午前3時に溶けて消えた


重たい身体を動かして頭上に置かれた時計を見ると、布団に入った時よりも短い針が2つ先を指していた。もう2時間も経ったのに眠れる気配がない。こんなにも疲れて身体は重いし、明日も仕事なのに。
ひっそりとため息をついて寝返りをうつと、寝る前は背を向けていたエイトフットさんの体はこちらを向いていて無防備に寝顔を晒していた。

「(…寝顔はこんなに可愛いのになあ)」

いつも嫌味たっぷりの言葉が吐き出されるこの口だが、今出るのは微かな寝息だけだ。柔らかそうな唇を指先でつついても何の反応もなく、熟睡している様子に少し苛立ちを覚える。一緒にベッドに入ったのに、早々に眠りに着いた彼が羨ましくて仕方ない。私は眠れないのにさ。
まつげ短いな、なんてどうでもいい発見に、あまりまじまじと顔を見る機会がなかったことに気付いた。この人と目が合うとどうも照れてしまって、すぐに顔をそらしてしまうのだ。だ、だって目が合ったままだとエイトフットさんが間近まで顔を近づけてくるから。好きな人じゃなくても照れる距離だし!というかゲストの女の子にも顔を近くして、正直、嫉妬している……。ふつふつと沸く黒い感情をため息と一緒に吐き出して、エイトフットさんの顔をじっくりと観察するように見た。

「(肌めっちゃ綺麗な上にもちもちじゃん…)」

血色悪いし目元だって異様な紫色なのに、どんなテクスチャ使ってるのってくらいなすべすべ肌。きっと化粧水なんて使ってない天然モノ。両手で優しくつまむとちょっと癒された自分に嫌悪した。
唇を親指で弄るとゆるく食まれる。起きたかと内心どきどきしたがそうじゃなかったらしい。あ、なんだこれちょっと恥ずかしいぞ…。一瞬過ぎる情事の最中、この唇でよく啄むような愛撫をされることを思い出して少し体が熱くなる。
じわじわこみ上げるような熱を逃がそうと息を吐いて、唇からそっと指を離した。触れていた指が温かくて、自分の口元にそっと寄せる。間接きす。ふふふと声に出さないまま笑って、エイトフットさんを見つめる。
ちょっとだけ、してもいいよね。どきどきと五月蝿い胸のあたりをぎゅっと掴むと、自分からすることはほんどない、触れるか触れないかくらいのキスをして、深くシーツへ潜り込んだ。
エイトフットさんは起きてないけど、してやったぞって気持ちが大きかった。いつも彼のペースに乗せられてしまうから。

エイトフットさんの胸におでこをくっつければ、とくとくと心音が聞こえる。

「(…生きてる)」

当たり前だけど。タコの姿でも鼓動の音は聞こえたりするのだろうか。それ以前に、タコの姿ではこうやって一緒に眠ることもできないのだ。それは嫌だなあ。
見た事の無いタコの姿のエイトフットさんを想像してみようと目を閉じたけれど、全然浮かんでこなかった。
真っ暗な視界と心地いいリズムに、眠気に侵食されていくのが何となくわかる。今はもう触れなれた背中に手を回して途方もない安心感を感じながら私の意識はゆっくりと落ちていった。



◆◇◆

胸元から小さな寝息が聞こえ初めてから数分、俺は#名前#の小せぇ頭を力無く抱えて深く息を吐いた。
触れられた唇が熱を持った様にじわじわとして気になって仕方ない。いつも恥ずかしがって顔を真っ赤にする#名前#がまさか自分からキスしてくるなんて、思ってもみなかった。目を瞑っていたので顔が見れなかったのは非常に残念だが、楽しそうで嬉しそうで、そしてやっぱり照れていたのは見なくてもよーく分かった。
途中何度襲ってしまおうと思ったことか。相変わらずこいつは俺の気持ちなんか考えてねぇんだ。(まあ寝たふりしてたんだけど。)ちょっとばかりの苛立ちとどうしようもねえくらいの愛しさが込み上げてきて、俺もぬるいなァなんて人知れず笑えば#名前#の体がもぞもぞと動く。少しの隙間さえも埋めるようにぴったりとくっつく#名前#に、下っ腹に熱が集まったような気がした。ああ、いい加減にしてほしい…。(こいつも、俺も。)
でこに唇を押し付けて小さくおやすみと呟けば、背中にまわった手に力がこもった気がした。


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