うちは忍者5

結婚は人生の墓場だ


部屋に篭ってただ書類と向き合う。
扉間にまんまと乗せられてしまった感が否めないこの状況。何故いつもこうなるのだろう。分からない。
籍を千手に入れられてからというもの、こうして扉間の仕事を手伝う日々だ。これで給料も何もでないのだから詐欺である。今問題のブラック企業というやつか。怖い。
問題の扉間といえば、涼しい顔をして黙々と仕事をしている。人間じゃねえ、こいつ。
結婚生活とはこんなものだったのか、まさに人生の墓場。お、上手い事言ったな私。だが切実すぎて笑えない。ハハハ。
しょうもない事を考えつく位私は今の状況に参っている。こんな時は、

「煎餅が、煎餅が食べたい…。」
「…何だ急に。」
「こんなに書類に囲まれた生活初めてだ…、癒しが欲しんだ。煎餅と言う名の癒しが。」
「煎餅に癒し効果などあったか…?」

煎餅の力を疑う扉間が信じられない。頭領が居なくなってから満足に煎餅を食べていなかったのだ。ああ、成る程。私の失敗の原因はここにあったのだ。

「疲れた時こそ煎餅、辛い時こそ煎餅。常識だろ。......あぁ、煎餅を得られない悲しみで写輪眼が開眼しそうだ。」
「……新手の脅しか?それとも本気で言っているのか…?」
「私はいつだって本気だ。」
「そうか。舐めていた、お前の阿保さを。」

ここは焦って煎餅を持ってくるところだろう。話には乗ってくれるが仕事の手を休めず全然本気にしてくれない扉間に文句の十や百言ってやりたいが、煎餅切れの今の私にそんな元気も無く。
書類が広げられている机の上に頭を突っ伏す。

「煎餅ー、煎餅ー。」
「……。」
「私にとって煎餅は特別なんだ。幼少の頃から食べてきた普遍的おやつ。一時は食べ過ぎて嫌いになったりもした。見たくもない時期もあった。だが、距離を置くと何だか辛かったんだ。もう食べ飽きるとかそういう次元では無くなったんだ。味云々じゃない、その存在を私の内に取り込みたい。喉を通っていくのを感じたい。そう、煎餅とは高尚な、高次元の神秘の存在。」
「……これも一つのうちはの病か、哀れなものよ。」
「……頭領なら直ぐにくれたのになあ。」
「...何だと?」

お。頭領の名前を出したら扉間の手が止まった。その代わり涼しい顔から一気に怖い顔になった。普段から悪い目付きが更に凶悪になっている。しかし扉間をその名前だけで動かせる頭領は、やはり凄いお方だ…。

「マダラがお前のパシリ、だと?」
「えええっ、そんな事誰も言ってない!頭領は優しいから自主的にくれたんだ、常備してくれたんだ、断じてパシリじゃない!私頭領パシってない!」
「フン…、成る程。マダラめ、好物で手懐けていたのか。参考にしよう。」

いきなり立ったかと思えば部屋を出て行ってしまった。あいつ偶に人の話聞かない時あるんだよなぁ、と扉間の机を覗いてみる。ちゃっかり書類の山は片付けられていた。なんだよ、自分だけ仕事終わらせて私は放置か。
扉間の椅子に座って、意味もなくガチャガチャ前後に揺れる。あー、煎餅食べたい。

「おい、火影の席で遊ぶ奴が有るか。」
「うわあっ!」

突然部屋に現れた扉間に驚き、椅子ごと後ろへ転げた。扉間め、忍術の無駄遣いは良くないと教わらなかったのか?

「いたた…、もっと普通の登場し…、そ、それはっ!」

扉間の手にあるもの、それは恋い焦がれていたマイスイートエナジー、煎餅。
煎餅と一言で言ってもその種類は星の数ほど、ではないがそこそこある。甘いやつは駄目だ、あれは煎餅の名を騙る別の何か。塩のやつも惜しいが駄目だ、あれは硬さが足りない。私にとって煎餅とは醤油で香ばしく焼かれたそれであった。その煎餅が、今目の前に。
ごくりと唾を飲み込む。

「私の為に煎餅を買いに行っていたのか?やばい、火影をパシリにできる自分が怖い。」
「パシリ言うな。これはワシの休憩の為に買っただけだ。欲しければさっさと仕事を終わらせる事だな。」
「……!」

扉間、やはりお前は姑息な奴だ。大事な煎餅を盾にして私を操ろうとする。頭領は純粋に、且つ素直に煎餅を私に与えてくれたものである。だが、敢えて此処は乗ってやろうではないか。
死んでもうちはのエリート忍者。お前が呑気に茶を淹れている間に事を済ませ、先に自分だけ煎餅を食べるという優越を味わせたりなどさせはない。

「ふっ、せいぜいお前は二番手さ、扉間。一番最初に煎餅を食べられるのは私なのだと理解させてやろう。」
「ああ、是非そうしてくれ。」

二つ湯呑みを持ってきた扉間から目をそらす。そんな生暖かい目で私を見るなっ…。
くそう、大人な対応なんかに屈しないんだからな。
でももし、私の仕事が終わるまで待っていてくれたら、肩くらい揉んでやっても、いい。


余談だが、扉間の肩はガチガチだった。こいつ…、どれだけ仕事してるんだろう。
明日からはもう少し気遣ってやろうと思う私であった。

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