愛の言霊B



トサッとゆき乃の後頭部を抱えたまま布団の上に押し倒した。
迷いも躊躇いもなく、そこにあるのはゆき乃の大きな愛。

「余裕ねェんだ、悪い。けど…ゆき乃だから任せたいと思えた。お前がいねぇと、」

生きていけない身体になっちまいそうだ…

その言葉は口には出さなかった。
実弥を見上げるゆき乃はとても優しい。
自分よりずっと年下の女なのに、こんな風に甘えられると思えたのは実弥にとって、生まれて初めてだった。

「実弥が好き。」
「何度目か、それ。…言葉にするのは苦手だ。心根を見せるのは弱さに繋がっちまう。…けどお前は特別。レイワだかなんだか知らねぇが、その時代で一緒に生きれたらいいだろうなァ…。」

トクンとゆき乃は実弥の言葉に胸を鳴らす。
同時に叶うことの無い切な願いに胸が痛くなる。
鬼のいない現代で実弥と出逢って恋をしていたらどれだけいいのか…
そんな事、何度も何度も考えた。
けれどゆき乃がここにいる事も含めて有り得ない。

どれが真実で、どれが偽物で、どれを信じればいいのかなんて今でもよく分かってはいない。
けれど、目の前にいる実弥の事だけは、どんな事があっても信じられる。
それだけは、曲げることのできない真実だ。

「連れてってあげる、ゆき乃が。実弥を令和に。一緒に生きよ。」

ゆき乃の言葉に実弥がその顔を寄せて熱い唇を塞いだーー…



ーー鬼の血鬼術で媚薬を身体に浴びせられた実弥は、その欲を全部出し切るまで激しくゆき乃を何度も抱いた。

師範と継子という関係を一時忘れて、まるでただの恋人同士の様、実弥はゆき乃を求めた。
それに迷うことなく応えるゆき乃。

「待って、ゆき乃が口でシてあげる!」
「はァ!?」

何度目か分からぬ目交いの後、それでもまだ硬さを増している実弥のソレを見てゆき乃が開脚させた実弥のそこに入り込んで顔を埋める。

「お前、何してやがる!」
「大丈夫、噛まないから!すぐ気持ちよくしてあげるから、ね?」

根元まで口に含んでそれを吸い上げるゆき乃に実弥は身体中の血管がそこに集まるんじゃないかってくらいに熱くなる。
汗だくで流れ落ちる滴がシーツに染み込んでいくけれど、この行為を止められずにいる。

「ねー実弥。こーいうの令和じゃ普通だよ!みんなやってる!だって女ばっかりされてるより、二人一緒に気持ちよくなった方がいいでしょ?」
「…お前、喋りながらすんなァ…息がかかって変になりそうだ。」
「ふふふ、カッチカチだねぇ。」

全く話を聞いていないゆき乃は実弥のそそり立つそれを何度も口に含んで甘く咥える。
軽く音を立てて舐め上げるゆき乃の奉仕に堪らなく高揚している実弥。
女にこんな事されたのは当たり前にない。
手持ち無沙汰な手がそっとゆき乃の頭に触れると、ゆき乃は実弥のを握っていない方の手を実弥の指と絡めた。
ギュッと握られてトクンと実弥の胸が音を立てる。

「ゆき乃…。」
「んー?」
「…明日非番だ。…櫛でも買いに行くか。」

顔を上げて真っ直ぐに見つめるゆき乃の瞳が真っ赤になっていく。
口を離してそろそろと体勢を整えるようにムクリと起き上がったゆき乃を、実弥が迷うことなく抱き上げた。
ぎゅうっと温もりを感じるように、確かめるように抱き寄せる。

「実弥さん?」
「なんだァ?」
「令和だとそれ、プロポーズって言うの。でもね、今日は実弥さんのお誕生日で、プレゼントを貰えるのは実弥さんの方で。だからわたし、一生懸命手料理も作って待ってたの。それなのに、そんなサプライズ、ずるいよ。ゆき乃が貰うんじゃお誕生日にならないよ。」

所々聞いた事のない単語を発するゆき乃だったけれど、実弥がもしも本当に令和の日本にいれたのなら、きっと今ゆき乃が言った言葉をちゃんと理解できたんであろうと。
大正のここにいる実弥には分からない事もあるけれど、それでもゆき乃の言いたい事はなんとなく分かるし、きっとあっているはず。

この時代で櫛をプレゼントするのは、求婚している事。それを実弥はゆき乃に伝えたのだから。

「俺の欲しいものはもう手に入ったからなァ。後は好きなだけお前に与えてやりてェんだ。」

実弥の頭を抱えるように抱きつくゆき乃が少し距離を作って実弥を見つめる。
愛らしい瞳からはやっぱり涙が零れ落ちていて。
女に泣かれる事を面倒だと思っていた実弥は、それでもゆき乃の涙を美しいと思えてしまうなんて。

「…愛してる、ゆき乃。」

小さくでも、ハッキリとそう言って実弥が笑うとゆき乃の瞳からまた大粒の涙が零れ落ちた。
真っ赤な瞳で実弥の髪をやんわりと撫でたゆき乃は、「ゆき乃も好き。実弥のこと、愛してる。離さないで…。」ギュッと抱きつくゆき乃をまた、布団の上に押し倒した。

夜は長いーー
愛を覚えた風柱、不死川実弥は、またきっと強くなる。
愛する弟、玄弥を守るために。
何より、愛する女ーーゆき乃との未来のために。



-完-

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