WINDBREAKER✱蘇枋 隼飛

「私って女として魅力ないのかな…」
「え?」
「やっぱり貧乳だから?それとも外見が子供っぽいから?…髪、伸ばそーかな…」
「いやあの、真由美?」
「ことちゃんみたいな色気、どーやったら私につく?ねぇ教えて」

 深々と溜息をついた黒髪ボブの女子高生は、ここ、まこち町東風商店街の一角にある喫茶店のカウンターに腕を投げ出してそこにコテンと顔を乗せた。
 風鈴高校のクラスメートである桜君と一緒に顔を出せば、最愛の真由美がことはさんにそんな恋愛相談をしている姿が目に入った。背中を向けている真由美は気づいてないけれど、オレに気づいていることはさんは、どうするのよ?と言わんばかりに目配せするから、口元に人差し指を当てて自分の存在を消す。
 真由美とは幼馴染みで、小さな頃から何をするのにもずっと一緒だった。あっけらかんとした性格で、どこか抜けている真由美はオレから見たら隙だらけで正直一人で出歩かせたくない。ボウフウリンがいるとはいえ、まだまだこの町には危険が伴っているわけで、いつ何処で真由美が危険な目に合うかと思えば、親中穏やかではいられなかった。
 その反面、オレとの事に頭を悩ませている姿を見れば、普段は幼く見える真由美も女なんだと意識せざるを得ない。真由美が何を考えているのかはだいたい想像がつく。付き合って2か月のカップルなんていったら、超がつくほどラブラブなバカップルと言っても過言ではないだろう。まぁ人それぞれなんだろうけど。けど一般的にそう見える。だからそう、真由美もオレと手を繋いだりキスをしたり…そう願ってくれているんだって分かるし、オレ自身だってそう思っていないわけじゃない。
 ただ――こんな風に頭を抱える真由美を見れるのは今だけの特権だと思える。惚れた女が自分との付き合いで悩む姿はわりとオレの性癖に刺さっていた。

「今日は出直すよ」

 テーブル席についた桜君に小さくそう告げるとオレは一人静かに店を出た。店内で桜君が「なんだぁ!?アイツ!」なんて言ってる声が背中越しに届いた。

 その日の夜だった。
 幼馴染みであるオレの家と隣同士の真由美の家。自宅の部屋のベッドの上でクラスメート達とラインをしていると、コンコンと窓硝子を叩く音がしてムクリと起き上がる。部屋の南側についている窓を開けると、正面の部屋から真由美が顔を出していた。

「あれ?どうかした?」

 見た感じ、ちょっと膨れっ面な真由美。昼間見た時とちょっとだけ雰囲気が違うのは、ことはさんにメイクでもしてもらったのだろうか。黒髪ボブも、サイドを編み込んでいてそれをオレに気づかせようと頭を振ったりしているのが可愛い。

「今日、隼飛のクラスの級長って奴に会った。桜って男」
「あぁ、桜君と?いい奴でしょう、桜君」
「そんなに喋ったわけじゃないからよく分からないけど…隼飛が級長じゃないんだね」
「うーん。オレは引っ張っていくってタイプでもないからねぇ。補佐する方が得意だし、それは真由美もよく分かってるでしょう」
「そうかもしれないけど。でも、でも!!…隼飛は強いし、リーダーだってちゃんとやれると私は思ってるよ」
「ありがとう。でもうちのクラスには桜君が合ってるからさ。それより真由美、髪型どうしたの?」

 ほんのり頬を紅く染めながらオレを褒めるなんて、ほんと可愛いなぁ。ニコリと微笑んでヘアスタイルの話題に触れると真由美が目をぱっちりと見開いた。

「実はことちゃんにやってもらったの!ついでにメイクもしてもらったんだけど、どうかな?」

 ふわりと髪を揺らせて見せる真由美。オレはまたニコリと微笑んで「可愛いよ」と告げる。

「ほんとっ!?」
「うん」
「じゃあ、写真撮ろうよ、今」
「今?構わないけど」

 窓を全開する真由美の部屋にオレは、自室の窓枠に脚をかけてスッと飛び移った。トスッと窓際にあった真由美のベッドの上に座るとふわりと甘い香りが鼻をかすめた。香水だろうか?そんなのつけなくていいのに。ほんのり髪から香るシャンプーのスイートな感じとか結構好きなんだけどな、オレ。
 手ぐしで髪を整えた真由美はスマホのインカメをオンにすると、オレと二人で画面の中に姿を写す。可愛らしい笑顔を作って。

「ねぇ待って!何気に隼飛とツーショしたことなくない?」
「そういえば、そうかもね。女の子は写真好きなんだろうと思っていたけど、真由美と撮るのはうん、初めてだ」

 ニコリと笑うと瞬きをさせて目を伏せた。その表情は少し面白くなさそうで。不意にカメラを持っていた手を下ろした真由美がチラリとオレに視線を向けた。

「撮らないのかな?」

 小首を傾げるオレを何故か真由美は睨みつける。ちょっとよく分からない真由美のその行動にオレは真由美の手からスマホを奪ってインカメで二人を写す。やっぱり画面越しでも真由美の瞳は伏せっていて…

「隼飛、女の子とツーショしたの?」

 小さな真由美の声がオレの耳を掠めたんだ。唇を真一門にぎゅっと噛みしめている真由美の手も、力が入っているのか強く握られていて…
 あぁ、そういうことかと、真由美の不機嫌なわけを瞬時に理解した。それと同時にオレが他の女の子とツーショしたと思って妬いている真由美がめちゃくちゃ可愛くて、今すぐ押し倒してしまいたいぐらいだ。でもそこはぐっと堪えてオレは首を横に振る。ピアスの飾りがシャリっと揺れた。

「まさか、してないよ。オレに近づく物好きなんて真由美以外にいないって」

 ベッドに手をついて隣の真由美の方に少し寄りかかるようにして顔を覗き込む。オレを見つめる真由美の頬は紅らんでいて、ことはさんが編み込んだという髪に触れると真由美が息を呑むのが分かった。

「隼…飛…」
「うん」

 自分の胸元を手で押さえてキュッと唇を閉じる。恥ずかしそうに目を閉じる真由美の貴重なキス顔を前にしてドッと心拍数があがる。確実に今ならキスができる。なんならその先もできるかもしれない。真由美を好きだという気持ちに嘘はないし。そもそもオレは小さい頃から真由美しか見ていない。真由美以外の女に興味なんてない。だからオレの全ては真由美だけだ。はぁ…せっかくのチャンスを棒に振るうなんて、これじゃあ罰が当たっちゃうかなぁオレ…。そう考えながらも真由美の震える唇を見て微笑ましく頭を撫でた。緊張しやがって、たく。

「写真、撮るんでしょ?」

 そう言うと真由美が大きな目をパチクリと瞬かせてコクリと頷いた。仕方ない…ふわりと真由美の肩に腕を回して引き寄せたオレは、インカメの撮影ボタンを数回押した。
 不意打ちって感じ、目を見開く真由美とニッコリ微笑む自分が写っていて、それを見て真由美は嬉しそうに笑った。こっそり真由美とのラインのトーク部屋の背景に設定しようと思っていたオレの前で、堂々と同じようにラインのトーク部屋の背景に設置した真由美の髪をふわりと撫でた。オレを見つめ上げる真由美に、「じゃあそろそろ戻るね」そう告げると、目に見えて落胆するのが分かった。そんなオレの制服の裾をちょこんと指で摘むと「もう少し一緒に居たい…」聞こえた真由美の声にオレは振り返って微笑んだ。

「いいよと言いたいんだけど、さっきからにれ君がずーっとオレにメッセージ送ってきていて。きっと何か用事があるんだと思うんだよ。だからまた今度ね!」
「分かった。隼飛…その、」
「うん?なぁに?」

 なんでもない、そう小さく言った真由美は掌を翳してバイバイとオレに手を振った。
 窓から窓へと移動したオレは、硝子戸を閉めるとふぅと大きく息を吐き出す。これ以上一緒に居たら、理性が吹っ飛びそうだった…なんて。確かに真由美の一歩進みたい気持ちを把握して見ているのは楽しいけれど、結局オレ自身の我慢もそろそろ限界に近いのかもしれない。ほんの小さな矛盾を抱えてこの日は眠りについた。

 翌日風鈴高校に登校すると、目の下に隈を作って大あくびをしている桜君がオレを見るなりズカズカと歩み寄ってきた。何事かと歩を止めると、目の前の椅子を引いてそこに座るからオレも前の席の椅子を引いて同じように座った。

「すごい隈だね桜君。どうしたの?」
「てめぇのせーだ、蘇枋。昨日ことはの店で会ったお前の女だっていう真由美とかいう女が、勝手にライン登録して勝手に俺に電話してきやがった。一晩中意味分かんねぇ事をほざかれてたんだ。学校での蘇枋の話を教えろ?だとか、女の気配はあるのか?とか…。つかお前、真由美と付き合ってんのか?」

 唾を飛ばす勢いで一気にまくし立てられて苦笑い。容易に想像がついた。昨日…ということは、あの後か。まさか桜君と連絡先を交換していた事にまずは吃驚したなぁ。

「ふむふむ、桜君キミは一晩中もオレの彼女と電話してた訳だ、ほうほう」
「いや、怒ってねぇ!?俺がかけたんじゃねぇよ、かかってきたから出ただけだよ。しかももういいか?って何回聞いても、切るなだのなんやかんや煩せぇし、迷惑してんのはこっちだ」

 あきらかに面倒そうな顔で桜君がオレを睨むから余計に腹ただしくて内心苛々が止まらない。オレだって真由美と一晩中電話していたことなんてないというのに。よりによって桜君相手に嫉妬するハメになるなんて、オレとしたことが。

「それは悪かったね」

 教室から出ていくオレを、桜君の大声が追いかけてきたけれど、ちっとも耳に入ってこなかった。
 そもそも、真由美とオレがこんな関係になったのは2ヶ月前。あの日真由美が精一杯の勇気でオレに好きだと告げてくれたからだ。



 それは風鈴高校に入学して2週間が過ぎた頃だった。幼馴染みの真由美とは中学まで同じだったからいつでも顔を見ることができた。ところが、高校が別々になったことで当然ながら顔を合わせる機会も格段に減った。昔からずっと一緒だった真由美を傍に置いておけないもどかしさもあったけれど、ボウフウリンの一人として過ごす時間は刺激的で野郎共と過ごす日々は楽しく少しばかり浮かれていたのかもしれない。
 町の見回りを終えて家路につく途中だった。真由美から大事な話があるなんて畏まったメッセージが届いたのは。なんとなく真由美が何を言うのか想像はついたものの、なんら分からぬフリをして待ち合わせ場所の公園まで歩く。
 昼間は子供たちが賑やかに遊んでいたであろう残像も陽の落ちた今はもう残ってはいない。一番星が空に瞬き始める頃、漆黒を忘れるくらいに色とりどりのネオンが輝き出す夜の町。
 キーコーキーコー聞こえるその音に無意識に視線を向ければ、月明かりの下緊張した面持ちの真由美がブランコに座って待っていた。

「真由美」

 名前を呼べば顔を上げてやっぱり少し引き攣ったように頬を緩ませるから、脳内での想像が現実を帯びたようだった。

「大事な話って、」
「好きっ!」
「いきなりだね」
「だって、すぐに言わなきゃ言えなくなっちゃうから。気づいてるかもしんないけど、私は隼飛が好き。小さい頃からずっと好きだった。中学までは毎日会える距離だったけど、高校別々で隼飛が他の子と仲良くしてるのとか嫌だし、何より私の気持ちを伝えたくて」
「風鈴に女の子はいないけどね」
「うんそうなんだけど、それだけじゃなくて、」
「いいよ」
「え?え?付き合ってくれるの?」
「うん、いいよ。付き合おうかオレたち」

 そうなるのが自然なんだって。引かれ合う重力みたいに、オレと真由美は惹かれ合う運命のもとに生まれたんだって思うよ。
 ニッコリ微笑むと、真由美が泣きそうな顔で「嬉しい」そう言った。さも可愛い声で、可愛い顔で。
こんな幸せな日は、生まれてはじめてだろうと。オレはこの日を一生忘れることはないと思えた。



 今もまだ、2ヶ月前のあの日をオレは鮮明に覚えている。ここんとこ数日、風鈴で色々あって、真由美に構ってあげる時間すらなく慌ただしい日々を過ごしていた。漸く落ち着いた頃、オレ達多聞衆1年の数人で帰り際ファミレスに入ると、真由美達のガールズグループと遭遇した。

「隼飛!」
「奇遇だね真由美」

 ニコリと微笑むと、真由美の周りの女子達がオレ達風鈴を見て表情を明るくするのが分かった。

「ねぇもしかして、真由美の彼氏の蘇枋さん?」

 友達なんだろう子が真由美を跳ね除けるように前に出てこようとしたのが見えて、オレはスッと腕を出してそれを止める。それから真由美を引き寄せて隣に立たせるともう一度ニコリと笑った。

「まぁそんなところ。真由美のこと、よろしくね」

 女の子相手に無理なことはしないけど、真由美への扱いには気をつけろよ、なんて願いを込めてオレは冷めた顔で笑ってみせた。ポンと一つ真由美の黒髪を撫でると、オレは桜君達のテーブルへと向かった。

「おい蘇枋、なにイチャついてんだよっ!?」

 相変わらず威勢のいい桜君にオレはジロリと睨むと一言告げた。

「自分の女とイチャついて何が悪りぃんだ、ボケ」
「す、蘇枋さんっ!?どうされたんです、その口調…」

 あわあわするにれ君に向かってオレは精神を整えると「なにが?いつも通りだよ」そう微笑むと瞬きを繰り返して小首を傾げた。
 ボウフウリンはわりと忙しい。次から次へと事件に巻き込まれる。町の見回りは勿論、自分のクラスメート達の事もしっかりと守っている。だけれど、やっぱり真由美のいない時間は何かが物足りなく、そんな簡単な事に、案外オレも気づいていなかったのかもしれない。こうして真由美が見える距離にいるこの空間が堪らなく愛おしいと思えるなんて、どれだけ真由美が好きなんだろうかオレは。
 ついフッと鼻から息を漏らすと、桜君とにれ君が不思議そうな顔でオレを見た。

「蘇枋さん?今笑いましたよね?」
「さあ。気の所為でしょう。さ、なんか食べようか、お腹空いたよね」

 メニュー表を手にしたオレはそれをテーブルの真ん中に広げた。


「隼飛達、そろそろ帰る?」

 陽も落ちた頃、真由美がオレ達のテーブルに来てそう聞いた。店内の壁時計を見ればそろそろ夕飯の時刻だった。

「あ、と。蘇枋さん帰りの見回りはオレと桜さんでやりますので、彼女さん送って行ってあげてください」

 にれ君がニコニコしながらそう言ってくれるもんだからオレはチラリと真由美を見ると、にれ君の提案にのってほしそうな顔をしていて。

「うーん、じゃあそうさせて貰おうかな。桜君すまないね」
「余裕だよ。お前なんていなくても」

 シッシッて面倒そうな顔をさせて軽く手であしらう桜君にオレは苦笑いを返すと真由美を連れて店を出た。硝子張りの窓の向こうに手を振る真由美の視線の先には顔を真っ赤にして反対側を向く桜君の姿があって、そんな事すら面白くないオレは、直ぐに手をポケットに突っ込んで歩き出す。
 手、繋ぎたい?でもダメ。オレの前で桜君相手に手を振った真由美が悪いよ。なんて脳内で小さく悪態をつきながらも、隣を歩く真由美の言葉に自然と頬も緩くなっていくのが分かった。

「今日ね、うち親いないの」

 公園を超えて住宅地に入った頃、前触れもなく真由美がそう言った。一瞬聞き流しそうになるところだったけど、さすがにそれはできない。

「仕事?」
「うん。だからさ、隼飛うち来ないかなーとか」
「…うーん」
「私達付き合ってるし、別に問題ないよね?」
「まぁそうだねぇ。じゃあ一旦家に帰ってから真由美の部屋にお邪魔しようかな」
「うんっ!待ってる!」

 真由美を見ると嬉しそうで、その笑顔を見たら何も言えそうもない。オレは自宅で風呂まで済ませると、真由美の部屋の窓を開けてそこへ飛び込んだんだ。

「なるほど、これが見たくてオレをよんだのか」

 ホラー映画のDVDを手にしている真由美は、風呂上がりで火照っている。ピンク色に色付く頬と少し湿った乾ききっていない髪がいつもの真由美を少し大人びて見せていた。

「クラスのみんなが見ろ見ろって言うけど一人じゃ怖くて…」
「うんじゃあ見ようか」

 デッキにセットして再生ボタンを押すと、真由美の部屋が二人きりの映画館へと代わったんだ。
 映画が始まって数分、「ヒイッ」とか「ヒャアッ」とか面白い擬音を繰り出す真由美。ビクっとする度にオレの服の裾をぎゅっと握りしめているのが可愛い。自分で見たいと言い出した手前、降参したくないのかもしれないけど、オレがちょっと位置を変えたりするだけでもビクビク肩を震わせる真由美が段々可笑しく思えてきて、オレの思考はテレビ画面より左半身にいる真由美に集中していた。ふと気づくと真由美はオレの手を握ろうとしているのか、そっと手を重ねてきた。

「やっぱり怖いのかい?」

 でもそう聞くと真由美は首を横に振る。見ると俯いていた真由美の頬をツーっと透明の雫が伝っていって…「え…?」ぐすんと鼻を啜る真由美が泣いている事に気づいたんだ。

「真由、美?」
「なんっで?…ねぇなんでッ?なんで隼飛はさっ平気なのッ?」
「なんの話?」
「隼飛はど…して私と付き合って…の?」
「どうしてって」
「幼馴染みだから?…もし断った…後々面倒って思ったからなんッじゃないの?だか、ら隼飛、私に好きって言っ…くれないし、全然彼女扱いして…くれな…の?今だって二人きりなのに、そーゆー空気にならな…し…」

 涙で言葉を詰まらせながらも気持ちを吐き出す真由美に、今更ながら自分がしてきた事を心底後悔した。オレはなんて馬鹿なんだろうと。好きな女の笑顔を守る事もできないなんて。誰かに泣かされたら絶対に許さないだろうなんて思っていながら、オレ自身が真由美を泣かせたなんて、飛んだクソ野郎だ。
 ポロポロと真由美の細くて柔らかそうな太腿に涙が零れ落ちていく。そんなになるまでオレの浅はかな行動に我慢させてしまっていたことに、殴りだおしたいくらいに腹が立った。
 真由美の腕を掴んだオレはそのまま真由美を胸に抱きしめた。初めて触れた真由美の身体は、想像していたよりずっと小さくて、柔らかくて、細い。それでもオレは二人の間に隙間ができないくらい強く抱きしめる。

「ごめんね真由美。好きだよ真由美。大好きだよ、真由美。真由美があの日言ってくれた言葉、そのままオレの気持ちなんだ。小さい頃からずっと真由美が好きだった。今まで手を出さなかったのは、オレの事で悩む真由美がかわいくて見ていたかったから。オレの我儘で真由美を泣かせてごめんね。酷い彼氏だね、ほんとに。嫌われちゃったかな…」
「嫌いになんてなれないよ…嬉しくて死んじゃいそッだよおッ」

 ぎゅっと強く腕にしがみつく真由美の髪を撫でるとシャンプーの甘い香りが鼻腔を掠めた。途端に映画がどうでもよくなって、真由美とのもどかしい関係に終止符を打とうとしている自分がいる。ふわりと数回髪を撫でながら真由美との間に距離をつくる。真っ赤になっている濡れた瞳は瞬きを繰り返しながらもゆっくりとオレを見つめ上げる。柔らかな頬に手を添えれば、真由美が困ったように肩を竦めた。

「キスしてもいい?」

 小さく聞くと真っ赤な顔でコクリと頷く真由美に心拍数が無駄にあがる。目を閉じる真由美の唇を一度指でなぞると、オレはそっと唇を触れさせた。一度触れてしまうともう止まらなくて。ニ度、三度と重ねるうちに脳内にほんのりと残っていた理性のタグが外れるのが分かった。
 後頭部を手で支えながらオレはベッドの上に真由美を押し倒した。馬乗りで真由美の上に体重を乗せると、また柔らかい唇に触れた。ちゅと小さなリップ音を鳴らせて何度も唇を重ねるうちに、ほんのり開いた隙間から舌をちゅるりと入れ込んだ。一瞬ビクリと真由美が反応を見せたけれど、すぐにオレの舌に真由美も舌を絡ませてくれる。その舌の柔らかさに、癖になりそうだと思う他なかった。
 ゆっくりと舌を首筋に移してそのまま鎖骨を一舐めすると「ンッ」恥ずかしそうに真由美が顔を逸らす。なんて可愛いんだ…そう眺めていたい気持ちとは裏腹に、オレの手は風呂上がりのオーバーサイズのトレーナーの上から胸の膨らみに触れた。

「恥ずかし…よ」
「だーめ。全部見せて、かわいいから」
「も…狡いよ、そ…ゆの」
「ふふ、ごめんね。でももう我慢できない。このまま真由美をオレだけのものにするね」
「ん、いいよ。隼飛…好き」
「オレも好きだよ真由美」

 バンザイしてトレーナーを脱がせると色白の滑らかな肌が顔を出す。白い下着を身に着けた真由美の顔は真っ赤っ赤で、オレは真由美の頬にかかった髪をそっと指で退かした。下着の上からやんわりと胸を揉むように円を描けば、真由美が目を閉じて口から小さく息を吐き出す。その姿がどうにもエロくて興奮せずにはいられない。腕を背中の下に通して下着のホックを外し、慌てて胸元を腕で隠す真由美の腕を掴んでそれも外させる。ツワになった胸は掌に収まる程度だけれど、そんなことは何も気にならない。なんならオレが大きくしてやればいいとすら思えた。ツンと上を向いているピンク色の突起を指で触れると「アンッ」甘い真由美の声がオレの耳に届いた。

「かわいいなぁもう」

 どうにかなってしまいそうだ…なんて言葉を口にするより先にオレは手前の突起を口に含んだ。ちゅっと音を立てて舌で転がすと、真由美の腰がほんのり動いたんだ。

「んうっ」

 涙目の真由美がやっぱり恥ずかしそうに顔を逸らす。口元に自分の手の甲を当てて顔を隠すからオレは腕を伸ばして真由美の指に自分の指を絡めた。ぎゅっと指を絡ませると真由美が薄っすらと目を開けてオレを見つめる。

「胸、小さくてごめん」

 挙げ句、そんな事を言い出したからオレは真由美の胸を執拗に舐めてみせる。

「大きさより感度が大事じゃない?」
「そうなの?」
「オレは好きだよ、どんな真由美でも」
「隼飛…」

 ぎゅっとオレに抱きつく真由美を下に組み敷いて赤みがかった唇に舌を這わせた。そのまま口内の至るところを舌で舐めていくと、真由美の口から甘く短い吐息が漏れた。

「隼飛も脱いでよ。私だけ脱ぐの恥ずかしい…」
「言われてみれば、そうか。じゃあオレも脱ぐね」

 チャイナ風のトップスを脱げば、真由美の視線が腹筋に釘付けになっている。まぁ一応そこそこ鍛えてはいるからね。割れたシックスパックを見て小さく息を漏らす真由美にクスリと微笑むと、どーせならと、オレは真由美の短パンに手をかけた。

「オレも脱ぐからいんだよね?」
「…恥ずかしいから一々聞かないで!」
「真由美が嫌がることはしたくないだけなんだけどなぁ」
「嫌じゃないから…だからこれ以上聞くの禁止」

 羞恥心からか、プイッとそっぽを向く真由美だけれど、それすらも可愛くて仕方がない。分かったよ、とオレは恥ずかしがりながらも下も全部脱がさせてくれた真由美の脚を遠慮なくM字に開いた。さすがに嫌だったのかバタバタと脚を揺らして股を閉じようとしているのが分かった。だからオレはさせまいと、指で飛騨を割って花弁の中にある突起を突けば、「アアアッ」…真由美がビクンと腰を揺らした。肩を揺らして口で大きく呼吸を繰り返す真由美に、オレは尚も続けて花弁の中に埋まった突起を指でくちゅりと触れる。神秘的なそこはとても魅力満載で、顔を近づければ舌が膣内からタラリと垂れ落ちる愛液を啜った。

「アアアッンッ、やだっ、」

 首をブンブン横に振る真由美。口ではやだと言っているけど、本当に嫌なわけではないと分かっている。だからオレは舌でトロリと流れ出る愛液をまたぺろりと一舐めした後、中に舌先を入れていく。トロットロな膣内のキツく締め付けている壁を舌で舐めれば真由美の脚ががくがくと小さく震える。花弁を剥かずとも顔を出した突起と膣内とを交互に舌で吸い上げると、真由美が一際大きな声を上げて腟内を震わせたんだ。

「もしかして、イッた?」

 ハァハァと肩を揺らして呼吸を整える真由美が小さく頷くからもう我慢ができなくなった。オレはポケットに忍ばせていたゴムを開放してズボンを脱いだ自分自身にスルスルとハメた。ちょっと塗るっていて気持ち悪いけど仕方ない。そそり勃つ自分のを指で掴んで真由美のトロトロの入口に宛てがたう。
 チラリと真由美を見ればオレがそうするのを待っていたかのような高揚した顔を向けてくれて、よく分からないけど、少し泣きそうな気持ちになったなんて。

「挿れていい?」

 聞くの禁止だったななんて思いながらも、真っ直ぐにオレを見つめる真由美はコクリと頷いてくれる。ゆっくりと熱い真由美の中に挿れていった。最奥まで挿いりきると、真由美の瞳からポロリと涙が溢れた。

「真由美?ごめん、痛かった?」
「違うよ、嬉しいんだよ。やっとね、隼飛と一つになれて。ずっと不安だったんだからね…」

 コツンとオデコを合わせてそっと目を閉じる。全身に真由美の匂いを感じて、それだけでも心地がいいというのに、真由美の言葉にオレは感動すら覚えた。

「なんか、そーゆー台詞って普通男が言うんじゃないのかな」
「え?」
「でもオレも、真由美と一つになれてすごく嬉しい。もう二度と不安にさせないし、泣かせないって誓うよ。だからこれからは毎日真由美への愛を伝えるつもりだから、覚悟しておいてね」

 笑いながらオレの首の後ろに腕をかける真由美が、ほんのり頭を上げるようにしてキスをくれた。それを合図にオレはゆっくりと真由美と繋がっているそこを動かしはじめる。最奥まで突いてギリギリまで抜いてを繰り返すうちに、汗ばんだ背中からポタッと汗が滴り落ちていく。

「ヤバいッ、気持ち良さ半端ないッ…」

 思わず漏れる荒ぶったオレと真由美の吐息混じりな声と、ベッドがキシキシと軋む音がホラー映画の音に混ざって耳に届く。肌が擦れる音と、接合部の水音とそれ以上の快感に頭ん中が真っ白になりそうだ。何も考えられない。目の前の真由美しか目に入らない。一心不乱に腰を動かして出し入れするオレに、真由美がぎゅっとしがみつくように手を握った。

「はや、と…きもちいよっ、イキそ…だよッ」
「オレもッヤバいッ」

 律動を早めると真由美の声がいっそう大きくなった。

「ハアッ…ハアアッ…もっ、無理ッ…アンッ…やっ、イッちゃッ!!」

 きゅうううううっと、子宮を震わせて中を大いに締め付けた真由美に身体の芯からブルリと震えて次の瞬間動きを止める。ゴムの中に勢いよく射精された白く濁ったそれに、頭がキーンとなるくらいの気持ち良さを覚えた。
 バタンと、真由美の横に寝転がって天井を見ながら呼吸を整える。

「大丈夫?身体、辛くなかった?」

 頭を引き寄せながら肩を抱くと、真由美がコロンと擦り寄ってきた。

「平気。隼飛は?」
「オレは最高に気持ちよかった。いつもよりすぐイッちゃったなぁ…」

 ニコリと微笑んだオレに、真由美はパァーと顔を明るくさせると、耳元で小さく囁いたんだ。

「いつも一人で私とのえっち想像してシてたの?」

 しまった。これは失態だ。まさかそんな事を口走るなんて。真由美にそう言われても仕方がない。まぁ間違っちゃいないんだけど…さすがに恥ずかしい。
 一気に全身の血液が顔に集中してくるのが分かった。言い返せないオレを見て、「お顔が真っ赤っ赤だよーん」なんてわざとらしく言う真由美にすら、愛しかないんだけどね。
 楽しそうにケラケラ笑う真由美の腕を引いて引き寄せれば、すぐに女の顔をして目を閉じる。

「そうだよ、悪い?」

 オレの言葉に真由美はやっぱり顔を真っ赤にして「嬉しい」と笑った。

―――――完。