東リべ マイキー

 オレの名前は花垣武道。ごくごく普通の成人済みの童貞男だ。2歳年上の姉、コト姉こと花垣湖鳥は花垣家の家宝だといっても過言ではないくらいに美人で可愛く、オレには勿体ないくらいのできた姉だった。とにかくビジュアルもスタイルもずば抜けて良かったコト姉はそのルックスのせいでストーカー被害は日常茶飯事、街の不良達に狙われる事も多かった。それでもコト姉はいつでも明るく優しく、オレの自慢の姉貴で、そんなコト姉がオレは大好きだった。コト姉がいるとどんなに暗い空気が漂っていても途端に周りが明るくなり、気づけばオレの周りは笑顔で溢れていた。
 それがあの日――コト姉はオレとの電話の数時間後、見るも悲惨な姿で抜け殻となって戻ってきたんだ。他県の寮生の高校に通っていたコト姉は、どこの馬の骨だか分からない不良達に強姦された挙げ句、命を奪われた。
 それまで色々あったけど幸せだと思えたオレの生活が一変した。大好きなコト姉をこんな酷い目に合わせた奴等をオレは絶対に許さない。コト姉が殺されてから周囲の警護を強化してももう遅いっていうのに、無能な警察はその後の捜査でもコト姉殺しの犯人を捜しきれなかった。なんでだよ、なんで犯人捕まんねぇんだよっ。コト姉のいない人生なんて、陽の当たらない花壇の花と同じで、オレはその先の人生を完全に捨てた。挫折続きのくだらねぇ人生すら、どーでもよかった。誰に何を言われようが、何をされようが、今のオレには何も感じないんだ。
 26歳になった今も、あの日の悲しみは忘れないし、コト姉を殺した犯人達を絶対に許さない。できるのなら、オレがこの手で犯人を見つけてぶっ殺してやりたい。けどそんな上流人生をおくることもなかったオレに、警察が捜せなかった奴等を捜せるはずもなく、ただただつまらない変わらぬ日常を繰り返すだけだと思っていた。
 そんなオレの運命を変える出来事が起こったのは、生涯で唯一オレと付き合ってくれた中学の時の元カノ、橘日向が死んだというニュースをテレビで見た時。一瞬でフラッシュバックしてくるヒナの笑顔にオレはどうにも心臓がドクンと脈打つのが分かった。
 ふと壁に掛かっている時計に視線を向ければバイトの時間で、「やべっ!」慌てて支度したオレはそのままバイトに行った。さすがに一人暮らしで収入無しの生活にはなれるわけもなく、バイトを終えて駅のホームに立っていたオレは、列車が線路に入ってきたその時、ドンっと誰かに背中を押されて線路に落ちた。眩い光が真後ろからオレを照らして「あーオレ死ぬんだ」なんて何故だか恐怖はなかった。脳内にスローモーションで浮かんだのは、果てしなく明るい橘日向の笑顔ともう一人、かけがえのないコト姉の優しい微笑みだった。

 ―――コト姉、今行くよ。



 次に目が冷めたのは、12年前の今日だった。半ば理解できないこの状況。中学2年の格好した金髪のダセー姿のオレになっていて、見慣れた地元の街の風景もどこか懐かしい色を見せている。そしてまだここではコト姉が生きている。あの時は何もできずにいたけど、もしかしたら今のオレならコト姉を殺した犯人を見つけられるかもしれねぇ。ヒナが死ぬことも、コト姉が死ぬこともなんとか阻止したい。
 この、前代未聞な奇跡のタイムリープで、二人の人生を変えてやる!と意気込んで、オレはそれまでずっと隠していたコト姉の存在を中学時代につるんでいた仲間達に明かして、ストーカー被害を受けているから一緒にそいつ等を捜してほしいと頼み、そして見つけ出すことに成功した。
 コト姉を殺した奴等は他県の暴走族・夜叉ってチームで、とにかく素行が悪く、強姦、レイプ紛いな事も普通にやっていて、被害にあったのはコト姉だけに留まらなかった。とはいえ、命をおとしたたった一人の被害者はコト姉だけで、コト姉がいなくなったせいでオレの人生まで狂ったというのに、奴等は今もこの地でのうのうと生きている。

「やっぱり許せねぇ」

 寝ずに捜してやっと見つけた奴等に復讐をしようとするオレを心配して、後に溝中五人衆と言われるマコト、山岸、アッくん、タクヤがオレと一緒に夜叉の潜伏するアジトに乗り込むが、残念なことに返り討ちにあって、ボロクソに負けた。悔しくて情けなくて涙が止まらない。それでもオレは諦めないと誓い、どうやって奴等に復讐しようか考えることにした。
 そんな時だった、――あの日に戻ったのは。

「あれ?」

 目を開けるとそこは、駅の医務室だった。確かオレが落ちた線路の…「あの状況で生きてたの?オレ…」ガバリと起き上がると駅員がオレが線路から落ちたと説明をしてくれて、助けてくれたであろう男がオレの前に姿を見せた。

「橘ナオトです」

 そう言って笑った目の前のナオトは、どこかヒナに似た面影を纏っている。そういや12年後の今に戻る直前、12年前のナオトに偶然出会ってヒナが死ぬことを話したんだっけ。それを信じてくれたってことか、ナオトがここにいるのは。

「タケミチくん、姉さんを助けて下さい」

 オレに頭を下げるナオトとの握手がこのタイムリープのトリガーとなっていると説明され、今の東京卍會の抗争に巻き込まれて死んだヒナと、何より最愛のコト姉を助けに、オレは再び12年前の世界にタイムリープを成功させた。

 ハッと気づくとそこは喧嘩賭博の真っ最中。数え切れないギャラリー達の罵声を浴びているオレ。マジかよオイ。わけも分からず喧嘩相手にぶん殴られて簡単に気を失った。
 このくだらない喧嘩賭博の主催者であるキヨマサくんこと清水将貴は、当時の東京卍會の胴元で、オレ達はこのキヨマサくんにパシリにされてその後の中学生活をドブに捨てたんだった。二度も同じ人生誰が歩むかよと、タクヤのファイターが通達されたその日、覚悟を決めてオレは自分の意志を行動に移した。
 子供の頃から身体の弱かったタクヤを戦わせるわけには行かねぇからと、オレはその場でキヨマサくんにタイマンを売った。クソみてぇな人生を変える為には、オレ自身が変わらないとダメなんだって。
 殴られても殴られてもぶっ倒れるわけにはいかねぇ。だってオレは、ヒナとコト姉の命を救うためにここに来たんだから。こんなとこで油売ってる暇はねえんだよっ!!

「タケミっち今日から俺のダチなっ」

 そこに突如として現れた東京卍會の総長、佐野万次郎と副総長、龍宮寺堅。この二人の登場によってオレの運命はまたも一変する。
 ナオトが言った言葉を脳内で思い出す。東京卍會の佐野万次郎と、稀咲鉄太の出会いを止めろと。この二人が出会う事で、大きくなったトーマンが、ゆくゆくはヒナの命を奪うんだと。
 分かってるよ、オレはなんとしてもそれを阻止する。そして、コト姉の命も必ず救ってみせる。

 奇跡のマイキーくんとの出会いにオレはちょこちょこマイキーくん達と顔を合わせるようになっていた。接しているうちに、マイキーくんがそれ程悪い奴には思えなくて、自然とオレの脳内は稀咲が裏で糸を引いているんじゃないかと思い始めた。

「マイキーくん、ドラケンくん…お願いがあります」

 何故かファミレスに呼び出されたオレの前で、お子様ランチを注文してオムライスの上に旗が乗ってねぇってブチ切れてるマイキーくんを宥めているドラケンくんの痴話喧嘩を見せつけられている。オレの問いかけに二人同時にこちらを見てきてその威圧感に苦笑いが溢れる。

「なんだよタケミっち」

 ドラケンくんがホットコーヒーを啜ってオレに聞いた。

「とある不良グループから狙われている姉を救いたいんです。力を貸して貰えませんか?」

 ゴクリと唾を飲み込んだオレは、コト姉のことを話したんだ。他県の寮生の高校に通っていること。ルックスのせいでストーカー被害が耐えないこと。コト姉とは毎日電話で話しているけど、危機感を持っていないから不安だってこと。そして今も他県の暴走族・夜叉の奴等にストーカー被害を受けているから、そいつ等をどうにかぶっ潰して欲しいということ。
 オレの話を黙って聞いていたマイキーくんとドラケンくん。話が全て終わるとマイキーくんの答えを諭すようにドラケンくんが視線を合わせた。クリームソーダーをストローで飲み干したマイキーくんは、「いいよ」と一言呟いた。

「え?いいんですか?」

 そんなにすぐイエスと言われると思っていなかったせいか、マヌケな顔でマヌケな声を漏らすオレ。

「当たり前だろ。タケミっちは大事な友達。姉ちゃんの事はオレが絶対守ってやる。その代わりタケミっち、今夜の集会に参加しろ」

 ニカッと白い歯を見せて笑うマイキーくんに、オレはコクリと頷いた。

 言われた通りその日の夜オレはトーマンの集会場所である神社に行った。黒い特攻服を纏ったトーマンメンバー達にジロジロ見られるから居心地が悪いのなんの。なんならオレを誰だこいつ?と言わんばかりにガン付けてくるから内心ビクビクしている。

「これよりオレら東京卍會は、夜叉を潰しに行く。オレのダチの花垣武道の姉貴が奴等に酷い目に合わされている。ぱーちんの二の舞いにはさせねぇ。事件が起きる前に夜叉潰すぞ!!!」
「押忍っ!!」

 マイキーくんの叫びにこの場にいたトーマン全員がオレの味方についてくれた。こんなに心強いことはない。オレ達溝中五人衆にはできなかったことを、この人達が叶えてくれるんだと。しっかりこの目に焼き付けねぇと。

「宜しくお願いしまっす!!!」

 深々と頭を下げてオレは東京卍會のみんなと共にコト姉のいる他県へといざ出陣した。
 トーマンが潰しにくるって噂がどこからか漏れたのか、他県の夜叉のアジトにつくと、待ってましたと言わんばかりにバットやら鉄の棒やらを手にした夜叉の奴等が薄ら笑いを浮かべてご丁寧に出迎えた。

「クソッ、汚えな、武器なんて持って」
「安心しろタケミっち、あんなもんには負けねぇからオレ等」

 ポンとマイキーくんがオレの肩に手を乗せる。その眼は既に戦闘態勢に入っていたが、あくまで冷静な表情で夜叉を睨みつけている。

「花垣湖鳥に今後一切手を出すな。それがオレ等の条件だ」

 ドラケンくんの言葉に夜叉は当然ながら首を横に振る。どいつもこいつもふざけやがって。コト姉がどれだけ怖い目にあって、恐怖と痛みの中たった一人で死にいくしかなかった苦しみ、悲しみを、こいつらにもあじあわせてやる。

「オレの姉ちゃんに、コト姉に二度と近づくんじゃねぇっ!!」

 全速力で走ってオレは夜叉の奴等に飛び掛かった。それと同時にオレの為に集まってくれたトーマンのみんなが一斉に殴りかかる。
 勝負は一瞬だった。マイキーくんが夜叉の頭を一発蹴り飛ばすと、白目向いて吹っ飛んだ。そのまま意識を失った夜叉の頭を見て「なんだーこいつら、弱すぎんな、なぁタケミっち!」マイキーくんの優しい笑顔にオレはホッと胸を撫でおろした。
 他県の夜叉を傘下に入れたトーマン。トーマンの支配下において、もう悪さは許されなく、夜叉の奴等はその後誰一人としてコト姉に手をかける事はしないと、約束させた。

「マイキーくんに頼んだら一瞬で終わっちまった。オレら溝中五人衆って…すげー弱かったのね」

 一度目のタイムリープで夜叉に返り討ちにあったなんて言えるわけもなく、オレはマイキーくんやドラケンくんに何度も頭を下げてお礼を言った。これならコト姉もこっちに戻ってきて近場の高校に通えるよなぁ〜なんて浮かれていたら、「タケちゃん?」ふんわりとした甘い香りと共に柔らかなオレを呼ぶ声に振り返る。
 キョトンとした顔のコト姉がオレを見てニコリと微笑んだ。

「ずっと探してたんだよぉタケちゃん!携帯も繋がらないし心配したんだからぁ!」

 ぎゅっとオレに抱きつくコト姉は相変わらずいい匂いで、我が身内ながら豊満なその膨らみが貧弱なオレの身体にベッタリとくっつき、思わず頬が緩んだ。あーこの温もり、この気持ち良さ、コト姉だ。

「わりぃコト姉。コト姉のストーカーを撃退したからもう大丈夫だよ。マイキーくん紹介します、オレの姉の花垣湖鳥です」

 その瞬間、それまで笑顔だったマイキーくんの顔が一瞬で固まったように見えた。

◇◆◇

 小2の頃だった。風邪で休んだクラスメートにプリントを届けに遠出をした際、同じ歳ぐらいの男の子達に絡まれて困ってしまったんだ。でもそんな私を助けてくれた人がいて、それがマイキーくんだった。それ以来、何度かマイキーくんの住んでいた地域まで足を運び、妹のエマちゃんも一緒に仲良く遊んだりしていた。でもしばらくすると私を狙うストーカーが現れて、心配したパパとママが遠出をすることを許してくれなくなって、それっきりマイキーくんとは会えなくなった。何の理もなくマイキーくんに会えなくなってしまったけれど、あの日助けてくれたマイキーくんの姿は、歳を重ねた今でもこの胸に鮮やかに残っている。どれ程時が流れても、私を助けてくれたヒーローは、この世にたった一人マイキーくんだけである。
 そして私はマイキーくんにまた会いたいと思っていた。そのマイキーくんが今目の前にいる。タケちゃんの後ろで私を見て固まっているマイキーくんと視線が絡むと薄い唇をゆっくりと開いた。

「…コト?」

 小さく呟かれたマイキーくんの声に私はコクリと頷く。そのままタケちゃんの腕から離れてマイキーくんの方へと歩み寄ると、手を伸ばしてマイキーくんの頬に触れた。あの頃より大人びた表情だけれど、忘れたことなどないマイキーくんに嬉しさがこみ上げる。

「うん!コト。マイキーくん髪の毛伸びたね!」

 金色の柔らかい髪の毛先に指で触れるとマイキーくんが小さく息を漏らす。

「いや他に言うことねぇの?久々の再会なのに…」
「ん?他に?あぁそっか、私も伸びたでしょ、髪の毛」

 おかっぱだった小2の頃よりずっと伸びた髪を指ですくうとマイキーくんの後ろでめちゃくちゃ背の高い変わった髪型の人がブッと笑った。

「マイキーもしかしてこの女?」
「ケンチンちょっと黙ってて」
「え?え?なんすか?コト姉、マイキーくんと知り合いだったの?」

 私とマイキーくんを交互に見ているタケちゃんが眉毛を下げてあたふたとしながらそう聞いた。だから私は「うん!ね!」マイキーくんに同意を求めると「たく、変わってねぇなぁコト。お前はそのまんまだ…」そんな言葉の後、マイキーくんの腕が私の背中に回されてぎゅっと抱きしめられた。

「コトが無事でよかった。もう二度とオレの前から突然消えたりすんじゃねぇぞ?」
「うん。ごめんね、寂しかったよね、マイキーくん。私は元気だから安心して」

 マイキーくんの背中に腕を回して抱きしめ返すと、耳元でマイキーくんの小さな溜息が聞こえた気がした。

 タケちゃんが私を付け狙う不良グループから守ってくれた後、他県の今の高校から私達の地元にある高校に戻ってきてほしいと言われた。パパやママ、タケちゃんに散々心配かけて他県の全寮制の高校に行ってそれなりに楽しく過ごしていたけれど、可愛い弟の頼みを聞き流す事も私にはできなく、それから数日後、地元の高校に転校した。
 毎日のようにタケちゃんのお友達のマコトくんや山岸くんがうちに遊びに来ていたけれど、私は学校が終わると校門まで迎えに来てくれるマイキーくん達の送迎で、放課後はマイキーくん達と過ごすのが日課になりつつあった。
 マイキーくんのバイクの後部座席はとても座り心地がよく、私を乗せる事で安全運転してくれているのが嬉しくて、マイキーくん達と遊ぶことが私の楽しみの一つになっていく。

「コトー!」

 今日も校門前にマイキーくんのバイクが止まっているのが目に入って走ってそこまで行くとポンと頭を撫でられた。
 この街は、トーマンってマイキーくん達の暴走族が仕切っているようで、マイキーくんは私の高校内でも有名だった。

「ねぇマイキーくん、マイキーくんの苦手なことってなぁに?」

 無敵のマイキーって通り名のマイキーくん。無敵ってなにがどこまで?マイキーくんだってきっと苦手なことあるよねぇ?私の頭にマイキーくんのヘルメットを被せてくれるマイキーくんは眉間にシワを寄せて私を見つめる。大きな瞳で一つ瞬きをしたマイキーくんは、「ねぇよ、んなもん」そう言うんだ。

「ほんとに?一つぐらいあるでしょお?」
「いやねぇな。なに探ってんだよ」
「うーん、だってさぁ、マイキーくんだって人間だし、苦手なことあると思うんだよねぇ」
「あったらどーすんだ?」
「ふふっ、あったら私が助けてあげるね!」

 ポンポンとマイキーくんの金色の髪を撫でると白い肌が少し紅くなった気がした。
 マイキーくんは色んな所に連れて行ってくれる。タケちゃんやドラケンくんの前ではマイキーくんはちょっとだけ子供っぽくて、私と二人の時とは少し違って見える。

「ね、ドラケンくん」
「あ?」
「マイキーくんの苦手なことってなぁに?」
「あぁん?」
「聞いても、ないって言うのぉ。でも私、絶対あると思うんだよねぇ」
「…ねぇよ。マイキーがそう言うならマジでねぇぞ」

 ドラケンくんなら知ってるだろうと思って聞いたのに残念。「タケちゃんにはいっぱいあるのになぁ」向こうでマイキーくんとゲームをしているタケちゃんは、負けているのか膨れっ面で可愛い。

「いやコトリさん、タケミっちとマイキー一緒にすんなって」

 ドラケンくんが何故か呆れたような顔で私の隣に座るとソファーがギシッと揺れた。クッションを抱きしめていた私を見下ろすドラケンくんの顔は眉毛が下がっていて。

「おんなじだよぉ、タケちゃんもマイキーくんも。どっちも可愛いもん」
「ふーん。んじゃオレは?」

 伸びてきたドラケンくんの手が私の黒髪をスッと一度撫でた。でも次の瞬間ドラケンくんが後ろに吹っ飛んで「ケンチンてめぇ、なにしてんだよ!」聞こえたマイキーくんの声と、私を後ろに隠す大きな背中が見えた。

「冗談だよマイキー。あまりにコトリさんが鈍感だから」
「黙れよケンチン。コトのこと色々言っていいのはオレだけなんだよ」
「どうしたの?二人共〜。ああわかった!あっち向いてホイの練習かな!笑っちゃダメって…ふふ」

 私がマイキーくんの背中からひょっこり顔を出してそう言えば、タケちゃんが「コト姉、今そーいう感じじゃない気がする…」引き攣った顔でゲーム機の前で正座をしている。

「たく、敵わねぇなコトには」

 クシャッとマイキーくんの手が私の前髪を雑に撫でる。見ればマイキーくんもドラケンくんも笑い合っていて、二人共笑ったから負けだねぇ…と、私も笑った。なんだかんだで、マイキーくんとドラケンくんはとても仲が良い事が見受けられて、そこにタケちゃんと私もいるってことがなんだかとても嬉しいんだ。

 翌日。
 授業終了の鐘が鳴り、みんなが部活やら帰宅やらで教室から出て行く。手を振ってみんなにバイバイをして私も校門へと向かう。今日もマイキーくん達が学校まで迎えに来てくれる。
 毎日悪いよ…そう言ったけれど、絶対にダメだと許してくれなくて、素直に従う私は早くマイキーくんの笑顔に会いたいと胸が高鳴っていた。
 校門前まで辿り着いて辺りを見回すもマイキーくんの姿はどこにもない。代わりに見知らぬ男数人が私を見て口元に笑みを浮かべた。しゃがんで煙草を吸っていたその人達は煙草を指でポンっと足元に飛ばすと立ち上がって私の方へと歩いてくる。脳内に浮かぶマイキーくんの声。

「オレとタケミっち以外には絶対ぇ着いて行くな」

 そう念を押して言われていた。昔から見知らぬ人に何故か付き纏われてしまうから、きっと私になにか原因があるのかもしれない…とは思うけど、でもその原因が分からないから対処もできなくて。その度にタケちゃんやマイキーくんが守ってくれた。自分でも戦えるようにって、一応鞄に忍ばせているフライパンをいつでも取り出せるように手を突っ込む。

「花垣湖鳥さん」

 通り過ぎようとした私を引き止める声に振り返ると、ニッコリ微笑んでいる男達。その中の一人が私に声を掛けてくる。なぁんだ、悪い人じゃないのかも!でも煙草はダメだよね。

「あの、なにか?」
「湖鳥ちゃんが登校する姿、実はずっと見ていたんだ。君、すげぇ可愛いよね、スタイルもいいし。付き合ってる奴とかいんの?」

 わー!褒めてくれた!そう思うけど、この人達のこと知らないし、このまま会話しちゃダメだよね。きっとマイキーくんやタケちゃんに怒られるだろうと思って私は軽く会釈をすると、彼等の前をスッと通り過ぎた。逃げ腰の私を彼等の足音がすぐについてきて、後ろから一人に手首を強引に捕まれた。力強く引き寄せられて顔を上げると、ちょっとだけ気味の悪い笑顔を浮かべたんだ。

「逃がすかよ、何日待ったと思ってんだ!俺と付き合えよ、花垣湖鳥」

 引き寄せる様に手首を掴んだ彼の腕に身体を包まれる。髪に触れる唇に嫌悪感がして私は抱きしめられている腕の中でパタパタと足踏みをして暴れる。

「薄汚ねぇ手でコトに触ってんじゃねぇぞ、クソ野郎ッ!!」

 気づけば私から剥がされた彼はドカッと、数メートルふっ飛ばされていて。見慣れた背中が私の前に立ちはだかっている。

「マイキーくん」
「コト。無事か?」
「うん。ごめんね」
「悪いのはコトじゃねぇ、あのクソ野郎達だ。ちょっとそこに座って待ってろ。オレの気がすまねぇんだ」
「うーん、分かったぁ」

 怖い顔だった。いつもの優しいマイキーくんの表情はどこにもなくて、やっぱり私のこと怒ってるんだって思えた。仕方ないよね、マイキーくんとの約束守らなかったから。あれだけ忠告されていたのに、知らない男の人達に捕まっちゃったから。あぁ私ってほんと馬鹿。喋らなければよかった…後悔しても遅いけど、マイキーくんにちゃんと謝ろう、うん。
 顔をあげると、私を抱きしめた男の人は、マイキーくんと格闘技の練習をしているのか、また数メートル宙を舞った。数人いた男の人達も次から次へとマイキーくんにふっ飛ばされて見える。だから分かったんだ。もしかしてアクション映画の戦闘シーンの撮影かなぁ?って。マイキーくん顔綺麗だからそんなことがあってもおかしくないよねぇ。それだったら私、今からサインとか貰っておいた方がいいかなぁ。後でサイン色紙買いに行こうっと。
 ボスって鈍い音の度に、血で汚れるマイキーくんの拳。あんなに殴ったらマイキーくんの手、痛くなっちゃうよ。馬乗りになって殴られている彼はもう虫の息で、お芝居って本当に殴るもんなのかなぁ〜って思った。でも本気じゃないと視聴者に伝わらないだろーしなぁ。なんの映画だろ?タケちゃんと一緒に観に行かないとだよね。
 呑気にそんな事を考えていたら、ギャラリーが集まってきて、ざわつき始めた。

「いいかてめぇ等!今度コトにストーカーしてみろ。オレ等トーマン全員でてめぇ等を本気でぶっ殺すからなッ」

 プッと唾を吐き出した後、返り血を浴びたマイキーくんが漸く彼の上から降りてこちらを振り返る。慌てて私はポケットからタオルを取り出してマイキーくんの血を拭った。

「あの、怒ってるよね?本当にごめんなさい」
「…コト。頼むからこれ以上不安にさせんな」

 片手で私を抱き寄せたマイキーくんからは、香水なのかとてもいい香りがして、私はギュッとマイキーくんの背中に腕を回す。

「不安にならないで。私はずっとマイキーくんの傍にいるから、ねぇ!」
「たく、どーいう意味で言ってっか分かってんのかなぁコトは…まぁ、いい。つーかコト、今度オレに時間くれよ。真面目な話あっから」
「うーん、時間ってあげられるもん?でもうん、マイキーくんの為ならなんでもあげちゃうねっ」

 やっぱり優しいマイキーくんは、私の肩を抱いてバイクまで誘導すると、ふわりと腰を掴んで抱き上げると後部座席へと座らせた。いつものヘルメットを装着すると、そのまま爆音を立てて走り出す。
 安心できる大きな背中にコツンと頭をくっつけると、マイキーくんのスピードが弱まった気がした。

◆◇◆

 小さい頃からずっと好きだったコト。まさかの再会を果たしたオレは、コトがタケミっちの姉だと知ってなるほどなと思った。どこかオレの兄貴に似ているタケミっちは、コトの弟だったんだと思えば納得ができる。結局オレはそーゆう奴に惹かれちまうのかもしれない。
 幼いながらもオレはコトとこれからも一緒にいたいと、コトと共に生きる未来に希望を抱いていたが、ある日忽然と姿を見せなくなったコトに、何かあったのではと不安を覚えるようになった。それでもコトに会えないまま月日が経ち、時にはコトが住んでいると言っていた場所まで行ってみたりした事もあるが、結局オレはコトの姿を見つける事ができず、ずっと心の中に喪失感、不安感を抱き続けてきた。
 そんなオレの心を一瞬で溶かす笑顔を見せて再会したコトは、やっぱり変わらない笑顔でいつだってオレを安心させてくれる。まだ仕上がっていねぇガキの頃とは違うできあがっている身体に興味がねぇわけじゃない。けどとにかくオレは、いつもあっけらかんとして危機感ゼロのコトをオレだけのもんにしたくて、この世のオレ以外の男には絶対ぇ触らせたくねぇし、コトを見られる事も許せそうもねぇ。だからこの気持ちをちゃんとコトに伝えようと、コトの一番をオレにさせようと、彼女をデートに誘った。溢れ出して止まらないコトへの熱い想いを打ち明けてコトを誰にも渡さないようにしようとケンチンにも協力してもらってデートコースを慎重に選んだ。

「見て見てマイキーくん、すごいよおお」

 でけぇ水槽を前にはしゃぎまくってるコト。普段制服姿のコトを見慣れているせいか、こうして私服のコトはなんつーか目のやり場に困る。マジで成長しすぎ、あの胸…。色々我慢ができるのか一抹の不安を感じながらもオレは手を伸ばしてコトの指をキュッと握った。

「逸れんだろコト絶対ぇ。だから今日はずっとオレの手、握っとけよ」
「ふふ。コトお姉ちゃんがマイキーくんを守ってあげるから安心していいよぉ」

 見当違いな言葉が返ってくる事ももう慣れた。本気でオレの事守ろうとするんだろうと想像したらちょっと笑える。

「オレさ、コトのこと、姉ちゃんだと思ったこと一度もねぇから」

 ぎゅっと絡めた指に力を込めてコトを見つめるも、ニッコリ微笑んだコトはやっぱり見当違いな言葉を返す。

「私の弟はタケちゃんだけだった、えへへ」

 繋がっていねぇ方の手でコツっと頭を叩いてペロリと無防備に舌を出すコトに、オレの下半身がほのかに反応しそうになった。やっぱ色々持たねぇ気がする…。
 色とりどりの魚を見てはしゃぐコトはどれ程見ていても飽きねぇ。つーかコトが隣に居てくれるだけでオレの中にある色んな不安やら黒い衝動も抑えられているんだと思えた。自分じゃどうにもできねぇ黒いモヤモヤが、コトの言葉に小さくなる。コトの笑顔にもっと小さくなる。コトがオレの手をキュッと握る度に消えていく。
 あぁオレ、マジでこいつに惚れてんだと確信せずにはいられねぇ。やっぱりコトは、この先のオレの人生に必要不可欠なんだと思えた。

「マイキーくんこれ触れるって」

 ヒトデがいる水槽を上から見ていたコトは、躊躇うことなく海水の中に手を突っ込んだ。星形の赤いヒトデに触れれば「ンッ、なにこれぇっ!!なんかヌルヌルするよぉ…」なんつーかオレのこと、試してるのか?一々コトの言動がエロくて、指にトロリと垂れる水になんともいえねぇゾワゾワ感が身体の中を駆け巡っている。やべぇぞ、やべぇぞ、告白どころじゃなくなる。
 どーでもいい女なら順番逆でも何でもいいけど、相手はコトだ。まずは想いを伝えてからであって。そもそもこの何考えてっか分からねぇ女が、果たしてオレの告白を受け入れてくれるかが問題だ。下半身モゾモゾの解消はその後だっつーのに。

「オレはいい、触らねぇ」
「一緒に触ろおよぉ、万次郎くん」

 最悪だ。こんなタイミングで名前で呼ばれ、そんな事にオレのモチベーションがグッとあがるのが分かった。たかが名前で呼ばれたぐらいでこんなにも嬉しいのは、この世のどこを探してもコトただ一人だ。誘導されるようにコトに手を預ければ、一緒に海水の中に入れられ、ヌルヌルするヒトデを触らせられた。

「気持ち悪りぃ、なんだよこの感触…」
「ね、可愛いよね!ヒトデさぁん。これ持って帰ってタケちゃんと一緒に飼育したいなぁ〜」

 笑う度に揺れるコトの長い髪から、ほのかに漂うシャンプーの香りがオレの鼻腔を掠めた。今すぐ抱きしめたくなる衝動を抑えるのにオレは全神経を集中させる他なかった。
 館内を手を繋いで歩きながらもオレはコトの横顔を盗み見してはポウッと胸の中を温かくさせていた。今日までコトはどうやって生きてきたのかとか聞きたいことはまだすげーいっぱいある。オレと離れてから嫌なことも沢山あっただろうに、それでも笑顔を絶やさないコトが今、隣りにいる事が奇跡のように思えた。コトを見れば見るほど好きになれる。こんないい女、コト以外はいねぇ。

「なぁコト、あれ一緒に食わねぇ?」

 指差す先にはレストランがあって、一息つこうと誘うとまた笑顔で頷いた。コトを連れて館内に隣接されたレストランに入る。メニュー表を見てあれもこれも美味しそうと迷うコトがただ可愛くて、コトが食べたいって言ったやつ全部注文した。

「マイキーくん男の子だからいっぱい食べてね」

 すげー頼んだくせに少食なコトにそう言われ、腹がはち切れそうなぐらい食ってやった。ケンチンでもいれば軽く食べ尽くすんだろーけど、コトの前でかっこ悪い事はできねぇと腹を括ったオレは、それからしばらく歩くのも億劫だったけど、それも見せずにコトの散策に付き合った。

「これ撮ろーよ、万次郎くん」

 土産を買いたいからって入った店の隅に置いてあったプリクラ機。入ったことねぇけどコトが言うならって二人で中に入る。

「オレ初めてだ撮るの。コトはよく撮ってたのか?」
「うん。なんか知らない人とかもよく一緒に撮ろうとかってね。これさえ撮ればみんなお友達だよねぇ。あ、これ可愛い、これにする!」

 キャラクターとコラボとかで、よく分かんねぇふわふわしたのが画面に出てきて音声に合わせてポーズを決める。つーか知らねぇ奴と撮るなよってツッコミたかったけど、止まらねぇコトの喋りに、それすらも忘れちまう。まぁ今後オレ以外は禁止と言えばコトはちゃんとそれを守るだろうとニカッと笑顔で撮影をした。
 全部撮影し終わると、サイドにある落書きコーナーでコトが可愛らしい丸文字で名前を書いたり日付をつけたり、一言一言コメントを書いていく。それが終わると数秒でコトンと印刷済みのシールが出てきた。

「うわーかっこいいマイキーくん。これ宝物にするね」
「あぁオレも」

 クシャリとコトの前髪に触れると、いい時間になっていた。

「コトといると時間が過ぎるのめっちゃ早えぇな。そろそろ地元に帰るか」
「うんっ!今日楽しいからまだ終わってほしくないねぇ」

 マジで可愛すぎる。頼むから告るまで急かさないで欲しいと願いながらも、オレを見て楽しそうに笑うコトから目が離せずにいる。少なからず今日のオレとのデートを楽しんでくれてるってコトの気持ちが分かってつい頬も緩んだ。
 朝から曇っていた空が淀んだドス黒い雲を連れてきて、水族館をバイクで出る頃にはシトシトと霧雨が降り出し始めた。あくまで安全運転をしながらもオレは地元近くの公園にバイクを停める。目に入った東屋にコトを連れて逃げ込んだ。

「悪りぃびしょ濡れだな、寒くねぇ、――!!」

 コトに視線を移した瞬間、自分の目を疑った。頭部から雫を垂らしているコトは顔をつたう雨をペロリと舌で受け止める。細い首の下の純白のニットワンピースは、薄いピンク色の下着が透けて見えて…豊満なコトの身体の甘い曲線を鮮明に浮かび上がらせている。思わずゴクリと生唾を飲み込む。瞬きをしてそっとコトの頬に手を伸ばせば、ん?と小首を傾げて、あまりにその可愛さにオレは気づけば東屋の木の椅子にコトを押し倒していた。半ば無意識でコトを組み敷くオレはコトの濡れてぺたりと額を隠す前髪を指で乱雑に退かすと、そこに口づけた。

「コトが好きだ。出逢った小1の時からずっとコトだけが好きだ。マジですげー好きなんだ。オレの女になってくれねぇか?」

 自分でも必死というかなんというか、思い浮かべていた告白の言葉と少し違う、でも今の正直な気持ちが言葉を介してコトに届いて欲しいと願う。
 大きな目をパチクリと数回瞬きさせたコトは、少しだけ潤んだ目でオレを見上げて「私も万次郎くんが好き。大好き。万次郎くんの彼女にして下さい」心地良いコトのソプラノボイスが鼓膜を優しく刺激して、オレはそのままコトのぽってりした唇に自分のを重ねた。
 一度触れてしまえばもう後の祭りだった。優しくしてぇと思いながらも自分のストッパーを止める事ができそうもねぇ。オレは着ていたネルシャツを脱ぐとコトの頭部を持ち上げてそこに引かせた。せめてものと思い、それでも手も口も何もかもが止められない。

「悪りぃコト、我慢できねぇ、」

 吐き捨てるように言葉にすれば、コトは頬を紅く染めて「我慢はよくないよぉ、万次郎くん」そう言うと、ちゅっと下からオレの頬に口づける。だから元々少なかったオレの理性なんてもんは、いとも簡単に吹っ飛んだ。
 コトの口内に舌を入れ込んでそのまま歯列をなぞると、コトから甘く吐息が漏れる。耳穴に指を入れて擦るだけでも「ハァッ」と呼吸を荒くするコトに、オレはニットの上から手からはみ出る大きな胸に触れた。ぷるんとハリのある柔らかな胸を揉みしだく。首筋に舌を存分に絡ませながらもオレを下から見つめあげるコトの上目遣いに下半身がカアッと熱くなるのを感じていた。

「コト、ちょっと腰浮かせろ」

 下まで繋がっているワンピースを膝下から捲くりあげてオレは背中に腕を回すと後ろのホックをパチンと外した。顕になった大きな胸に直に触れると、なんとも言えぬその柔らかさに頭がおかしくなりそうだった。そのままオレを見下ろすコトに見せつけるように舌で尖端の周りを縁取るようにレロレロと舐めつける。

「アアアアッンンッ、マイキーくぅんっ」

 屋根があるだけで囲いも衝立も何もねぇこの東屋。外はすげー土砂降りで、雷もゴロゴロと鳴り始めた。もしここに誰かが同じように雨宿りをしに来たら…なんてスリリングを味わう余裕もなく、オレはコトの豊満な胸をチュっと吸い上げることに夢中だった。口に含んで突起を舌で遊ばせると、凝縮するようにピンク色が濃くなって、ピンと上を向く尖端をまた執拗に舐める。気持ちがいいのか脚をカクカクと震わせているコトが可愛くて、指を太腿に滑らせれば「やあっ、万次郎くぅん」オレの名前を呼んだ。

「大丈夫、オレに預けて。気持ちよくしてやるから」

 ハァッと自分でも呼吸があがっているのが分かる。指で胸を弄りながら、コトの凹凸のある身体に舌を絡ませていく。鎖骨、胸、ヘソ…と口づけていくと、コトが「気持ちぃっ」そう小さく呟いた。雨音で消されそうなくらいの小さな声で。
 そのままヘソの穴に舌を突っ込めば、ふわりとコトの腰が浮いた。唇を噛み締めて気持ち良さを堪能しているって顔で肩を揺らせて荒く大きく息を吐き出すコトの太腿まで舌を伸ばす。ツルツルしていて艶っぽい綺麗な脚を少し開かせると、湿って変色している下着が目に入った。指で上からなぞると「ひやああああっ、アンッ…」と、喘ぎ声が雨音にかき消されていく。
 オレは我慢ができず、その場で下着を片脚だけ抜いて熱くたなびくそこに視線を向けた。ピンクの花弁をかき分けて子宮の入口に指を添えれば指先にトロリとコトの愛液が流れた。オイオイ、ヤバイだろこれ。つーか感じ過ぎだろコトお前。ツプと指を子宮内に挿入させるとまたコトが震える。そのままオレは指を一度最奥まで挿入させて中でぐるりと回して更にそこに指をもう一本増やした。人差し指と中指を中で折り曲げたりするだけで、きゅううっと締まる壁にコトは甘ったるい吐息を存分に漏らしてやまない。勝手に顔を出している突起を不意に舌で一舐めすると、コトがビクンと腰を浮かせる。
 視線を向けると「やぁ…なに今のぉ…気持ちいいよぉ…」なんて高揚してして、オレは指を中でかき混ぜながら突起をちゅうと吸い上げた。するとコトはハァハァッ呼吸を荒くして「ンアッー」よく分かんねぇ声をあげると「ああっ、なんか出ちゃうぅっ…」そんな声と共に子宮からビシャビシャと透明の汁が溢れ出てきた。それをオレは指で何度か繰り返す。その度にコトは喘ぎ声を浴びせながら何度も噴射させた。東屋の椅子の下はコトのそれでビシャビシャで、オレの下半身も限界だった。

「コト、もっと気持ちよくしてやるから」
「んうっ、おかしくなっちゃうよぉ…まんじろくぅん…」

 ふわりと手を伸ばすコトを抱きしめてオレは舌を絡める濃厚なキスをする。そのままベルトを外して履いていたデニムを下ろす。完全にそそり勃っている自身を手にコトを椅子の上に四つん這いにさせると、最早オレの尖端から漏れている透明の汁も気にせず後ろからコトの中に挿入させた。
 燃えるように熱いコトの中は、オレを窮屈に締め付ける。ピタリとくっついて離さないとでも言うかのように締め上げられてまだ動いてさえいないのに昇天までが近いかもしれねぇと思えた。

「コト、好きだ。マジで愛してる」
「私も愛してる」

 それが合図、後ろからコトに覆い被さるように腰を出し入れするとコトの大きな胸がこれでもかとユサユサ揺れている。それを見逃すことなく手で押さえるように揉むとコトがぷるぷると震えた。それだけでコトの中はすぐにまたきゅううっと鳴いてるように締まって、それがめちゃくちゃ気持ちがいい。こうしてコトを抱いてしまったらもう最後、コト以外の女には反応すらしねぇんじゃないかって思えた。コト以上にオレを喜ばせられる奴はいねぇと胸を張って言える。
 後ろからパンパンと肌を擦らせるオレ達の耳には、ザァザァと地面を叩きつける雨音と、近くなってきた雷のゴロゴロ音。それから肌の擦れるなんともいえねぇ音に紛れて、接合部から漏れるくちゅりとした水音と、抑えることのできねぇオレ達の荒々しい吐息だけが鼓膜に響いている。胸の尖端を指で摘むとまたコトが悲鳴をあげた。オレはコトの耳元に顔を寄せて「ヤバイ、イキそう」そう伝えた。
 コトはもう言葉にならなくてコクコクと頷くだけ。そのまま体制を変えるように身体を起こしてコトのケツに手を置いて後ろから更に強く突く。目の前に迫ったゴールに一直線に走れば、数秒でオレは動きを止めた。

「アアアッ、熱いよぉっ、万次郎くんのぉっ…」

 コトの中に欲を思いっきり吐き出すと、オレの身体はスッキリとしていて、心地良さの中、こちらを振り返るコトが繋がったまま椅子にケツを預けたオレの上に正面から抱きついてくる。ラッコ座りでオレの背中に腕を回すコトはそのままオレに寄りかかって心音を聞いているのか、目を閉じている。

「コト、大丈夫か?無理させて悪かったな」
「大丈夫、私マイキーくんより歳上だし」
「あ?一歳しか変わんねぇだろ」
「ふふふ、ん、そぉだねぇ。ねぇマイキーくん、マイキーくんと私今、一つだねぇ」

 言ってること分かってんのか?コトは嬉しそうに笑っている。出し切ったオレのはコトの中でしょぼくれていたのにも関わらず、その言葉だけでまた角度をあげてくる。ギュッとコトを抱きしめると胸がオレに当たってそれだけで身体は心地良さを求めてしまう。

「コトあのさ、このままもう一回シてもいい?」
「うん、いいよぉ、何回でもぉ」

 本当にこいつ分かってんのか?って思うけど、コトの顔を覗き込むように口づければ、迷うことなくそれにちゃんと応えてくれる。柔らかい胸に手を当てればハァッと甘く吐息を漏らす。
 オレは東京卍會の総長で、不良の中でも有名だ。隣にいればそれなりに危険は伴うのかもしれねぇけど、それでもこの幸せな時間だけは、誰にも邪魔させねぇ。コトが隣りにいる限り、オレはオレでいられる。下から腰を打ち付けるとコトが髪を淫らにさせてオレを小さく呼んだ。

―――完。