夜のピクニックから二週間、相変わらず善逸は手が遅い。
私としてはその先も一歩踏み出したいのに、いつもキスだけで真っ赤になっちゃう善逸が可愛いと思いながらもやっぱり少しばかり不満だった。
「結構勇気出したんだけどな、あの日。」
放課後。
善逸の剣道部が終わるのを教室で待っていた私はそんな独り言を呟いた。
男同士なんて、そんな会話ばっかりなんだろうけど私は女で、それでも善逸に触れて貰いたいって思ったからあんなに頑張って誘ったのに。
なんかちょっと苛ついてきた。なんで私ばっかりこんな事で悩まなきゃいけないのよ。
そもそも、善逸が悪い、もう絶対今日はキスしてやらない!
「えっ!!こ、困る!それ困るよ、ゆき乃ちゃん!」
突然ガラッと教室のドアが開くと息を切らした善逸がズカズカとこちらへ歩いてくる。
てゆうか、なんか髪の毛ぴよんって跳ねてて可愛い。
今の今まで怒っていた感情が簡単に消えていく。
「なぁに?また私の心読んだの?」
「いや、聞こえちゃって。他の人のは聞かないようにしてるんだけどゆき乃ちゃんだけは知りたくて。俺に愛想ついてないかとか、他の奴が気になってないかとか、そーいうのどーしても気になっちゃって。」
心の音を聞いて私の感情を読みとる善逸は、あの日よりかは遥かに理解度があがっていた。
けれど、ーージーッと見つめる私に困ったように眉毛を下げる善逸が小さく言うんだ。
「きょ、今日、爺ちゃん出掛けてて。だからその、今日誘おうと思ってたの。だから部活も早めに切り上げてきた。」
よく見ると、校庭ではまだランニングを続けている剣道部が数人。どうやらランニングを終えた生徒から帰ってもいいようで。
「私の為に頑張って走ってくれたの?」
汗びっしょりの善逸を見て胸がキュンとときめく。嬉しそうに笑って頷く善逸を見てガバりと抱きついた。
「え、う、わっ!!!ゆき乃ちゃあああんっ!!!」
「もう馬鹿馬鹿!善逸って馬鹿よ!…でも好き。大好き!」
プシューって顔から湯気が出るんじゃないかって真っ赤な善逸を見つめると、迷うことなく唇を小さく重ねた。
ハムって唇を甘噛みすると善逸の鼻息が荒くなったのが分かる。
「あの、ゆき乃ちゃん。つ、続きしたいよ、早く!」
私の肩に手を置いて真剣な言葉。
待っていた善逸からの言葉にテンションがあがる。小さくコクリと頷くと善逸は私の手をギュッと握ると部室から連れ出した。