進撃の巨人 エレン

 トロスト区。
 エレンとヒストリアを守るため、エレンに変装したジャン、ヒストリアに変装したアルミン、そして二人と一緒にいたカナデが中央憲兵の手の回っているリーブス商会によって拉致された。
 古びた倉庫の一角に投げ落とされた三人は、後ろ手を縄で縛られてバラバラに転がり落ちていた。勿論こんな状況を見込んで二人には変装をさせ、後にミカサとリヴァイ兵長、コニーとサシャ達が助けに入る予定であった。
 けれど、それは助けが来るより一足先に行われつつあったんだ。

「いいか。大人しくしていろ。そうでないとそこにいるクリスタをめちゃくちゃにしてるからな」

 気色悪い声でカナデの耳元にハァハァと吐息をかけながらそう云う商会の男。とてもじゃないが正気を保てそうもないこの状況で、それでもカナデは鳴き声一つあげずにいた。自分がここで抵抗すれば、その目的はヒストリアに扮しているアルミンの方にいってしまう。服を脱がされでもしたらアルミンがヒストリアではないということがバレてしまう。そうなると危険を伴うのはジャンであり、カナデたちだ。できればそれは避けたい。なんとしてもこの変装をバラすわけにはいかなかった。
 生憎カナデは変装もなくただ外見がいいというだけで一緒に連れてこられた。そもそもそういう目的で連れてこられてしまったのは残念ながら紛れもない事実である。
 昔から愛嬌のある優しいいい子であるカナデはそうやって人に騙されることもあった。けれどそれを誰かのせいにしたりすることもなく、それもまた自分の運命なんだと受け入れてきた。

「やめろ、カナデに手出すな!」

 耐えきれずだろう、ジャンがカナデに触れる男を怒鳴りつける。当たり前にジャンの方に歩いて行った男は「煩せぇ黙ってろ!」そう云うが、ジャンの左頬をグーで殴りつけた。バタンと後ろに吹っ飛ぶジャンをヒストリアに扮するアルミンが「エレン!!」声を上げる。心配そうな目でジャンを見つめるアルミン。

「二人共、私は平気だから」

 そう云うと、ジャンもアルミンも眉毛を下げて、それでも不満気にコクリと頷いた。
 それでもこの男の欲が収まることなどなく、やはりカナデの方に歩いてきて、その子柄で細身の身体に手を触れさせた。

「ネエチャン、小柄なのに育つところはしっかり育ってる上物だな。悪いが楽しませて貰うぞ。これぐらいの報酬がねぇとこっちもやってらんねぇんだ」

 何が報酬だ!そう思うけれど誰ももう口に出す者はいない。アルミンとジャンの変装がバレてしまえば、本物のエレンとヒストリアを探しにいくであろう。それを思うならカナデはここで自分が我慢すれば、ことは丸く収まる…そう脳内に叩き込んでグッと唇を噛みしめると目を閉じた。
 嫌なことは目を閉じて忘れればいい…そう思って、ただその情事が終わる事をひたすら願うしかなかったんだ。

 どれくらい時間が経ったのかもわからなかった。目を閉じていても身体は正直で、見ず知らずの汚らしい男となんて御免だと思っていても、触られる所に触られてしまえばそれは反応してしまうし、出したくもない声も出てしまう。
 ましてや仲間であるアルミンとジャンもすぐそこで見ている。こんな不様な姿を浴びせる事になるなんて、カナデの頭にあるわけもなかった。
 当然のごとく目を逸らすアルミンとジャン。しかしカナデの繰り出す呼吸、吐息、くぐもった声は、二人の耳に確かに届いていた。



 その後、作戦通りミカサとリヴァイ兵長、コニーとサシャが助けに入った。
 リーブス商会会長はリヴァイ兵長との取引に応じて、一同はエレンとヒストリアの待つ宿舎に戻ったのである。
 まだウォール・マリア奪還には程遠いが、それでも調査兵団は少しづつでも一歩一歩前に進まないといけないのだから。

「ジャン、アルミン…お願いがある。さっきのこと、誰にも言わないで…」

 カナデが二人の背中にそう云う。ジロジロ見ていたなんて事はないけれど、それでも随所で視界に入ってしまったカナデの姿が当然ながら目に浮かんでしまう。アルミンは泳がせていた視線をカナデに合わせて、ごめん…と頭を下げた。

「僕もジャンも男なのに、あんなことされてるカナデを助けてあげられなくてごめん。カナデがあんな目に合っても、何もしてあげられなかった…」
「あぁ。俺たち側にいたのに、ほんとにすまなかった」

 優しくて真面目なアルミンと、リーダー気質なジャン。二人が気に病むことはないと分かっていても、目の前で仲間が犯されてしまった事に後悔以外の何もないんだとカナデも理解している。自分以外の人が同じことをされそうものならカナデはきっと真っ先に抵抗しただろう。それでもそれができなかった二人をカナデは責める事もないし、そんな気にもなってはいなかった。

「大丈夫!きっとこれも私の運命なんだって思ってる。だから本当に二人は気にしないで。逆に変な声聞かせちゃってごめんね。忘れてね、ほんと」

 ニコっと笑うカナデに、「こんな時まで笑わなくていいんだよ」そうアルミンが心配そうにカナデの腕を取るも、掴まれた腕をそっと外すカナデ。

「本当に私は大丈夫だから。じゃあ行くね」

 励ましたてあげたいのは二人の方なのに、カナデって女はそれでも他人を思う優しさと温かさを持ち揃えた、そんな人であった。

「お前ら、夕飯まで時間がある。各自休んでおけよ」

 リヴァイ兵長の言葉に皆散り散りに各自の部屋へと戻っていく。エレンは、戻ってきてからカナデの様子が少しおかしいと思っていた。他の誰でもないカナデのことだから心配だしいつも見ているし、だからどんなに小さな変化も見逃すわけにはいかない。

「なんかあったのか…」

 ただ宿舎で待っていただけのエレンには当然ながら何があったのかも分からない。でもなにか、寄せ付けないようなそんな雰囲気を纏っているようで、直接カナデに聞くことができなかった。
 仕方なくアルミンの部屋をノックすると、目を大きく見開いたアルミンが顔を強張らせてエレンを部屋に招いた。

「ど、どうしたの?エレン」
「いや、なんつーか…カナデの様子がおかしいっつーか、なんか変じゃねぇか?なぁアルミン、なんかあったんなら教えてくれ」

 エレンの問いかけにゴクリと唾を飲み込むアルミン。完全に一歩引いてるのが目に見えて分かった。これではアルミンが口を割らなくとも、何かがあったんだと分かってしまう。
 勿論ながらアルミンはカナデとの約束を破るなんて事はできやしない。その真意がエレンにバレていたとしても、真実を口にする事などさらさらできない。

「やだなーエレン!考えすぎだよ。ごめん僕ちょっと疲れちゃって仮眠したいんだ」

 無理くりエレンを部屋から追い出すとアルミンはふぅっと溜息をついた。きっとエレンのことだから反りが合わないジャンには聞かないはずだと思い、アルミンはベッドの上でそっと目を閉じた。

「なんだよアルミン、たく、なにがあったんだっつーの」

 ポリポリと頭を掻くとエレンは視線をカナデの部屋に移した。アルミンが何も言わないということは、今までの経験からいってよくないことだと理解しているエレン。ならもう本人に直接聞くしかないと、カナデの部屋のドアをノックした。
 コンコンと2回叩いたけれど中からの返事はなかった。ドアの開く気配もない。中にいないのかもしれない…そう思ったけれど、エレンの手はドアノブを掴んでそれをくるりと回し、カナデの部屋を覗き込んだんだ。
 エレンに気づいていないのか、ベッド上で脚を開いているカナデ。カナデの手は下着のついていないそこに置かれていて、指がくちゅくちゅと厭らしい水音を鳴り響かせている。目を閉じて肩で大きく呼吸をするカナデのその姿にエレンは脳内が真っ白になる気分だった。

「カナデ…」

 小さく名前を呼べばハッとしたカナデが指を自身の中から引き抜いた。ほんのり透明の糸が空を舞ったように見えた。カチャリと後ろ手でドアを閉めたエレンはゆっくりと靴音を立ててカナデの方にやってくる。

「あっ、エレン…」

 何の言い訳もできそうもない。そもそもあんなことがあった後で、カナデの身体は興奮が収まっていなかった。気分は最悪だった。けれど、燃えるように熱くなったそこがまだ足りずに求めてしまうのであった。
 真っ赤な顔を伏せてエレンに背を向けるカナデ。そんなカナデのベッドの横にギシッとエレンが腰掛けた。

「もしかして、リーブスの奴らにそういうことされたのか?」
「…――え?」

 思わず振り返ったカナデを真っ直ぐに見つめ返すエレン。その大きなグリーンアイに見つめられてカナデはコクリと頷く。
 本当は知られたくなかった。でも今更言い訳することもできずにカナデは自嘲的に笑う。

「お前、辛かったらもっと俺に頼れよ、馬鹿だな…」

 横から抱きしめるエレンにカナデは胸の奥がキュッと掴まれたようだった。もしかしたら幻滅されるかもしれないという恐怖が、エレンが触れた事で一瞬で消えていく。エレンの温かな温もりに目を閉じてそっと寄り掛かればエレンが更にカナデを抱く腕に力を込めた。

「あのさカナデ…」
「うん?」
「その…嫌な思い出、俺で上書きできねぇかな?」
「え?」
「触られた所に、俺が上からキスしてもいいか?」
「エレン…いいの?」
「あぁ。つーかそんなことぐらいしか浮かばなくて悪りぃ。けど、カナデの中からそいつの記憶全部消してやりてぇんだ」

 エレン…とカナデの口から放たれると同時、カナデの綺麗な頬を一粒の涙が落ちた。その涙を唇で受け止めるエレン。目の下から顎のラインまで、涙の線をなぞるように舌でちゅっと吸い上げるとカナデがほんのり熱い吐息を漏らした。エレンはカナデの頬を指でなぞると、「目閉じろ」そう優しく囁いた。カナデはコクリと頷くとエレンに身を任せる様に目を閉じた。それを確認してからエレンはカナデの唇に自分のを重ねた。
 乾いた唇を潤すようにハムッと舌で濡らしていく。上唇と下唇の間を舌先で突くようになぞると、ハァっと吐息と共にカナデの口が開く。そこにエレンは自身の舌を入れ込んでカナデの柔らかい舌をちゅるりと吸い上げた。

「ンッ、」

 漏れた吐息はカナデのものなか、エレンのものなのかも分からない。お互い貪るように舌を絡ませ合うと、もうお互いのことしか考えられなくなる。

「倒していいか?」

 カナデの肩をほんのり押しながらベッドの上に押し倒すエレンに、カナデは小さく息を吐き出した。

「エレン…ありがとう」
「え?」
「エレンとの思い出に変わるの、すごく嬉しいの」
「そっか、それならよかった。けど俺…わりといっぱいいっぱいだから…ハハ」

 好きな女を前に、自分をどれだけ抑えてカナデに怖い思いをさせないでいられるかだけを脳内に置いて、エレンは白いシャツの上からそっと胸に手を添えた。
 初めて触れるカナデの身体。子柄で細身なのに豊満な胸は触れるだけでぷるんとしていて、それだけでエレンの下半身は疼いていた。ほんのり指を動かせば手からはみ出る膨らみに思わずゴクリと唾を呑み込んだ。

「アンッ…」

 つい夢中で指を動かすエレンに気づけばカナデは脚をモゾモゾと動かしながら甘い声を漏らした。ベッドの上で、シーツをギュッと握りしめるカナデはいつも立体機動で飛び回っているカナデとはまるで別人で、この部屋のドアを開けた瞬間からエレンは見も心もカナデに魅了されていた。

「カナデ…胸もキス…つうか、舐めてもいいか?」

 エレンの問いかけにコクリと頷くカエデ。それを待っていたエレンは舌を伸ばして尖った胸の尖端をちゅうっと口に含んだ。ほんのり目を大きく見開いたエレンはそのまま胸の周りを舌で縁取るようにチロチロと舐める。時折口に入りきらない胸の膨らみを音を立てて吸い上げるとカナデがハァっとまた熱く息を吐き出す。

「エレンお願い…」

 凹凸の激しいカナデの身体の曲線を手でなぞっていくエレンに、真っ赤な顔のカナデがそう声をかけた。元々そこを自分で弄っていたカナデは恥ずかしそうな顔で、それでもほんのり脚を開いてエレンの手をゆっくりと触れてほしい所へ導いた。エレンがカナデの太腿に手を添えてM字に開かせると、トロッとした愛液が既に溢れて出てきている。

「やべぇな…」
「エレン?」
「いや、なんでもねぇ。カナデ、ここどうされたい?」

 キスだけじゃ到底収まりきれないだろうエレンの問いかけはいわば最後の砦のようなものだ。けれど、傷ついているカナデに同じように嫌がる事など決してできやしない。いくらエレンの理性が飛びそうであってもそこは絶対に許されない領域だってことは分かっている。
 そしてカナデも、エレンにならば触れられても何をされてもいいとすら思えていた。

「触って…エレンにならどうされてもいい」

 ゴキュリとエレンが生唾を呑み込む音が部屋に響いた。目を見開いて困ったように眉間にシワを寄せたエレンは、カナデの身体を一度強く抱きしめた。

「どうされてもなんて、そんな言い方すんな。俺は、お前の嫌がる事はしたくねぇ。けどお前がここ、舐めたりしていいっつーなら…遠慮なくする」

 何故かちょっと偉そうなエレンにカナデはふわりと微笑んだ。
 確かに凄く嫌な気分だったし、忘れられるのなら忘れてしまいたい。けれど、エレンがカナデを想う気持ちがエレンの纏う空気から流れてきて、カナデの負の心もエレンの優しさで溶かされていくようなそんな気分に変わっていた。

「うんじゃあそうして。エレンにならそうされたい…だめかな?」
「本当にいいのか?」
「うんだって、エレンだもん。他の誰でもないエレンが相手なら、それだけで嬉しいんだよ」
「そっか、ならまぁアレだ。俺もカナデだからだよ。同じ気持ちだ俺たち」
「嬉しい…」

 そうやってエレンはカナデの身体を労るように身体の至る箇所にキスを繰り返した。
 決してそれ以上進めることなくエレンはカナデの心を第一に嫌な思い出を全て消し去る甘いキスを身体中に降らせたのであった。
 傷ついたカナデの心もエレンによって癒されてゆく。これから大事な任務が待っている。ウォール・マリア奪還を成功させ、エレンと住んでいたあの家の地下室へ行き、巨人の秘密を説くべく物語は進んでゆく。



「ハァーっ…ヤベェなこれ、」

 眠ってしまったカナデの部屋からそっと抜け出したエレンは盛り上がり過ぎている自身の下半身を手で押さえて大きく溜息をついたなんて。

―――完。