うちは忍者7
忘れかけてる幼少期
父上を亡くし頭領様のお家にお世話になる事に決まったのが一ヶ月前。
父上と頭領様は仲が良かったし、その付き合いで以前から頭領様の御子息とも交流があった。そこそこ仲良くしてもらってる。
私にとってマダラ君は近所の優しくて頼りになるお兄さん、またイズナ君は切磋琢磨できる良きライバル的存在だ。
しかし、そうは言っても二人の内どちらかは、将来このうちはを率いるであろう次期頭領。間違っても同じ屋根の下で共に暮らして良いような存在ではないだろう。そう思うのだが、私は頭領様の他に頼るところが無い。
父を失った事による悲しみと、頭領様のお家に世話になっているという事への気遅れから図太いと評判だった私も流石に参ってきた。
今日は修行は辞めにして、気分転換に森にでも行こう。
「わったしはうちは〜、うっちはの子〜、つーよくて、かーわいい、しっのびの子〜。」
作詞作曲私の完全オリジナルの歌を歌いながら、良い気分で森の中を進む。
すると、森の奥に位置する湖に辿りついた。
森の緑が写り込んでいる水面は、覗き込めばうっすらと中の様子が見える程に澄んでいて綺麗だ。目に良さげなのもポイント高い。
戦場で戦うのが怖くてよく泣いていた私を、父はここに連れて来てくれた。つらいことは水が流してくれるさ、と。
そんな事を真顔で言っちゃうメルヘンチックな父だった。
あの時私は「そんなんで悲しみとか苦しみが消えたら、この世の中こんな事にはなってない」そう言ったんだっけ。
それで父を少し泣かせてしまったのを、今となっては悔やむばかりだ。捻くれた事を言って困らせてごめんなさい。
父を思い出したら、涙が出てきた。
涙で湿っぽくなった顔を冷たい水でバシャバシャと洗う。ぺちん、と気合い入れの為に、一発頬を両手で叩いた。いたい。
その時後ろでガサガサと草が揺れる音がした。
「何奴だ!」
振り返れば、あらまビックリ。
イノシシがいた。鋭い牙が生えてる。あれ? でもイノシシってこんなに大きかったか。私の知っているサイズの十倍はないか、これ。
これは、あれか。この森の主的なやつか。
そう思ってイノシシの目を見ると、心なしか神々しい気がする。微妙な空気が私とイノシシの間に流れる。
取り敢えず、頭を下げてみた。
すると、イノシシも頭を低くした。
おお、心が通い合った気がするぞ。
と思ったのもつかの間、イノシシはさらに前傾姿勢になって、勢い良く突進してきた。
反射的に斜め後ろへ避け、湖の上に立つ。さっきまで私がいた所の地面が抉れている。
怖っ、何だこのイノシシ。何でそんなに怒ってるの? 礼儀正しくお辞儀までしたのに。
「な、何なんだ、お前。まままさかっ、私を食べる気か……!」
その時、私の頭にある言葉浮かんだ。
「困難は自分の手で切り開け」
これもまた父の残した言葉だが、今まですっかり忘れていた。大切な言葉なのに、何故忘れていたんだろう。
しかしながら、これは今の状況にぴったりではないか。そうか、このイノシシはそれを教えに来たお告げの使者なんだな。
どうぞ私を倒してみろってか。ふ、よかろう。乗ってやる。
今夜の夕飯は猪鍋に決まりだな。
「お前を倒してっ、困難を切り開いてやる! この手で!」
早速、丸焼きにしようと火遁の印を結ぼうとした手を、途中で止めた。
火遁は基本口から火を吹いて攻撃する術だ。
それは本当に、父の遺言に沿っているのか?
自分の手で切り開くっていうことは、つまり、どういうことだ……?
***
最近兄者の様子がおかしいと思い、兄者に感知出来ない距離を保って尾行していた途中。
どこからともなく間抜けな歌声が聞こえてきた。尾行途中でもあるし何時もなら、呑気な人間もいるものだと捨ておくのだが、ある言葉が聞こえてきて無視出来なくなった。
(今、うちは、と言ったか……?)
兄者の尾行を仕方なく中断し、歌声のする方へ方向転換する。
「わったしはうちは〜、うっちはの子〜、つーよくて、かーわいい、しっのびの子〜。」
木の上から見下ろす。
個人情報ダダ漏れソング(誇張表現有り)を歌いながら意気揚々と、この湿っぽい森の中を歩く子供。
たとえ子供でも戦場にたつ忍者がいる事は、今の時代少なくもない。
だが、あんな奴が忍びな訳あるか、あってたまるか。たとえ子供でもうちは一族があんな馬鹿丸出しな筈がない、と信じたい。
ああダメだ。あいつ、うちはの家紋入りの着物を着ている。身元が分かる服を着るなんて、なんて奴だ。うちは確定だ……。
いや待てよ。うちはと言えども、非戦闘要員かもしれない。その可能性は充分あり得る。女の忍びは男に比べて少ない。
取り敢えず、様子を見る事にした。
(何をしてるんだ、あいつは……!)
うちはの忍び(仮)は、体術だけで猪を倒そうとしている。普通の大きさのものならば、それでも構わないかもしれない。意外な事に、女の動きは中々のものだった。悔しいが(仮)は取らざるを得ない。
だが、相手は猪の規格を超えた大きさの、もはや別の獣だ。毛と分厚い皮に守られた其奴の身体は大したダメージを受けていない。
うちはの忍びは苦戦していた。
(待て待て待て、何で俺はあんな奴を心配しているんだ? うちはの忍びなど、どうなっても良いではないか。)
そう頭の中では思いつつも、体は、手は、勝手に動いていた。
***
「えっと、ありがとう! 正直危ないところだったんだ。水遁の術、見事だな。」
「勘違いするな。別にお前の為では無い。」
何をやってるんだ、俺は。
結局、うちはの忍び、もというちはサユリを助けてしまった。
助けに入った事は明らかなのに、それを否定する俺を、女は首を傾けながら見てくる。
こいつ、よくよく近くで見てみると、結構綺麗な顔をして……。
「んん? なら何で……、あ! 分かったぞ。」
「な、何がだ。」
「猪鍋が食べたいんだろう。分かる、分かる。私も丁度食べたいと思っていたんだ。」
「はあ?」
「でも、理由はどうあれ、助けて貰ったからな。猪はお前に譲るよ。」
「……。」
こいつ、兄者以上の馬鹿だ。
ニコニコと間抜けな事を言っている以前に、まず、突然現れた他族の忍びに何の警戒も持っていなかったり、自分からフルネームで名乗ったりする時点で馬鹿確定だ。
「……いや、猪は要らん。お前の好きにすればいいだろ。」
「え、ホントか! 優しいんだな!」
しかし、そんな馬鹿相手に、もっと話したいと思ってしまう俺は、少しどうかしている。
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