愛の言霊@



「今日は絶対絶対早く帰ってきて!!日付が変わる前に必ず帰ってきて下さいね!!」


出掛けにしつこくそう言われた。
いつも朝が早い時は寝ているというのに、一体なんなんだろうか。
これから行く任務が上弦相手だったら…生きて帰って来れるんだろうか、なんて珍しくそんな事が脳裏を過ぎったんだ、実弥の。
少し前までは自分が死ぬ事なんて怖くもなかった。この鬼殺の世界に入ったならば、いつ命を落としても構わないと。いや、玄弥の幸せの為にそれでも生き続けてはいるけれど、それでも死に対する恐怖なんてものなは放っからなかったというのに。

…ゆき乃に出逢ってからの実弥は、死んでしまったら誰がゆき乃を守るんだ?って事ばっかりが頭を過ぎってしまっていて、死に対して少しばかり弱気になってしまっていたのかもしれない。

馬鹿馬鹿しいと思う。自分の母親殺してる実弥が、それでもゆき乃と一緒にいるとどうにも温かく優しい気持ちになれて、それが心地よくもあり、こそばゆくもあり、変な気分でいられる事が。

そんな事を考えていた実弥が任務地に着いた時、異様な気配を感じゆき乃の事が綺麗さっぱり脳内から消えた。

「風の呼吸 弐ノ方 」

あっさりと鬼の首を切り落としたまではよかった。だが、最後に崩れゆく身体から出した鬼の血鬼術が実弥目掛けて飛んできた。首を切った事でほんの一瞬隙ができてしまったんであろう実弥は、まんまとその術に掛かってしまったんだ。

「クソがァ…、」

こんな身体でゆき乃のとこになんて帰れるか。
そう思うものの、何がなんでも帰ってこいと言ったからには、きっとなにかがあるんだと。
明日は非番だし、できるのならゆき乃と過ごしたいなんて欲がほんのり芽生えていた。

「どうすっかなァ…。」

足取りは重たいものの、それでもゆき乃の所に帰りたい、なんて気持ちすら生まれてた。
この気持ちが何なのか考えないようにしてきた。
鬼殺隊士として生きていくと決めたあの日から人と距離を詰めることは一切しなかった。
親しくなればなるほど、いつ来るのか分からない別れに怯えるのは御免だった。
極力人が近寄らないように、寄せ付けないようにしてきたけれど、そんな壁をあっさりと飛び越えてきたゆき乃は、日に日に実弥の中でその存在の大きさを物語っている。

本当ならしのぶのいる蝶屋敷に行った方がいいのかもしれない。けれど行ったところでこの術を治せる事もなく、それなら大人しくゆき乃の待つ風屋敷へ帰ろうと重たい足を前に一歩一歩踏み出したんだ。

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