甘く抱いて離さないで@



「いらっしゃいませ〜。」

カランと音がしてカフェのドアが開くと同じ歳ぐらいの女子が二人入ってきた。
好きな席に座って貰って注文を受けてってしていると、時間はあっという間に過ぎていく。
少し慣れてきた私は、珈琲に続いて軽食も作らせて貰えるようになっていた。

とりあえず実弥との夢の同棲生活はまだ始まっておらず。少しお金が溜まるまでは二人で頑張ろう!って事で私はほぼ毎日のようにバイトに明け暮れていた。
ちょうどマスターの奥さんに赤ちゃんができてつわりが酷く、その空いた穴に私がすっぽりと入り込めて一石二鳥だった。
こうしてバイトの日は必ず実弥が帰り際に寄ってくれるからそれを待つのも私の日課になっていた。

「ゆき乃ちゃんさ、実弥くんと住む家探してるんだよね?」

そろそろ実弥がこっちに来る時間だろうからって、実弥の為に珈琲を淹れていた私にマスターが近寄ってきて小さく聞いた。
優しい笑顔と髭が特徴的な、Theマスターって感じのこの人は喋る声も優しくて一緒にいるとほんわかする。
手を止めてマスターを見た私は「え?」聞こえていたんだけれど、どーいう意味で聞いたのかが分からなくて、思わず聞き返してしまった。
それでもニッコリ微笑んだマスターは、ほんのり視線を上に移す。

「実は、お店の上の部屋が今月いっぱいで空くことになって。もし良かったらその後ゆき乃ちゃん達が住まないかな?って思って。」
「住みます!!いんですかぁ!?マスター!!」

マスターの手を握る勢いで前のめりで即答する私に、マスターはクスクス笑いながら「まさか即答されるとは思ってなかったけど、よかったよ。」柔らかい声に心拍数があがる。

実は実は、この上に住めたらいいなぁって思っていて。そしたら実弥の実家も近いし、何よりバイトも沢山入れるし。ここなら実弥も文句の付けようがない。
何かあればマスターもいるし、安全だよね。

「あの、この話、実弥には内緒にしておいてくれませんか?もうすぐ誕生日なんで、サプライズにしたくて。」
「もちろん!愛されてんだなぁ、実弥くん。」
「当たり前です!あんなかっこいい人この世にはいません!」

キッパリ言い放った瞬間、カランとカフェのドアが開いて、ちょっと疲れた顔の実弥が入ってきた。

「お疲れ様!着替えておいで!」

淹れかけの珈琲を私から奪い取ったマスターは、続きはやっとくよ!って言ってくれたから、そのまま実弥に手を振るとお店の裏にある休憩室へと急いだ。

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