社会人のバレンタインなんてものは、人生の中で重要なイベントではない。
でもやっぱり意識しちゃうのは、女のサガなんだろうか。
「ゆせくーん!お返しのデートどこ連れてってくれるの?」
甘ったるい声と同時にその男、八木勇征の腕に絡みつく知らない女。
「え?俺デートなんて言った?記憶にないけど。」
「言ったよ、言ったぁ!もー約束したのに!」
「…そっか、うんごめん。えっと、どこ行きたい?」
「あのね、」
…すげぇ腹立つ。女も八木も!てかここ会社!色恋する場所じゃないっつーの!
なんて心で思っていても当たり前に声に出す事なんてできず、仕方なく私は空気が抜けるように社内カフェを出て行った。
こんな日は決まって嫌な事が起きてしまうわけで…
定時間際、かかってきた電話。
「ゆき乃、関西支社の山下さんから。」
同期の加納嘉将が受話器を私に向けてそんな言葉。
あからさまに嫌な顔した私を見てクスッと笑うとポンっと頭を撫でられた。
ヨッシーのこういうスキンシップはちょっとズルい。
私は勘違いしないけれど、ヨッシーを知らない女は勘違いするんだろうなぁって。
「一ノ瀬です。お疲れ様です。」
【ゆき乃ちゃんすまんなぁ、ちょっと頼まれてくれへん?】
頼まれてくれまへん!なんて思いつつも「なんでしょう?」とか言っちゃう自分、馬鹿。
でもこれが仕事だからしょうがない。
…電話を切って溜息をつくとヨッシーが笑顔で「付き合うよ!」親指と人差し指をクイッと出して口元で動かす。
この後飲みに行こうって合図に小さく頷いた。