甘く抱いて離さないでA



着替えて出て行くと実弥が最後の一口を飲み終えた所だった。

「実弥っ!お疲れ様!」
「あァ。ゆき乃もお疲れ。」

ポンポンって優しく頭を撫でてくれるこの腕がたまらなく好き。そのまま腕を取って絡みつく私を嫌ともせず、「マスターお世話掛けました。」まるで保護者気取りな実弥の言葉に私も「お疲れ様でした!」頭を下げてお店を出た。

「お前、んな寒そうな格好しやがって。風邪でもひいたらどーすんだァ?タコがァ。」

絡まっていた腕を強引に離されたと思ったら、そのまますぐに私の腰に腕が回される。だから横から両手を実弥の胴体に巻き付けると「歩けねぇだろが、馬鹿がァ。」全然怖くない実弥の言葉に、余計に抱きついた。

「実弥好き。」
「………」
「実弥は?」
「…知らねぇよ。」
「むぅ。今日は言ってくれない日?」
「そーだ。今日は言わねぇ日だ!」

クスッて笑う実弥に、それでも愛を感じずにはいられない。

寒空の下、二人で歩くこの時間は私の宝物で。
少しでも長くこの時間がいつまでも続けばいいと願わずにはいられない。

「あァ、お前。何色が好きだったか?」

不意にそんな質問をされて。
見上げた実弥は当たり前にこっちなんて見てはいない。真っ直ぐに前を向いて歩いている。
その横顔すらたまらなく好き。
一つ瞬きをした私は何の疑問もなく「赤!」そう答えた。

「赤か、赤。そういや下着も赤系が多かったな、」
「え?ちょっとー!」
「まぁすぐ脱いじまうけどなァ!」
「そゆこと言う人だった?実弥ってぇ。」
「ばーか。男なんてみんな同じだァ。安心しろ、今夜もちゃんと脱がしてやっから!」

こんな会話、誰かに聞かれたら絶対実弥は真っ赤になってシラをきるんだろうって思うけど、私って存在の前でだけは、こんな会話もできちゃう事がめちゃくちゃ嬉しいなんて思ってしまう。
結局のところ、私はどんな実弥でも一分一秒先の未来には今の好きを超えているんだろうって、思えたんだ。

少し前までハロウィンの飾り付けをしていた民家の庭は、今やクリスマスモード一色で、不死川家に着くまでの道のりですら楽しめる。

「もーすぐクリスマスだね、実弥。」

吐き出す息も白く、夜はコートなしじゃ歩けない。

「だなァ。…たぶん休みは取れねぇ、悪いな。」
「いいよ!私もマスターにシフト入れて貰うつもりだし!お互い様!ね?」

ちらりと実弥を見上げると、この上なく優しい瞳で私を見ていて。少し困った様に微笑んだ後、ふわりと視界が暗くなった。
え?…そう思った時にはもう、私のちょうど後ろにあった電柱に背をつけていて、実弥の乾いた冷たい唇が触れていた。

どうしたの?なんて愚問。
実弥がキスしたくなったんなら私も同じ。
電柱に手を着いて身体を寄せた実弥の舌がニュルリと口内に入り込んで舐めとっていく。
身体中の血液が顔に集中するみたいに熱くて、実弥の頬に手を添えると名残惜しく小さなリップ音と共に離れていった。

「もっと、して?」

だから離れゆく実弥の首の後ろに腕をかけてその腕で実弥を引き寄せるとまた、迷うことなく唇が重なり合う。
ちょっと乱雑に舌を絡ませる実弥が愛おしくてたまらない。このキスもこの腕の温もりも、誰にも渡さないーーーー。

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