呪術 五条悟
東京都立呪術高等専門学校。表向きは宗教系の学校とされているが、その実態は――乙骨朱里は、乙骨優太の双子の妹で、兄妹揃って特級被呪者であった。
優太は特級禍呪怨霊、折本里香に、そして妹の朱里は同じく特級禍呪怨霊、折本理久を背負っている。なんでも幼い頃からの縁で、5歳の時、里香と理久二人が優太と朱里の目の前で交通事故にあって命を落としている。それ故に、この二人を呪術高専で預かる事になった。
里香の解呪を達成させた優太とは違い、朱里の背後にいる理久は解呪の気配すらない。高専にいる以上、呪いを払わなければならないし、特級となれば面倒な事例、厄介な事例が飛び込んでくる。ここんとこ何故か僕らの周りには、未登録の呪霊が多発していた。棘の2級で容易に払えるはずが、3級、4級呪霊に混ざって特級や1級呪霊が出現している。
一体どうしたものかな、全く。
「朱里、特例が出た。これから僕と一緒に行くよ」
高専で鍛錬していた朱里は、汗を拭うとコクリと頷いた。すぐに支度して僕の所へやってきた朱里は、小柄な身体に似つかわしくない大きな槍の呪具を手にしている。そこに理久の呪力を流して戦うことが板についてきたのはここ最近だった。
「だいぶ慣れたよねぇ朱里も。優太がいなくて寂しいんじゃない?メンタル大丈夫?」
「全然大丈夫です、はは。優太は元気そうですし、僕も早く解呪できればいいんですけどね…」
表面上は笑っているけど、緊張にも混ざった感情が見え隠れしている。自分が強い事はわかっているけど、その労力に比例しているとでも思ってるのかなぁ朱里は。
優太みたいに瞬時に強くなったわけでもなく、ひたすら努力、努力で培ってきたその力を、今だに受け入れてないのかもしれない。僕ならみんなに自慢しちゃうだろーに。
ポンポンと、朱里のピンク色の髪に触れると大きな目をよりいっそう大きく見開いて口をポカンと開けて僕を見つめ上げる。
「五条先生?」
「朱里は頑張ってるよ、大丈夫!今日の案件も朱里一人で十分足りるんだろーけど、ここんとこ変なのが多いからね。一応念の為に僕も同行を選んだんだ」
「そうなんですね。すみません、僕が弱いから」
「だ〜か〜ら〜違うって。今言ったでしょう、キミ一人でも十分足りるって」
「いえ。僕はまだまだです。優太にも負けてるし、高専の皆さんにも負けてます。努力するのみです」
なんだかなぁ。この自分を落とす感じ、正直あんまり好きになれない。なんてゆうか、ほおっておけなくなっちゃうんだよねぇ。最も朱里は無意識でやってるんだろーけど。
「伊地知〜まだあ〜?まだ着かないの〜?」
ハンドルを握るの伊地知にそう言えばシャキンと背筋を伸ばして「すいません、間もなくです」そう返ってきた。よしじゃあ気合い入れるか。
「五条さん着きました」
「どうもね〜。んじゃ行こっか朱里」
「はい」
車から降りた僕は早速伊地知に帳をおろさせた。廃墟になった病院のそこは見るからにおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
「あー基本は朱里が払って、ヤバそうな時に僕がヘルプに入るから」
「はい、よろしくお願いします」
「それにしてもー気味悪いねぇ〜ここ。僕呪いは平気だけどお化けは苦手なの知ってた?」
ニカッと笑えばビクッと肩を竦めて表情を強張らせた。
「そうなんですか?」
「まさか、冗談だよ。僕に怖いものなんてあるわけないだろ」
「あ、そうですよね。すみません」
「いやいや怒ってないから、――と漸く姿を見せたよ」
曲がり角の先に感じる呪力に僕は脚を止めた。どうやら最奥の手術室にいるらしい呪霊。うーんこいつじゃないんだよなぁ、強いのは。もう一匹いるはずだよなぁ〜。
槍を構えて戦闘態勢に入る朱里。
「理久、行くよ」
朱里の背後で特級呪霊が特有の声で「イイヨ」と言った。次の瞬間、走り出した朱里はどでかい呪霊を一瞬で払った。一突きで決着はついたものの、しっくりこない。
「五条先生、終わりました」
「うん、よくできました〜」
ふにゃりと朱里の髪を撫でると頬を赤らめて俯く。照れちゃって、可愛いの、なんて言ったらきっともっと顔を背けるだろーから言わないけどさぁ、今はね。
「簡単すぎる」
僕の声が廃墟内に響いた瞬間、辺りが闇に包まれた。これは、二重の帳か。僕ら以外誰も入れさせないって魂胆だな。
「はーなるほどね。やっぱりいたか、未登録の特級が。朱里いけるか?」
「はいっ!」
ギリギリと槍を持つ朱里の手に力が込められて、もう一度朱里が走り出した。超ダッシュで角を曲がると身体中ツギハギの男がいて、僕を見るなり気持ち悪い笑顔を見せる。
確か七海の報告の奴か、ちょっと厄介だなコイツは。まだ術師として開花する前の悠仁と七海が対で戦っても難しかった奴。まぁ僕の敵ではないけど。朱里一人で払えるかどうか…
「ひひひ、呪術師みーっけ。五条悟までついてきた、運がいいな俺は。この男さえ殺せば」
「黙れ!五条先生をそんな目で見るな!」
朱里の槍は呪力で変幻自在に姿を変える。でっかい釜みたいに大きな刃がついていて、先端も相当硬くなっている。ちょっと理久を取り込み過ぎてる気もするけど、ツギハギと対等に戦っている朱里を見て彼女の成長を感じた。
身体中から骨のような棘を大量発生させれば朱里は槍で抵抗する。どっちが強度高いのかトントンかわからないけど、刃先が折れることはなく、ツギハギの棘がどんどん折れ曲がっていく。
「へぇ〜結構やるな」
見た感じ朱里がツギハギを追い込んでいるように見えたけど、「領域展開、自閉円頓裏」そんな言葉と共に暗闇の中、ツギハギの後ろから巨大な手が何本も出てきた。
丸いドームの中に閉じ込められた朱里は、いっちゃえばツギハギの手中の中。中にいる朱里にはそう簡単に破れないけど、僕が手を伸ばせばそれは容易く壊れていく。
「可愛い可愛い僕の生徒に何してくれちゃってんだよ。でも僕は優しいからキミにもちゃんと教えてあげるよ、ホンモノの領域展開っていうものを――領域展開、無量空処…」
目につけていた黒いマスクを外した僕は、ボロボロになっている朱里を後ろに置いて、ピースにした指先を交差させた。途端に広がる宇宙空間。勿論ツギハギは目ン玉落ちそうなぐらい見開いている。
「彼女に手をかけたこと、死んで後悔しろ」
ポロンとツギハギの首が転がり落ちた。それと同時にまた別の特級が助けに来たのか僕らの前から姿も気配も消したんだ。
「あーらら、逃げられちゃった。悪い悪い朱里、邪魔しちゃって」
特級禍被呪者の朱里が理久を本気で取り込めばたぶん勝てたんじゃないかと思うけど、僕もたいがい朱里には甘いなぁと思う。できるのなら極力理久の力は使わせたくない。
なんせ理久がどれほどのものかわからないから。優太の里香ですらあれ程の力を持っていたんだから、里香の双子の兄である理久はきっと里香以上だと思っている。完全に里香をコントロールできていた優太と違って朱里はまだ理久を完全顕現した事がない。だから心配だった。もし何かの弾みで理久を顕現してしまったら。優太程強い意思があるようには見えないし、朱里自体が理久に呑み込まれてしまう恐れもあるから。
そして万が一朱里が呑まれた時に、朱里を救ってやれるのは今の所僕しかいない。だから朱里を手元に置いてしまうんだと、そう思っていたんだ。
「大丈夫?」
所々穴の空いた制服。白の上着には擦れた血痕が目立っていて痛々しい。朱里は僕の問いかけに苦笑いで全然平気だと答えた。
「んじゃまぁひとっ飛びするか。掴まって」
手を伸ばして朱里を引き寄せると、小柄な割に豊満な胸元がポヨンと当たって悪い気がしない。僕は朱里の肩を抱くとパンと手を叩く。途端に病院の廃墟から呪術高専へと飛んだ。
「いつも急に現れるな悟。まぁあいい、早く見せろ」
疲れたのか緊張が解けたのか、僕にお姫様抱っこされた朱里はスースー寝息を立てていて、一応呪術高専医師の硝子に怪我の手当をしてもらった。
「随分あの子に入れ込んでるな悟」
「えー?なに、なにー?」
「そういう子供じみた事、やめたら。どーいうつもり?女を女扱いしないあんたが大事そうに抱えてくるなんて」
「別にどーいうつもりでもないよ。朱里は僕の可愛い教え子、それ以上でも以下でもない。僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」
「ふぅん。まぁいいや。怪我は大した事ない。ただかなり疲労が溜まってる。どれだけ鍛錬させてるの?少し休ませないと本気で倒れるよあの子」
「わかってる。僕だって何も考えてないわけじゃないよ」
「そうか?わかってるならいい」
相変わらず僕には冷たいなぁなんて思うけど、硝子のことは心底信頼してる。だから一番にここに連れてきたんだ。
そして、硝子に言われた事が何故か僕の心に突き刺さるかのように残ったなんて。傍から見てそう思えるんだろうか…僕が朱里に肩入れしてると。自分ではそんなつもりじゃないと思っていたけど。
いつからか、朱里を見ると心がざわついて目が離せなくなる。優太も朱里も同じように見ていたつもりだけど、硝子から見て違って見えたのならそれはきっと――…。
数日後、また未登録の特級の報告があがった。
さーて、誰に行かせようか…。校庭を見れば、真希と朱里が呪具を使ってバッチバチに稽古をしている。身体が柔らかい朱里はすごい体勢になっても倒れることなく真希に立ち向かっている。
「あれ程安静にって言ったのに、全く」
僕は校庭に出てパンパンと手を叩いた。生徒たちがみんなこちらを振り返る。
「よー悟、事件か?」
パンダが興味津々にこっちまで歩いてくる。
「朱里、未登録の特級だ。頼まれてくれるかい?」
「勿論です。行きます」
また僕が同行するか否か…。
「あの五条先生、僕一人で行かせて下さい。必ず五条先生のお役にたちますから」
「うーんわかった。じゃあ朱里に任務を頼む。その変わり、ヤバいと思ったら無理せず戻ること。僕もこれからちょっくら出掛けないと行けないから無理だけはくれぐれもするなよ」
クシャっと朱里の髪に触れれば胸がトクンと音を立てた。引き攣った笑顔を見せながらも朱里は返事をして任務へと旅立っていく。
どうしてもその後ろ姿を目で追ってしまう。どうか無事に戻ってきて欲しいと。他の誰でもない、僕のところに。
「結構重症なのかも…」
生徒たちに気づかれない程度の小声は、寂しく空へと消えていった。
それから半日が過ぎた。一番星が空に輝き始めた頃、医務室の硝子から連絡が入る。朱里が戻ってきたと。僕は柄にもなく急ぎ脚で医務室まで行くとベッドの上で眠っている朱里が目に入る。その姿に心底ホッとして胸を撫で下ろした。
「たく、無理すんなってあれ程言ったのに、なーんでいつも僕の言うこと聞かないかなぁ」
朱里のベッドの横に置いてある椅子に座ると、自然と僕の手は朱里の頬を撫でていて。コツコツとヒール音を響かせながら硝子が後ろにやって来た。ほんのり鼻を突く硝子の香水は、いい女の勲章とでもいうかのよう、自信に満ちた香りがする。
「この子言ってたぞ、自分は動ける事を証明しないと殺されるって。だから頑張るしかないって。理久を顕現しそうになったようだ。どうにかしてやりなよ悟」
「わかってる。悪いけど朱里連れて帰っていいよね?後は僕が面倒見るよ」
ノーと言われようが硝子の答えを聞く前に僕は朱里の身体を抱き上げて自分の部屋へとの連れ去った。
自分でも何をやってるんだか…と思うけど、僕の気持ちはもう誤魔化せないと思った。気持ちを認めてしまうのは怖くもあるが、それでも悶々とする日々を送るよりかは遥かに楽だと思う。
「ン…」
寝返りをうった朱里はパチっと目を開けた。途端にガバリと起き上がる。
「五条先生…あれ僕…」
「硝子から連絡貰ってこっちに連れてきた。気分はどう?」
まだ状況を理解できないまま、朱里は僕に聞かれた質問の答えを大人しく「平気です」と答えた。まぁ辛くてもそーゆうのは一切見せるような子じゃないんだろうけど。
それから朱里は寝ぼけ眼で目を擦ってキョロキョロと辺りを見回して顔を引き攣らせた。
「五条先生」
「んー?」
「ここは何処ですか?」
「あぁ僕の部屋だよ。初めてだっけ?来るの」
「な、なんで僕が五条先生の部屋に…」
「そんなの、僕が連れてきたからに決まってるでしょ」
寝起きで状況を把握できていなかったんだろう朱里は今にもここから逃げ出してしまいそうだ。まぁそんなことはこの僕がさせないけど。
「朱里さ、ちゃんと飯食ってる?」
「えと、はい」
「嘘だね。抱き上げた時軽すぎたもん。それからその目の下の隈…ちゃんと眠れてる?」
まーだ若いのに隈なんて作っちゃって勿体ないよ、と言えば朱里はまた苦笑いで「寝てます」なんて見え透いた嘘をついた。だからちょっとだけ朱里をからかってやろうって悪戯心が生まれてしまう。
「嘘ついたらペナルティでキスするよ僕が」
「へ?え?」
なんとも真っ赤な顔で僕を心底困ったように見つめる朱里の頬に手を添えてもう一度口を開く。
「ちゃんと飯食ってる?」
「た、べてます」
「はいペナルティ」
動揺している朱里の肩に手をかけると顔を覗き込むように近づけて唇に触れた。勿論すぐに離して顔を見ればもうなんとも言えない可愛い顔で、僕の心臓は大きく脈打つ。
「五条先生、あの、」
「なに?そんなによかった?じゃあもう一回してあげようか?」
「や、違います。あの、だめです、そーゆーの」
「うん?そーゆーの?なになに?ちゃんと言葉で言わなきゃわかんないよぉ僕だって」
「そんな…」
泣き出しちゃいそうな朱里に、ちょっとやり過ぎたか?と、内心少しだけ反省して僕は朱里の頭をポンポンと撫でた。
「きみが心配なんだ、乙骨朱里。きみは優太とは違うし、確かにきみの背後には理久って特級がついてるけどだからってきみがそんなに倒れるまで頑張り続けることはないんだよ。僕の言ってること、わかるかい?」
納得してないって顔してる。その表情通り朱里は首を横に振って唇を震わせた。
「僕の命は五条先生に助けて貰ったので、それに応えたいんです。努力するのは苦じゃありません」
「違うよ、朱里。僕が悪い、僕が…嫌なんだ。これ以上朱里自身を傷つけることが」
よくわからないって顔で表情を歪ませた。僕は朱里のピンク色の髪を指ってすくって何度か撫でる。ふわりとした柔らかい猫っ毛が僕の指からスルリと落ちていく。
「僕と付き合わない?朱里。僕の恋人になってくれないかな?」
「―――え?」
「どうやら僕は朱里のことが相当気に入ってるみたい。恋人なら僕が朱里をどれだけ心配しても許されると思うんだよね」
きっと断られる…そう思っていた僕の前で、朱里は一度コクリと頷いた。あまりにわかりずらくて僕の脳内で色々張り巡らせるけど、頷いたってことはOKってことだよね。
「五条先生の傍にいたいです僕」
「マジ!?」
「はい」
「うは、やった、マジか!」
朱里をその場で抱きしめると更に朱里への想いが強くなる気がした。
正直今まで僕は女性に対して朱里のように丁寧に扱ってこなかったけど、この子だけは最初から特別だった。それがなんなのかは僕自身もわからないけど、恋人として触れる朱里は、初めて見る顔を少なからず沢山僕に見せてくれるんだと思えた。
「さっきの続き、してもいいかな?」
頬に手を添えて朱里の唇を指でなぞってそう聞く。さすがにこの状況で続きが何なのかは聞き返してくることがなく、コクリとまた小さく頷いた。
僕はキメ細かな朱里の肌を指で擦りながら、もう一度顔を寄せて唇を重ねた。そのまま朱里を更に強く抱きしめて唇を割って口内に舌を絡ませる。
「僕の舌に絡めて朱里」
「はい」
素直に応じる朱里の舌は想像よりずっと柔らかくて生温く、色んな感情が吹っ飛びそうになっている僕がいた。でもさすがに病み上がりの任務後の疲れた身体を堪能するような悪魔じゃない。だからキスだけに留めておかなきゃって思うけど、一度入ってしまったスイッチをオフにするのは容易じゃないと思えた。それに朱里は抵抗する事なく受け入れてるからこれはこのままイケるかも…なんて仮説が僕の脳内に出来上がりつつある頃、「五条先生、あのもう…」朱里からのギブアップが届いた。
まぁそんなもんだよね、うん。
「ごめんね、病み上がりで疲れてんのに。けど朱里が意外と積極的なんだって知れて僕は嬉しいよ。今日はこのままゆっくり休みな。明日は任務無しにしておくから。ね?」
「はい。ありがとうございます」
コクリと頷いてほんのり笑顔を見せた朱里に、年甲斐もなく胸がときめいた。
そうして朱里の先生から恋人になった僕は、相変わらず朱里を甘やかしている。というより…
「そういや朱里、この前の任務、恵と二人きりだったんだろ。浮気しそうになったりしてない?」
「…してません」
「え、なに今の間、なんか間合ったよね?今」
心配性というか、過保護というか、どうにも可愛い朱里をできることなら自分の中に閉じ込めてしまえたらいいのになんて乙女チックな事すら思えていた。相変わらず照れ屋な朱里は僕の言葉に困り顔で俯いていて…
「五条先生が変なこと言うから」
変なこと言ったつもりはないんだけどなぁ僕。ポリっと指で頬を掻くと、朱里は「僕の中では五条先生が一番です」なんて、めちゃくちゃ嬉しい言葉を口にした。
朱里は、付き合ってからも変わらずめちゃくちゃ鍛錬を続けていて、今もまた僕と一緒に任務に行く途中だけれど身体を動かしている。
未登録の特級呪霊の案件場所についた僕と朱里は、帳内でまた捜索を始める。
閉鎖された遊園地の跡地。本来は新しく別のアトラクション施設が入る予定だったけど、どうやらおじゃんになったようで、そこに呪霊が集まっている。雑魚に混ざって一人莫大な呪力を感じる。
「朱里、気をつけろ。この奥だ」
「はい。僕が行きます!理久、行くよッ」
槍を振り回して奥の特級呪霊に立ち向かう朱里が、残念なことに触れることすらできずに跳ね返ってきた。冗談だろオイ。特級だぞ朱里は。僕と同じ特級を跳ね返すなんて…
「理久、力を貸して。僕はなんとしても五条先生の役に立ちたいんだ。お願い理久…」
「よせ朱里!理久の完全顕現はだめだと言ったはずだ」
「大丈夫です!僕が戦います」
聞く耳持たずなのか、朱里の背後からモクモクと浮かび上がってくる折本理久。里香を初めて見た時よりも更に強い呪力を感じた。
「まずいな」
それでも止めに入らなかったのは、朱里をこの一瞬で信じきったからだと思う。朱里の後ろから飛び出してきた理久は、未登録の特級を素早く捕まえて動けなくした。そこに呪力を最大限流した朱里の槍が一突きで、辺りに散りばめる呪霊。
はぁ、はぁ、と肩を揺らして大きく呼吸を繰り返す朱里は振り返って僕を見つめるとニコリと微笑んだ。
「全く、心配かけやがって。今頃理久の完全顕現とか、ほんときみは日に日に強くなるね」
「五条先生の為なら僕はどんな事もします」
「嬉しいけど、僕を思うならそう無理はするなって言わせてよ、朱里ちゃん」
ちゅっと不意打ちでキスを落とすと真っ赤になってあたふたする。理久の完全顕現があれば朱里は僕と同じぐらい強くなれるのかもしれない。でも好きだからそんな危険な立ち位置にはさせたくない。
そう言ってもたぶん朱里には通じないんだろーなぁなんて、遠い目をした。それでも僕が傍にいる限りは、朱里のこと守り続けるって、晴れた空を見上げて一人胸に誓ったんだ。
――完。
