指先にルビー
ペンの走る音と紙をめくる音が支配する空間で、私とジャックハートさんは事務作業に勤しんでいた。いつもはお喋りなジャックハートさんもこういう時はただただ無言で、2人とも黙々と自分の仕事を片付けていく。
「っ...痛い...」
ぴりっとした痛みを指先に感じ、作業の手を止めて見ればうっすらと血が滲んでいた。切れた...。ぽつりと呟けば向かいで作業をしていたジャックハートさんが立ち上がる。
「大変だ!絆創膏は?」
「バッグの中...あ、部屋に置いてきたんだった」
ここにはない、私物の入ったバッグの行方を思い出しながら、このくらい平気ですよーとひらひらと手を振れば隣に立った彼によって手首を掴まれる。
「人間は弱いんだから放っておいちゃダメだよ」
「このくらいなら平気ですよ」
「僕らなんか傷がひとつでもついたら首を切られちゃうんだ」
「首を......ああ、女王さまか...」
だから#名前#ちゃんも気をつけてね?と笑う彼に苦笑いを返す。指を見れば少し深く切ってしまったらしく、傷口からは血が垂れていた。
「ジャックハートさん、ちょっと手を洗ってきます」
「流しちゃうの?」
「え?」
「血。流しちゃうなら僕に頂戴よ」
掴んでいた手首を優しく持ち上げて口元に運ぶと、滴っていた血をゆっくり舐めあげた。傷口に舌が触れて再びぴり、と痛みが走って、痛、と呟くと、指先を口に含んだ。
「ぃっ...ジャックハートさん、痛いっ」
「んー...んふふ」
なんで笑ってるのかわらないけどこの人どSです。微かにちゅうと血を吸い取られる感覚がして、空いていた方の手でジャックハートさんの頬を緩くつねる。また、ふふふと笑って、加えていた指先を最後に1度舐めて手首を離してくれた。
「ごちそーさま!」
「お粗末様です...じゃなくて、急にびっくりするし痛かったです」
「ごめんごめん。でも血とまったでしょ」
「そうですけどそうじゃなくて〜〜」
睨みながらまた頬をつねる。いひゃいよぉと両手をひらひらさせるので離してあげれば、仕返し〜と私の両頬を優しく包んで手全体でむにゅむにゅと弄りだした。
「ふぁめて〜しゃっくひゃーとしゃん〜」
「ぶふぁっ...!#名前#ちゃん可愛い〜!」
うそつけ吹き出してるじゃん!抵抗してぷくっと頬を膨らますと、おっ!とジャックハートさんの手の動きが止まった。文句のひとつでも言おうと、ふぅと息を吐けば、瞬きの間に近づくジャックハートさんの顔。
「(近っ...?!)」
ぎゅ、と思わず目を瞑ると、唇にふに、とした感触。目を開くと三日月目をしたジャックハートと目が合って、固まってしまう。
唇が離れると頬を包んでいた両手もゆっくり離れた。じわじわと熱くなる顔を抑えると、ジャックハートさんは私を可愛いと言って笑った。
「しんぞうに、わるいです...!」
「だってちゅーって顔してたから」
しちゃった。とにっこり笑う彼にもう何も言えず、書類の山に突っ伏す。仕事、再開しましょう...と力ない声を出せば、怪我には気をつけてねとやっぱり笑われた。
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