望まない望みをきいてくれ


よわむしたこさんのはなし



ぐち、ずるり。音を立てて体を触手が這っていく。
腕に、脚に、首に巻きついて絞まったり弛んだりと、捕食する勢いで体の自由を奪う。そうしている数本の触手を操るのは、私の腹部に跨り私を見下しているエイトフットさんだった。
彼の、人間と同じ形をした両手は私の頬に添えられ、壊れやすいガラス細工でも触るかのように肌の表面を撫でていく。その反面、紫黒色をした本来の腕は粘液のようなものを残しながらぐちゅりと音を立てて私の手足をちぎる勢いで巻き付く。

何度も首を絞められて脳に酸素がまわらないためにぼーっとした頭と視界。ただされるがままに、シーツの海に身を浮かべている私を彼はイイ子と評した。

1本の蛸足が口に侵入して、中を撫でるように動きまわる。思わず閉じてしまいそうになる口を開けたまま、涎か粘液かも分からない液体を口の端から溢れるのをはしたないと思いながら耐えた。

「歯ァたてんなよ」

口元を歪ませ、しかし決して笑っていない目でこちらを見ながら忠告をした彼はうねうねとしたその触手を更に奥へ突っ込む。
喉にまで達した異物に吐き気がして気持ち悪さに涙が溢れるが、シーツをぐっと掴んで堪えればエイトフットの舌が涙を舐めとった。

「ほんっと、お前の涙は美味いな」

ちゅっちゅっと吸い付くように目もとに口付けながら、ずるりと口に入れていた1本を引き抜く。ようやくまともに吸えた空気を求めるように深呼吸すると生きた心地がした。

「えい、と…ふっと…さ、」
「#名前#、俺のこと嫌いになったか?」
「な…で、そん、な」

悲しそうな顔をしているの。
息も絶え絶えで上手く声が出ない。でもどうしても聞きたくて、口を開けば柔らかい口で塞がれる。エイトフットさんの吐いた息さえ逃さないように飲み込めば胸がじんわり熱くなった気がした。

「頼むから。俺を、早く俺を、嫌いになってくれ」

ぽつ、と目元に、口元に、数滴落ちてきた雫を舐める。

(しょっぱくて、全然美味しくないよ。)

震える彼の体を抱きしめることも出来ないまま、詰まった息を吐き出せば生温い空気にとけて消えた。


わたしと彼を繋ぐこの世界の崩壊まで、あと1日。

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