進撃の巨人 リヴァイ
「総員!立体機動でとどめを刺せ!」エルヴィン団長の言葉に、立体機動装置をつけた調査兵団の団員が一斉に空を舞う。頭から水を浴びて濡れたまま、高熱を放つ巨人化したロッド・レイスの肉の破片を刃でたたっ斬る。巨体のどこかに飛び散った本体を破壊しない限り、また身体を再生し、高熱の盾を生み出してしまう。そんな事は許されない。なんとしてもここ、オルブド区外壁で、この巨大な奇行種を仕留めてやる。そう願いを込めて空を舞う仲間達と一緒に、私もひたすらロッド・レイスの肉片を切り刻んだ。
エルヴィンの指揮のもと、こうして見事にロッド・レイスを倒した調査兵団。ありしも本体を倒したヒストリアはこの国の真の王として表舞台に立った。
その後、トロスト区の外壁ではエレンの硬質化を利用して作成された巨人の処刑台がその役割を果たし、時間はかかるけれど、人の手を使わずして巨人を殺戮する事ができると話題になっていた。
今日もまた、エレンの硬質化の実験が続けられている。壁の下ではハンジの指揮のもと、エレンの実験は日々重ねられていく。巨人と交戦していないこの時間が嵐の前の静けさな事は分かっている。だからこそ今の平和な時間がとても貴重に思えるんだ。この壁の中で生きる限り、平和なんて訪れないのかもしれない。それでもほんの一時のこの時間を大切にしたいと思ってしまう。
「○○です。エルヴィン団長、お呼びでしょうか」
団長室に入ると、エルヴィンが私を手前のソファーに座らせた。隣には何故かリヴァイも座っている。
「忙しいのにすまなかったね○○。ウォール・マリア奪還に向けて新兵を募っているのだが、先の闘いで壊滅した○○班に新兵を入れるか、それとも○○がリヴァイ班に入るか、聞いておこうと思ってな」
連れ去られたエレンとヒストリアを追った私の班は、町中で中央憲兵達に皆殺しにされてしまった。新兵を自分の班に入れる事になると、それはまた大変で…かと言って…チラリと視線をリヴァイに向けると「なんだ」と、低い声で睨まれる。まぁただ見ているだけなんだろうけど目付きの悪いリヴァイと目が合えば睨まれているように思えるなんて。
「エルヴィン、俺の班に○○を入れるなんて話、一言も聞いてねぇがな。…ハンジの班でいいじゃねぇか、わざわざ俺のところに入れなくとも」
不機嫌そうなリヴァイの態度にコクリと頷く。きっとリヴァイは私を同じ班に入れたくないんだろう。私を足手纏いだと思っているのかもしれない。
「私も、ハンジさんのところに入れて貰えるならその方がいいです」
「決まりだな」
小さくそう言うと、リヴァイは団長室から静かに出て行った。あからさまに嫌がらなくても、なんて思う私は、リヴァイを兵士長以上の目で見てしまっているからだ。
「わかり易い奴だな、リヴァイは」
けれど、私の想いとは裏腹にエルヴィンは出て行ったリヴァイの後ろ姿にフッと鼻から息を漏らす。それからデスクの上に置いてあった箱を私の前に差し出したんだ。
「わー紅茶ですか?」
「あぁ。一人じゃ飲みきれそうもないから、持っていってくれないか?」
「やった!リヴァイの分も一緒に貰っていいですか?」
「勿論だ。そのつもりで君に見せたからな」
「え?」
「リヴァイは、君を危険な目に合わせたくないと言っている。自分の班にはエレンもいるし、一番危険な任務を受け持つとしたらリヴァイ班だからって、わざと○○を遠ざけているんだろう」
そんなこと…。苦笑いでエルヴィンを見れば、優しく微笑んでいる。
「そうでしょうか?私達は兵団に命を捧げた身ですよ」
色恋に費やす時間なんてさらさらないというのに。それは私やリヴァイだけではなく、自由の翼を背にしている兵士なら皆同じ考えだと。
「確かにそうだな。だが、例え人類最強と呼ばれているリヴァイだって、いつ死が訪れるかは誰にも分からない。二人はお互いをとても大事に想っているのが見ていて分かる。わたしはただ、二人に後悔してほしくないだけだよ」
もしも、こんな世界じゃなければ出逢わなかったかもしれない。それでも今、リヴァイと出逢えた事で私の世界は勝手に色付いている。
その後もエルヴィンに変なことを言われたせいで脳内からリヴァイが出ていってくれない。それを打ち消すかのように私は立体機動の訓練をひたすらやっていた。
何度となく巨人の項を削ぐ練習を繰り返した私は、降り始めた雨に屈する事なく飛び続けている。そういえば壁外調査の時はわりといい天気が多く、こんな風に大雨の時だって今後はあるだろうって考えて樹の上に脚をかけた時だった。ツルッと滑ってバランスを崩すとそのまま下に落下した。慌てて立体機動を動かすも残念なことにガス欠で、ドサッと大きな音と共に脚に激痛が走った。
「イタタタタタ…」
脚を押さえて起き上がると、大雨の中こちらに向かって走ってくる誰かの姿が目に入る。一瞬リヴァイかと思うも、近くに来たその人は、
「エレン?どうしたの?」
「いや、○○さんが木から落ちるのが見えたんで。大丈夫ですか?」
こちらに手を差し出すエレンに苦笑い。まさか見られていたなんて。
「全然平気、問題ないよ。心配してくれてありがとう。エレンこそこんな雨の中何してたの?」
「俺は体力づくりです。巨人になった時にもっと動けるように。ライナーやアニみたいに、元々が動けるとやっぱ巨人化しても強いじゃないですか。だからもっと強くなりたくて」
一丁前に悩んでいるエレンが、不謹慎ながら可愛らしく思えた。
「いつもミカサに守って貰ってるからねエレンは」
「はっ!?違いますよっ!つーか別にアイツは頼んでもねぇのに勝手に俺を守りやがる。だいたい俺はミカサに守って貰わなくても平気です」
真っ赤な顔のエレンがますます可愛く思えた。ミカサがエレンを大事に想っているのは一目瞭然だけれど、エレンはそれを素直に受け入れられないんだろうな〜。本来なら男であるエレンが女のミカサを守ってあげたいんだろうけど、アッカーマンの血筋のミカサに適うはずもなく、いつも危険な目に合うエレンをミカサが守っているのは紛れもない事実だ。
「ミカサもリヴァイも、王家を守る為の血筋だからね」
「けど俺、リヴァイ兵長はその辺履き違えてると思います」
至って真剣なエレンの表情に、空はピカっとほんの一瞬昼間のように一面を明るく光らせた。その少し後、ゴロゴロゴロと何処かで雷の鳴る音が耳に届く。
「どういう意味?」
私が聞くとエレンはハッとしたように顔を崩す。そのまま苦笑いで私を見て眉毛を下げた。困った顔で視線を泳がせるエレンの腕をクイッと引っ張る。
「前にリヴァイ兵長と話していて。大切な人を守りたいのなら、俺が傍にいない方がいいって。俺が危険な立場にいるから遠ざけろって。けど俺は、傍で守ってやるのが正解なんじゃないかと思うから、だから俺は自分で守れるように強くなりたいんです」
トクンと胸が大きく脈打った。先程エルヴィンに言われた事と、今エレンが言った事は同じだ。この狭い壁の中で、それでも生きていく事に喜びや楽しさを感じたいと願うのはみんな一緒なんだと。
素直にそれを口に出せるエレンが羨ましくもあり、微笑ましかった。私もできるのなら、リヴァイ班でリヴァイの傍で戦いたい。勿論私なんかよりずっと強いリヴァイを私が助けるなんて事はないのかもしれないけど、それでも傍に居たいと思ってしまうのは、惚れた弱みなんだと思う。それを素直に口に出せたら、リヴァイは受け入れてくれるだろうか?なんて思いながら雨が止むまでエレンと樹の下で他愛もない会話を楽しんだ。
「風邪引かないように、しっかりシャワー浴びてね」
「はいっ。○○さんも」
ペコリと頭を下げるとエレンは兵舎の方へと戻って行った。私もとりあえずこの冷えた身体を温めないと!と、両腕を擦りながら体制を低くして自室に戻り、すぐさま熱いシャワーを浴びた。
あんなに土砂降りだった空も、今は雲の切れ目から星が瞬いて見えて、明日は晴れるだろうと部屋のカーテンを締めた。
夜も深まった頃、コンコンとドアを叩く音がして時計に目を移して顔を歪めた。こんな遅くに誰?脳内で考えても思い当たる人物なんていやしない。無言でドアまで行ってガチャリと開ければ、「リヴァイ!?」昼間見た不機嫌な顔のままのリヴァイがそこに立っていた。
「邪魔するぞ」
有無を言わさず部屋の中に入ったリヴァイは、手にしていた救急箱をドンと机の上に置く。
「脚、出せ。大雨の中落ちたところ、捻ったんだろう、どうせ」
「なんでそれを?エレンに聞いたの?」
チッと舌打ちをしたリヴァイは、さも不機嫌な顔で続けた。
「随分長いことエレンと楽しそうに喋ってたじゃねぇか」
「見てたの?」
「何をそんなに話していたんだ」
どうやら私の質問には答えてくれないらしい。脚をリヴァイの前に出しながらも脳内で先程のエレンとの会話を思い浮かべる。別にたいした話はしていないけれど、多少なりともリヴァイの話題を出したわけで、それを本人に言うなんてとてもじゃないけど無理だ。
「なんだったっけなー覚えてないや」
「ほう。恍けるつもりか」
薬を脚にすり込むリヴァイの手に力が込められるから「リヴァイ怖いよ」苦笑いでそう言えばまた小さく舌打ちが響いて強い視線でこちらを見られる。
「生まれたときからこの顔だ」
冗談が通じないリヴァイを前にどうしてか言い訳がましい気分になる。言い訳をするつもりじゃないのにリヴァイがそんな風に見てくるから…
「…本当になんでもないよ。ただエレンがその、大切な人を守る為に強くなりたいって…」
「あ?」
「リヴァイあのさ、私もリヴァイ班に入っちゃダメかな?」
「その話は昼間終わったはずだ」
「そーなんだけど。…ウォール・マリア奪還作戦にはきっとまた多くの犠牲が出るよね。リヴァイは強いし大丈夫だって思うけど、やっぱり傍に居たい私が」
こんな言葉を口にするのはエルヴィンとエレンのせいだとそう決めればもう、心の底にある本音をリヴァイにぶつけても許される気がした。こうしてゆっくりできるのは今だけで、もうあと数日後にはウォール・マリア奪還のために危険な調査に出なければならない。この世界は残酷でどんなに頑張っていても叶わない事の方が多い。私達調査兵団も今度こそ生きて帰れるか分からない。それならば…
「エレンのクソ野郎が、」
「へ?」
ムスッとしたリヴァイが、エレンに何を言われたのかは分からないけれど、頭を抱えて小さく息を吐き出した。それからゆっくりと私の前に手を差し出すリヴァイにトクンと胸が脈打った。
「だがそうだな、間違っていたのは俺の方かもしれねぇ。○○を俺の班に迎える。何があっても必ず俺がお前を守る。だからこれからもずっと俺の傍にいてくれねぇか」
ふわりと胸に抱き寄せるリヴァイに身体がカァッと熱くなる。見つめるリヴァイの瞳の奥がゆらゆらと揺らめいて見えて、コクリと頷くとそれを確認したリヴァイが私の頬に手を添えた。途端にドキンと爆音を鳴らす心音にリヴァイへの想いが溢れそうになる。寸前で目を閉じた私の唇に、渇いたリヴァイの唇が重なった。
そのままトサッとベッドの上に押し倒される。天井と私の間に挟まれたリヴァイは、シーツに落ちた私の髪を手ですくって口付けた。それがすごく妖艶でドキドキして、「リヴァイ」手を伸ばして頬に触れるとほんのり目を細める。
「確かさっきエレンが触れたのはこっちの手だったよな」
―――え?
一瞬なんのこと?なんて思ったけれど、樹の上から落ちた私をエレンが引っ張り上げてくれたんだっけ。まさかそんな最初から見られていたなんて。
「どうやら俺はそうとう嫉妬深いようだ。これ以上エレンに触れられる事は一切禁止する。いいな」
エレンの触れたであろう手の甲にちゅっと口付けるリヴァイは、ジロリと私を見つめて言い放った。故意に触れることも許されなさそうだなと、苦笑いを零す私を不満気に見下ろす。
「オイ返事はどうした」
「もう!わかったよ。その変わり、リヴァイも私以外の人にあんまり触れないでよ?」
「100%約束する」
自信満々なリヴァイが手の甲から腕、肘、二の腕と順に小さく口付けるから擽ったくて身体を捩った。トスッと体重を私に乗せたリヴァイは、ベッドの上で私に覆い被さって口付けを深める。舌を絡ませるとなんとも言えないリップ音が部屋に響いてそれだけで何も考えられなくなる。
シャワー浴びた後で薄着だった私の胸にリヴァイの手が触れるとキュンと胸の奥が熱くなっていく。そのまま服の中に手を入れて直接胸に触れるリヴァイ。胸の尖端を指でぐりぐりと弄れば腰が浮きそうになった。
「リヴァイ待って…」
「断る」
即答されて服を捲りあげたリヴァイは、器用な舌を胸元に落としてそこをじゅるりと舐め始めた。下半身がきゅうっと絞まるように子宮が反応しているのが分かる。もぞもぞと脚を動かす私に、リヴァイがフッと笑みを見せた。
「ほう。我慢できねぇのか」
楽しげにそう言うと、リヴァイは胸を舌で愛撫しながら、手をスルスルと脚元へと移動させた。焦らすように太腿を撫でるからもどかしくてリヴァイのサラサラな黒髪に指を通せば、こちらを見上げて身体を伸ばすように口付けられた。
息も絶え絶え唇を離すと、リヴァイが私の下着を素早く脱がせてそこに指を入れ込んだ。くちゅっと小さく水音が聞こえると、わざとらしくそれを大袈裟に指で鳴らすリヴァイ。
「アンッ…ヤッ…待って…リヴァイィッ…ハァッ…ンンンッ…アアンッ…」
なんとも言えぬ自分の喘ぎ声に恥ずかしさを通り越して心地良さを覚えた。どうにも止められない快感が身体を衝き上げるように駆け巡って、指を出し入れするリヴァイの巧妙な指さばきに吐息が漏れる。
「ねぇッ本当にっ待って…ンンンッダメッ、」
どう表現するのが正解なのか何も分からないけれど、リヴァイの指が絶妙に快感を募らせて、私は脳内が真っ白になった。
ビクンと肩を震わせて腰を浮かせると、リヴァイがまじまじと私を見つめている。
「悪くねぇな○○のこんな姿。だが本番はこここらだ」
明日生きている保証はない。だからこそ今この瞬間がたまらなく愛おしいんだ。私の上で目を細めるリヴァイのその顔を私は一生忘れないだろう。
――完。

