右手の薬指1


この事務所に入ってからだいぶたった。

芸能界はいいことも悪いことも色々あって、この世界で一生やっていく!って強い意志がないとたぶん続かない。

俺はただダンスが好きってだけでここまできたけど、ダンス以外にも色んな刺激があって日々それを生きるパワーに変えている。

デビューして2年目。今は目の前のことをこなすだけで精一杯で、他に目を向ける暇なんてこれっぽっちもないと思っていた。

―――――のに。


「右手の薬指の指輪って、どう思います?」


まこっちゃんと北人さんと三人で飯を食ってる最中、そんな言葉を言う俺に北人さんもまこっちゃんも大きく目を見開いてこっちを見た。なんなら北人さんはハンバーグのチーズを口端に垂らしていて…。


「なに、どういうってどういう意味?」
「…チーズ、垂れてますよ、北人さん。」


おしぼりを差し出すと、それをスッと取って口元を拭く。けどそのデカイ目は俺を捉えたまま。

まこっちゃんは俺の言葉を待っている、そんな感じで。


「…彼氏いるってことっすかね、」
「…は、誰!?誰のこと、言ってんの、樹!」


普段声小さいのに、ドデカイ声をあげた北人さんに苦笑い。まこっちゃんは俺の隣でウーロン茶をゴキュっと呑み込んだんだ。

誰って…そんなん一人しかいないけん。

俺を見いる二人を無視して頭の中に思い描くのはたった一人。





- 1 -





←TOP