に入らない?」
「こんちゃん、万屋ってところに行ってみたいなあ。」
「こん!それは危ないから触っちゃダメ!」
「こんー!?勝手に油揚げ食べたでしょ!」
「ふふっ、嬉しいなあ。こんなにかわいい子が近くにいてくれるなんて。」

加奈さまは大変お優しい方です。ほとんど離れで過ごされておいでですが、時々外に出られる際には必ずお土産をくださいます。油揚げを使った食事もたくさん出してくださるし、毛並みを整えてくださる時は膝に乗せてくださいます。私めと話す時はよく笑ったり、たまに怒ったり、拗ねたりなさることも。お気持ちを素直に見せてくださいます。その端々に前の主さまが垣間見えて、懐かしく思うのです。お二方ともとても素晴らしい主さまで、私めはなんと幸せな管狐でございましょう。…そんな加奈さまですが、刀剣男士の前では感情を隠されております。仕事には支障がないので私めが口を出すことは差し出がましいと控えていますが、それはとても事務的で本来の加奈さまからだいぶかけ離れてしまっておいでです。何でも刀剣男士と主さまは互いに不干渉で、と決め事をされたようで…。このままではよろしくないのは私めにも分かります。

「こんちゃん、今日も一日お疲れ様。一緒に寝よう。」
「ええ、喜んで。」
「おばあちゃんの話、聞かせてね。」
「さて、今日はどのお話に致しましょうかねえ。」

私めを腕に抱き、『もふもふー!』と顔を埋められるのは加奈さまの日課。少しくすぐったくもありますが、そうされるのは私めも好きです。このような愛らしい主さまを刀剣男士は知らないのでしょう。とても惜しいことと思います。いつか…お互いに歩み寄れる日は来るのでしょうか?


2017/11/12 掲載